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好きです。パンツください。  作者: 若めのわかめ
23/24

わらしべ長者

 「あ、当たった」


 身を屈めてジュースを取りながら呟いた。


 「すごいね若菜、今日ついてるよ」


 友人が『7777』と表示されたディスプレイを見て呟く。

 どうやらもう一本ジュースをもらえるらしい。

 でも、もう既に一本持ってるから間に合っている。

 どうせならお金が返ってくればいいのに、なんて考えていても仕方がない。


 「美香にあげるよ」


 「ほんと!? ラッキー!」


 ご機嫌になりながら、友人の美香はミルクティを選んだ。

 私の手柄じゃないのに、少しだけいいことをした気分。


 「代わりと言ってはなんだが、ソナタにこれをさずけよう」


 何かのドラマの真似なのだろうか、胡散臭い口調で彼女はクリームパンを差し出した。


 「いいの?」


 「もうお腹いっぱいだし、太ったら嫌だしね。私これでも女の子だから」


 ピースサインを目に添えてウインクをしてくる。

 彼女にとって女の子らしいポーズといえばこれなのだろうか。

 どう考えても古いだろう。

 それに私も女の子なんだけど、というツッコミはあまり意味が無いと思い、そのまま飲み込んだ。


 「ありがとう、放課後にでも食べようかな」


 「太るよ?」


 「あんたのせいでしょうが」


 軽く睨みつけるが、もちろん本気ではない。

 彼女の意地悪には慣れているし、そんなことが言えるのは仲のいい証拠だ。

 軽く受け流して教室へ戻ることにした。



───────────────────



 廊下を歩いていると、丸い物体が見えてきた。

 なんだろう、と目を凝らすと人が頭を抱えてうずくまっていた。

 いくつかの事態を想定して、最悪のものでないことを願い、駆け寄った。


 「ちょっと大丈夫!? 先生呼んでこようか!?」


 「夏野か? いや、大丈夫だ」

 

 丸い物体の正体は、クラスメイトの沢木だった。

 彼は中学からの知り合いで、それなりに仲のいい男友達。


 「こんなとこでなにしてんのよ」


 滅多に人の通らないゴミ捨て場の前に彼は居たので、『こんなとこ』という表現はかなり妥当だ。


 「お昼ご飯忘れてさ、何かないかなと思って・・・・・・」


 「それでゴミ捨て場なんてあんたバカでしょ」

 

 気を置く必要がないから、ついつい言葉に棘がついてしまう。

 それでも彼は気にする様子もなく、「助けてくれ」と涙目で見つめてくる。

 自分のことでいっぱいなのだろう。

 私はポケットに入れていたクリームパンを差し出した。


 「私いらないから、食べる?」


 美香がこの場にいないけど、もう私のものだから問題はないだろう。

 すると彼は手を胸の前で組み、私を崇拝するように呟いた。


 「マリア様・・・・・・」

 

 「誰がよ」


 鋭いツッコミを入れて、少しだけ照れ隠し。

 こうでもしないと間が持たないから。

 

 彼は勢いよく封を開け、パンに貪りつく。

 なんだかお腹を空かした犬に餌をあげた気分。

 でもまあ、自分に必要のないものが人の役に立ってよかった。

 少しだけ頬が緩む。

 すると彼がパンを半分食べた時、何かを思い出したように声をあげた。


 「お礼にこれいるか?」


 彼が差し出したのは、手のひらサイズの土偶である。

 これ絶対にゴミ捨て場から出てきたものでしょ。

 持ってるだけでバチが当たりそう。

 でもなぜだか貰っておいた方がいい気がして、顔を引き攣らせながら「ありがとう」と言って土偶を受け取った。

 一番の好物のようにパンを食べる沢木を横目に、教室へと向かった。



───────────────────


 

 教室への廊下を一人で歩く。


 「でもこんなもの欲しがる人なんて・・・・・・」


 手の中の土偶を見ながら呟く。

 所々ハゲており、ガラクタの類になりかけている。

 落とし物として職員室に持っていこうか、なんて考えていた時、



 「それはまさか!!!!!」


 いた。

 今の時代に土偶を欲しがる高校生の方が。

 土偶より珍しい気がする。

 声の方へ振り返ると、一条柊耶(いちじょうとうや)が珍しくテンションを上げて駆けてきた。

 彼は結人の親友であり、3人で遊んだりするそれなりの仲だ。

 男友達の中でも結人の次に親しい人物だけど、未だに掴みどころのない少し扱いにくい人物。

 そんな普段は冷静な彼が、笑顔でこちらに駆けてくる光景には、頬を緩ませるものがあった。


 「どこでそれを?」


 「まあ色々あって・・・・・・」


 ゴミ捨て場のお古だなんてさすがに言えない。


 「それ僕が半年前に作ったものなんです。自分をイメージした像なんですよね。お気に入りだったんです」


 土偶とか言ってすいませんでした。

 あとゴミ捨て場にあったって言わなくて本当に良かった。


 「よろしければ頂けませんか?」


 「どうぞ・・・・・・」


 罪悪感で手が震える。

 一方彼は今にも飛び跳ねそうなほど喜んでいる。


 「若菜さん、ちょっと待っててください」


 すると彼は上機嫌のまま、教室へ入っていった。

 そして少しすると彼は袋を下げて帰ってきた。


 「お返しと言っては何ですが・・・・・・」


 そう言って差し出したのは、ピンク色のスクールセーター。

 なぜこんなものを彼が持っているのだろう。


 「お手伝いさんが間違えて買ってきてしまって・・・・・・ 良ければどうぞ」


 かなりうっかりなお手伝いさんらしい。

 お手伝いさんという言葉からわかる通り、彼の家はお屋敷と言っていいほどに大きく、俗に言うお金持ちというやつだ。

 そんな彼が買うセーターはかなり上等のものに違いない。


 「それではまた」


 恭しく一礼して教室へ戻っていく。

 同じ教室だからすぐに顔を合わせることになるのに。

 時計を見ると、昼休みはあと10分ほど残っている。

 このまま教室に戻るのも気まずいから、セーターの試着でもしよう。



─────────────────────



 「ちょっとキツいかなぁ」


 トイレの鏡の前で呟く。

 サイズはピッタリだと思ったんだけれど。

 せっかくの高価なセーターだし、無駄にはしたくないなー。

 なんて考えていると後ろに人が立っているのが鏡越しに見えた。


 「あっ、ごめんなさい」


 「いいけど・・・・・・ 何してるの?」


 尋ねてきたのは風紀委員長の秋野胡桃(あきのくるみ)先輩。

 年上で風紀委員長の彼女に突然話しかけられると、どうしても堅くなってしまう。

 どうやらそんな私のことを察したようで、彼女は微笑みながら呟いた。


 「別に注意した訳じゃないわよ。なんだか困った顔をしてたから」


 警戒を読まれて少しだけ羞恥心を感じる。

 黙り込むのも失礼だから、現状を話すことにした。


 「セーターを貰ったんですけど、サイズが合わなくて・・・・・・」


 「別にそんなことはないけれど、どこがキツイの?」


 「胸です」


 「・・・・・・・・・・・・」


 突然彼女は黙ってしまった。


 なにかまずいことを言ってしまったかな。

 セーターで強調された私の胸を睨んでる気がする。

 もしかしてセーターが欲しいのかも。

 このまま着ないで置いておくのも勿体ないし、風紀委員長にあげよう。


 「私にはキツいんで、先輩いりますか?」


 「・・・・・・嫌味?」


 「なにがですか?」


 「・・・・・・無自覚ならいいけど」


 彼女は大きくため息をついた。

 またまずいことを言ってしまったらしい。

 もっと言動を引き締めよう。


 「悔しいけどピッタリね」


 セーターを着た彼女が腑に落ちない顔で呟く。

 似合ってるのに何が気に食わないんだろう。

 全くわからない。


 「着心地もいいし貰おうかしら」


 鏡の前でくるりと一週回っている。

 お気に召したようで一安心。


 「どうぞ、私が持ってても仕方ないし」


 「じゃあ、ありがたく頂くわ」


 少しはにかんでくれた。

 ずっと笑っていれば、風紀委員長も可愛いのに。

 なんて口にしたら、またご機嫌斜めになるような気がするから言わないけれど。


 「私も必要ないものがあるんだけど、欲しいならあげるわよ」


 そう言って彼女がポケットから取り出したのは、大きな赤いリボンがついた髪ゴムだった。


 「風紀委員長の私が付けるには相応しくないでしょ」


 私は風紀委員長の黒髪にとても似合うと思うんだけど、確かに風紀委員長が付けるには派手すぎるものだった。


 「あなたじゃなくても、誰か似合いそうな人にあげてもいいし、どうかしら?」


 そう言って髪ゴムを差し出される。

 『誰か似合いそうな人』という言葉で、すぐに思い浮かんだのは桜乃ちゃんだった。

 綺麗な長い髪に真っ赤なリボンが付いた桜乃ちゃんは、想像しただけで見惚れてしまいそうだ。


 「わかりました。友達にプレゼントします」


 リボンを受け取り、少し眺めてからポケットに大事にしまった。

 

 「もうすぐチャイムが鳴るから、あなたも早く戻りなさい」


 彼女は足早に出口まで向かったが、突然振り返った。


 「友達、喜ぶといいわね」


 そう言って微笑んで出て行った。

 今日は風紀委員長の意外な1面が見れた。

 いや、これが普通の彼女なのかもしれない。

 意外なんて気持ちは、勝手に自分が築いていた彼女の像があったからだ。

 もっと仲良くなれたら良いな、なんて思いながら教室へ戻った。



─────────────────



 6時間目の終わりを告げるチャイムが鳴った。

 今日は色々なことがあったから、1日がいつもより長かった気がする。

 担任がひと通りの連絡をして、挨拶とともに、教室の空気が融解した。

 私はポケットの中にある髪ゴムを確認して、教室を出た。



 校門に背を預けて彼女を待つ。

 タイミングが悪くもう帰ってしまったかもしれないけれど、絶対に彼女は来るだろう。

 根拠はないけれど、そんな気がした。

 なんて考えていると周りの空気が少し変わった。

 男女問わず視線が1点に集中している。

 その中心には春宮桜乃(はるみやさくの)が居た。

 やっぱり来てくれた。

 彼女は私の姿を見つけると、こちらへ駆けてきた。


 「若菜先輩! なにしてるんですか?」


 尻尾を振る子犬のように興味津々で素朴に問いかけてくる。

 なんでこんな可愛い子に懐かれているのか未だにわからないけれど、私も彼女のことが好きだし、あまり考えても仕方ないのかな。


 「桜乃ちゃんを待ってたの」


 「どこか行くんですか?」


 私は答える代わりにポケットからリボンを取り出した。


 「これ、プレゼント」


 「いいんですか!? でも私誕生日じゃないですよ?」


 「知ってるよ。友達から貰ったんだけど、私には似合わないから」


 彼女は嬉しそうにリボンを手に取った。

 そして満足いくまで眺めてから、長い髪を束ねてポニーテールにした。

 思った通り、すごく似合う。

 赤いリボンが彼女のあどけなさを引き立たせて、可愛さを強調している。


 「どうですか?」


 「すごく似合ってるよ。お人形さんみたい」


 お世辞の常套句が、彼女の前では本物になる。

 そんな魅力があった。


 周りの視線が一層強くなり、彼女は居心地が悪くなったのか、


 「先輩、一緒に帰りませんか?」


 そう言って私の裾を掴んだ。

 一瞬胸が高鳴って、思考が停止しそうになったけれど、なんとか言葉で肯定を示す。


 危ない危ない、私が男なら絶対好きになってた。



 帰り道で桜乃ちゃんに今日あった事をひと通り話した。

 すると桜乃ちゃんは驚きながら呟いた。


 「なんだかわらしべ長者みたいですね」


 「わらしべ長者?」


 思わず聞き返した。

 なんとなく聞き覚えのある言葉。

 昔話かなにかだっけ。


 「始めはあまり価値のないものから、物々交換をしていって最後には自分のお願いしたものが手に入るんです」


 「あー、なんかそんな話だったかも」


 思い出した、ちょっとだけ。


 「若菜先輩は何が欲しいですか?」


 「私? 特にないかなー。桜乃ちゃんは?」


 「結人先輩のパンツです」


 「・・・・・・ほんとに好きなのね」


 好きで済ませていい問題じゃない気もするけど。


 そんな話をしてる間に、桜乃ちゃんの家に着いた。

 手を振って自分の帰路につこうとしたら、桜乃ちゃんに止められた。


 「私もなにかお返しします。手ぶらで帰したらなんだかバチが当たりそうなので」


 笑いながらそう言って家へと入っていった。


 別に気にしてなかったのに。

 でももし逆の立場だったら、私も絶対お返しあげてたな。


 少ししてから桜乃ちゃんは白い長方形の箱を手に出てきた。


 「シュークリームです。これならギリギリセーフでしょう」


 「基準がわからないけれど・・・・・・ せっかくだし貰っておこうかな」


 ここで拒むと私にバチが当たりそうだし。


 「最後どうなったか、また教えてくださいね」


 桜乃ちゃんはそう言って満足気に家へ入っていった。


 これで何もなしに家に帰ることは出来なくなった。

 変なプレッシャーが一つ増えてしまった・・・・・・



─────────────────



 結局何も起こることなく、家が見えてきた。

 桜乃ちゃんになんて言おう・・・・・・




 『若菜先輩は何が欲しいですか?』




 さっきの桜乃ちゃんの言葉が頭でループしてる。

 自分のお願い──自分の本当に欲しい物ってなんだろう。

 あまり真剣に考えたことがないし、考えたところで答えは出ない気がする。


 なんてあれこれ考えてる間に家に着いてしまった。

 シュークリームをじっと見つめる。

 まあ桜乃ちゃんも遊び半分でくれたんだろうし、明日に味の感想でも言おう。

 たまたま当たったジュースがシュークリームになっただけで万々歳だ。

 しかもこのシュークリーム、ちょっと良いやつそうだし。

 なんて考えながらドアを開けると、


 「おお、おかえり」

 

 「・・・・・・なにしてるの?」


 玄関に結人が居た。


 「実家からリンゴが届いたらしくて、家に御裾分けしてくれたのよ」

 

 お母さんがビニール袋に入ったリンゴを軽く振りながら答えた。


 なるほど、先を越されたか。

 シュークリームがリンゴになったところで、大したオチにはならないし別にいいけど。


 靴を脱ごうとした刹那にふとある考えがよぎった。


 今このシュークリームをあげたら、何を返してくれるんだろう。

 小さい頃からずっと傍にいた結人なら私の本当に欲しいものを知ってるかもしれない。

 私の欲しいものをくれるかもしれない。




 結人が軽い別れの言葉を告げて帰ろうとした時に、


 「待って」

 

 つい止めてしまった。


 「・・・・・・どうした?」


 訝しげに尋ねてくる。

 少し声色を間違えたかも。


 シュークリームを結人に差し出す。


 「あげる。甘い物好きでしょ?」


 「シュークリーム? おお、ありがとう」


 袋を受け取って嬉しそうに微笑んでいる。

 そんな結人の顔をじっと見つめる。


 「・・・・・・」


 「・・・・・・なに?」


 睨まれていると勘違いしたのか、「俺、なにか悪いことした?」というニュアンスで問うた。


 「お返しは?」


 「さっきのリンゴじゃ駄目か?」


 「駄目じゃないけど・・・・・・」


 そう、別に駄目じゃない。

 端から私の変な期待が悪い。

 少し困らせてしまったことに罪悪感を感じる。

 はい、もうこの勘違いはお終い。


 「また明日な」


 私のちょっとした決断も知らず、結人はそう言った。

 特に何も考えていないのだろう。


 「明日くれるってこと?」


 「また明日学校で会おうってことだけど」



 また明日、か。



 「ふふっ、なるほどね」


 「・・・・・・おかしなこと言ったか?」


 「別に、なんにも」


 「・・・・・・じゃあな」


 腑に落ちない顔で結人は玄関を出た。


 私は結人の出て行った扉を眺めていた。



 私の欲しいものが見当たらなかった理由。

 それはきっと、もう持っていたから。


 彼とどうなりたい訳じゃない。

 『また明日』あなたに会えるだけでいい、そんな些細な願い。

 



 そんなことを遠回しに教えてくれた神様は、きっと意地悪だ。


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