持ち物検査
久しぶりの投稿です。
私事ですが、受験勉強もラストスパートに入り、あまり執筆をする時間を取れずにいます。
ネタはあるので、空いた時間を見つけては文字に起こしています。
どうか「こいつエタりやがった」と思わずに、読んでやってください。
3時限目と4時間目の間の休み時間に校舎の3階──2年生のフロアに相応しくない人物が彷徨いていた。
春宮桜乃である。
彼女は校内一の美少女なので、学校内では有名人であり、自然と周りの視線を集めてしまう。
彼女は1年生であり、ホームクラスは4階に位置している。
3階に居ることは珍しく、そのぶん周りの注目を集めている。
桜乃の視線は落ち着くことがなく、手に袋を下げて、なにかを探している様子。
彼女が3階にいる理由が、視覚的にある程度推測ができた。
故にそんな彼女の奇行を訝しむ者も少なかった。
桜乃が探していたのは、もちろん結人である。
しかし教室には誰1人おらず、結人の所在を尋ねる相手もいなかった。
待っていた桜乃だったが、休み時間は残り僅かとなった。
そこで桜乃は、どうやら次の授業は体育で戻ってくる様子はない、と気づいた。
また出直そうかと思ったが、手に持っている袋──結人へのプレゼントをカバンの中に入れておいた方が喜んでくれるのでは、と覚った
僅かの逡巡の後、時間があまりないことに気づき、プレゼントをカバンに入れた。
それが後に事件の契機となることも知らずに。
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昼休みに入って5分程してから、結人は教室へ戻ってきた。
そこで思わず目を見開いた。
普段は他教室や部室で昼食を摂っているクラスメイトも含み、全員が集合していたからだ。
教卓に立っているのは見慣れない人物。
黒のロングヘアの前髪は水平に揃えられ、可愛らしさよりも美人という印象を与える風貌。
結人は彼女のことを知っていた。
秋野胡桃、風紀委員長である。
そんな彼女がこの教室が訪れる理由は、おそらく年に数度ある持ち物検査だろう、と察しをつけていた。
既に数名の男子生徒が、携帯ゲーム機や漫画本を没収されている。
結人は鞄の中身を頭に巡らせたが、普段から校則違反と看做されるような物は持ってこないようにしているので、特に目立つものもなく、杞憂かと自分の席に着いた。
前の席から徐々に風紀委員長が近づいてくる。
こういう時、無罪だとわかっていながらも緊張してしまうのが人間の性である。
結人は自分に回ってくるまでの時間をもどかしく感じていた。
とうとう風紀委員長が自分の席に達した。
結人が机の横に掛けていた鞄をおもむろに取り出す。
その時、覚えのないビニール袋の音がした。
しかし結人は不審に思うことなく、鞄を机に置いた。
若菜が「この本面白いから読め」と言わんばかりに、脅迫気味に彼女のお気に入りの本を、勝手に結人の鞄に入れていることがしばしばあるので、おそらくそれだろうと推し量っていたのである。
胡桃は結人の顔を見た途端に、ピクリと眉を動かし、動作は落ち着かないものになっていた。
「真田結人君・・・・・・?」
「え、ええ・・・・・・」
強ばった声での問いに、返答はぎこちないものになってしまった。
前列で私情を尋ねることをしていなかったので、予想外であったというのも一因だ。
返答の途端に彼女の行動は挙動不審と形容するに相応しいものになっていた。
目を泳がせ、顔を赤らめている。
胡桃は震えた手で鞄を探ろうとする。
その緊張は結人にも伝染っていた。
何冊かの教科書とペットボトルが出されていく。
鞄の中身を他人に出されることに、もどかしさを感じながらも、妙な緊張は徐々に解れていった。
そして最後に彼女が取り出したのは、未確認のビニール袋。
形から推測して、やはり何かの本で間違いない。
彼女がちらと中を覗く。
すると彼女の口と瞳孔が瞬く間に開いていった。
「な、なにこれ・・・・・・?」
「友達から借りている本です」
穴を穿たんばかりに結人を驚愕の目で見つめている。
そして彼女は現実から目を逸らすように袋の口を閉じた。
「その友達とはどなた・・・・・・?」
結人は斜め後ろにいた若菜を指さした。
「女の子!?」
胡桃はこめかみを押さえながら、後ろへよろめいた。
そして体を机で支えながら、視線を若菜へ移した。
「あなたはこういうプ、プレイが好きなの・・・・・・?」
突然の問いに状況が飲めない若菜だったが、必死に思考を巡らせた。
(プレイ? 何かのゲームかしら)
「たまにしますね」
表情を崩さずに答える若菜に、胡桃は動揺を隠せなかった。
「複数回しているのね・・・・・・」
若菜の開き直りっぷりは、胡桃が自分が間違っているのかと勘違いするほどだった。
胡桃は注意を再び結人に移した。
結人は腑に落ちた顔をしていた。
(プレイ? この前の人生ゲームか)
「この前はこいつからたくさんお金もらいましたよ」
若菜が運悪く財産(もちろん偽物の)を支払うマスに止まりまくったことを笑いながら話す結人。
「あなた自分を売ってるの!?」
胡桃はそれを不純な意味で受け取った。
とまあ3人は致命的な齟齬をきたしていた。
風紀を乱すどころか犯罪の臭いがする発言に、胡桃の頭はショートしていた。
耳を塞ぎたくなる状況に、厳重注意を促し、この後の教師との会議で俎上にあげようかと考えていた胡桃に更に追い打ちをかけるように若菜は呟いた。
「あのお金でムチが欲しかったんだけどな・・・・・・」
もちろん若菜が言っているのは、RPGゲームの話である。
「そっちにも精通が!?」
呆れきった胡桃は、若菜に目をくれることも出来なかった。
一方結人は若菜の発言に疑問を覚えていた。
(ムチ? 人生ゲームにそんなもの出てきたか?)
「ムチってあったか?」
「ムチってしていて温かい!?」
疑心暗鬼になっている胡桃は、強引な脳内変換をしていた。
会話の文脈は彼女にとってはもう意味を成さず、2人の発言が全てが卑猥なものに思えた。
こればかりは誰が悪い訳でない。
強いて言うなら元凶の桜乃であろうか。
「ひとまずこれは返します・・・・・・ 放課後に生徒指導室へ来てください・・・・・・」
本能的な恐怖を覚え、逃走本能に駆られた胡桃はひとまずこの問題を棚上げすることにした。
胡桃は重さに耐えられなくなった項垂れた手で、袋を結人へ返した。
そして強風を連れ添うほどのダッシュで廊下へと飛び出していった。
涙の欠片を散らしながら。
結人はそんな胡桃の姿を見て、違和感を覚えていた。
その違和感をのぞくように、袋の中を覗いた。
『気になる彼女を雌犬にする方法100』
強烈なタイトルと共に、首輪をされた女性が写された表紙。
結人はその刹那に全てを察した。
考えるより先に動いていた。
廊下に飛び出し、まだ残っていた走る胡桃の背中に向かって叫んだ。
「違うんです!!! 勘違いです!!!」
廊下の端に居た胡桃の肩が跳ね、背を向けたまま止まる。
結人に続いて廊下に頭を出した若菜が叫んだ。
おそらく後ろから覗き込んだので、イラストが見えず、文字だけが目に入ったのだろう。
「私ネコ(のほうが好き)なんですけど!!!」
「話をややこしくするな!!!!」
結人のツッコミも虚しく、胡桃は先程より速度を増して階段を駆けていった。
そこでチャイムが鳴り、どうすることも出来ない結人は、膝から崩れ落ちた。
放課後、生徒指導室へ赴いた結人と若菜は、必死の弁解で、犬の教育本と勘違いして買った、とかなり強引な言い訳をする羽目になった。
普段の真面目な態度から「次は無いぞ」という教師の脅しだけで済んだのだが、2人の忸怩はしばらく癒えなかった。




