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好きです。パンツください。  作者: 若めのわかめ
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お昼のお誘い

 真田結人(さなだゆいと)は安心していた。

 昨日彼は校内一の美少女に告白をされたので、翌日学校で軽く騒ぎになるのではと思っていたのだ。

 だがそれは杞憂だったようで、教室は至って普通。

 いつも通りの友達からの挨拶に、結人は胸をなで下ろしていた。


 そんな彼の平穏は昼休み、悩みの種そのものに打ち砕かれることになった。

 彼女が、校内一の美少女春宮桜乃(はるみやさくの)が結人を訪ねて教室に来たのだ。

 彼女が教室に来ただけでもちょっとした事件なのに、ましてや結人を訪ねて来たということにクラスメイトは驚きを隠せずにいた。


 「先輩、一緒にお弁当食べませんか?」


 俺の前に来て二つのお弁当を差し出す桜乃。

 誰が見ても桜乃が結人に好意を寄せているのは理解できるだろう。

 そんな状況を見て黙っていないのが女子。

 端では黄色い歓声があがり、周りにいる女子はなぜか頷きながら俺の顔を見ている。

 断れるはずがない。

 俺は意識的に笑顔を作り了承した。(意識しなければ作れなかった)


 2人は屋上で昼食を取ることにした。

 あの雰囲気では教室で食べることも出来ないし、他に場所がなかったのだ。

 屋上には幸い誰もいなかった。

 初夏の真昼間にわざわざ屋上で食べたがる物好きはいないのだろう。

 2人は運良く日陰になっているベンチに腰掛けた。

 

 彼女は2人の間に2つのお弁当を広げた。

 それにしても急なお誘い。

 普段結人は弁当を持ってきているのだが、この日は家庭の事情で食堂のパンでも買って済ますつもりだったのでむしろありがたいと言えばありがたい。

 しかし昨日告白された女の子に、しかも告白された場所で手作りのお弁当を渡されたら、さすがに反応に困るのが普通だろう。


 「どうぞ、先輩」


 2つの色鮮やかなお弁当。

 メインのおかずは唐揚げだった。

 昨日あんな特殊な告白をされたので、てっきり料理が下手というオプションも付いているのかと少し覚悟していたのだが、大丈夫そうだ。

 味見はまだなので、あくまで見た目の話だが。


 「はい先輩、あーん」


 彼女は箸で唐揚げを取り俺の口元まで持ってくる。

 

 「いいって、自分で食べるから」

 「先輩、あーん」


 女の子のゴリ押しには逆らえず、仕方なく口を開ける。

 彼女は嬉しそうに唐揚げを俺の口に運ぶ。


 めいっぱい唐揚げを頬張る。

 なかなか美味い。

 中の肉は柔らかく、外の衣はパリパリで、塩胡椒でしっかりと味付けされている。

 その唐揚げだけで彼女はそれなりに料理が出来るのだろうと判断できるほどだ。

 

 「・・・・・・うまい」

 「ありがとうございます!」


 両手を膝の上で重ね満面の笑みを浮かべる。

 彼女は黙っていれば美少女なのだが、残念なところが致命的なのだ。


 「先輩のち〇こ見ちゃった・・・・・・」

 「頭に喉をつけろ、喉を」


 そう、春宮桜乃は変態なのである。

 昨日告白されたというのも、付き合ってくださいという内容ではなく、パンツをくれといった内容だった。

 結人はお慕いしているという気持ちを告白されたのではなく、性癖を告白されたと思っている。

 もちろん断った。

 しかし結人が断ったのは彼女の要望であり、彼女自身ではない。

 なので桜乃は厳密にはフラれたわけでもないので、お構い無しに結人と話すことが出来るのだ。

 例えフラれていたとしても、お構い無しにアタックしてくる彼女の姿を想像するのは容易いが。


 「ごちそうさま、美味しかった」

 「そんな、私のものが美味しかったなんて」


 彼女は赤らめた頬に手を当て左右に振る。

 噛み合っているようで噛み合っていない会話には、結人はツッコまないことを決めた。


 昼休みが終わるまで少し時間があるので、話題作りじゃないが、結人は素朴な疑問を彼女に尋ねた。


 「どうしてお弁当作ってきてくれたんだ?」

 「先輩に私の愛情と色んな汁が入ったお弁当を食べて欲しかったからです」

 「汁ってなに!?」


 結人はぺっぺっと吐き出す仕草をする。

 もう手遅れなのだが。


 

 「冗談ですよ。先輩とお話する時間が欲しかったからです」


 結人ももちろん冗談だとわかっていた。

 いや、冗談であれと願っていたというほうが正しいかもしれない。

 もっと邪な理由があるかもしれないと思っていた結人は彼女の可愛らしい動機にほっとした。


 「ならこれからも作ってくれるのか?」

 「私はそのつもりですけど、毎日は先輩にも迷惑だと思うので週一にしようと思ってます」


 彼女の口から迷惑という単語が出るとは思わなかった。

 迷惑だと思っているならまずあのセクハラを辞めてくれと言いたかったが、彼女の言葉に遮られた。


 「今日が木曜日なので毎週木曜日でどうでしょう」

 「まあそれなら・・・・・・」


 こうして毎週木曜日に彼女のお弁当を一緒に食べることが決定した。

 それは同時に毎週木曜日に彼女からセクハラを受けることを意味している。

 今からでも気が重い。


 「はあ・・・・・・」


 結人は前かがみになってため息をついた。

 それを見た彼女は私と一緒にいるのが嫌なのでは、などと一般的な思考をするはずも無く。


 「どうしたんですか先輩、前かがみになって。もしかして私に欲情して勃っちゃったんですか?」

 「違うわ!!」


 結人は勃っていないと態度(?)で示すように、背筋を伸ばした。

 そこで予鈴を告げるチャイムが鳴った。


 「もうこんな時間ですか。じゃあ先輩、また来週です」


 彼女は弁当を片手に結人に手を振って、スキップをしながら戻っていった。

 やはりあのセクハラを考慮しても彼女は美少女だ。

 しかしそれを台無しにするほどの性癖を持っているのがすごく悔やまれる。

 結人はそんな彼女の後ろ姿を見ながら、もう1度深くため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

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