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好きです。パンツください。  作者: 若めのわかめ
16/24

理不尽生ゲーム②

 「順番はさっきのでいいよな」

 「いいわよ、どうぞ」


 ゲームマスターの許可が下りた。

 結人はルーレットを回す。


 「3か。1、2、3と」


 止まったマスに書かれてある文字を読む。

 『ラジコン大会で優勝する。10000ドルもらう』


 「おお、お金増えた」

 「あんたさっきから良いことばっかりね」

 「うるさいぞ、読書家」

 「殴るわよ」


 危ない危ない。

 もう少しで読書家に殴られるところだった。

 辞書か分厚い本で暴行される。

 ちなみに彼女自身が読書家という訳では無い。

 人生ゲームでの職業が読書家なのである。

 職業の種類に『読書家』を放り込む精神。

 そこからこの人生ゲームのヤバさがわかるだろう。


 「次はわたしですね」


 桜乃が軽快にルーレットを回す。

 『4』が出た。


 「えっと、ベビーカーに一目惚れして購入する。5000ドル払う」

 「どんな趣味だよ、おかしいだろ」


 桜乃は所持金から素直に5000ドルを渡す。

 結人には彼女が文句を言わずにいた理由がわかる。

 今からツッコミまくっていたら、後半が持たない。

 そう考えてあえて我慢したのだろう。

 一方結人は先程からツッコミまくっている。

 どうしてもスルーが出来ないのだ。


 「次はわたしね」


 若菜が回したルーレットは、『6』を指す


 「6は・・・・・・、執筆した本が大当たり、15000ドルもらう」

 「さすが読書家だな」


 読書家が書いた本が大当たり。

 うまく出来すぎじゃないか?

 まさかここまで計算して作っているのか・・・・・・?

 ということは乳牛のマスも・・・・・・。


 「澪は・・・・・・、牧草を食べる・・・・・・」


 澪は見事にそのマスを当てたらしい。

 乳牛が牧草を食べる。

 ゲームでもなんでもない、ただの日常だ。

 このマスにアイドルが止まったら、どうするつもりなのか。

 週間〇春もびっくりだ。


 「これで1周ね。また結人よ」

 「進みたくないな・・・・・・」


 また自分の番が来てしまった・・・・・・。

 我が身の不幸はなるべく避けたい。

 結人は祈りに似た感情で、ルーレットを回す。


 『散髪に失敗して鬱になる。一回休み』

 「メンタル弱っ!!!」


 しっかりしろよサラリーマン!!

 OLでも会社に行くわ!!

 鬱になるほどの髪型とは・・・・・・。

 逆に1度見てみたい。


 「先輩災難ですね。私がこの悪い流れを止めます!」


 桜乃が勢いよくルーレットを回す。


 『散髪に失敗して鬱になる。一回休み』

 「なんでですか!!!」

 「アイドルが散髪に失敗したら、そりゃ休むわな」


 散髪に失敗した同士で騒ぐ。

 なんと情けない光景だろう。

 まだ髪が事故っていない2人から哀れみの目を向けられる。(片方は牛だが)

 

 「二人揃って災難ね。私にまかせなさい!」


 若菜が意気込んでルーレットを回す。

 針が指した数字は『10』


 「やった!! これでかなり差がついたわね!」


 若菜はコマを10マス進め、文字を見た。


 『右隣の人に「お兄たん、一緒にお風呂入るにゃんっ!」と全力で言う』

 「はあああああああ!!??」


 若菜が部屋が揺れるほどの声を上げる。

 顔は真っ赤に染められている。


 「これ罰ゲームの部類じゃないか?」

 「若菜先輩が一番の災難でしたね・・・・・・」


 結人、桜乃と哀れみの言葉をかける。

 当の本人は頭から項垂れている。


 「右隣は・・・・・・、澪だな」

 「若菜ちゃん、ほら早く!」

 

 澪が若菜を急かす。

 結人は「可哀想に」といった表情とは程遠い顔をしていた。

 むしろ嬉しそうである。


 「あ、ちょっと待ってください」


 なにやら桜乃がカバンを探る。

 取り出したのは1輪の花が付いたゴムを2つ。

 そしてそれで若菜の髪をくくる。

 ツインテールの完成である。


 「よし、これで妹属性が強くなりました」

 「ちょっと桜乃ちゃん!?」

 

 若菜は頬が真っ赤な顔を桜乃に向ける。

 桜乃はお得意の美少女スマイル。

 この顔を向けられて、抗えるものはいない。

 若菜も例外ではなかった。


 「ほら若菜ちゃん!」

 「ううっ、最悪・・・・・・」


 澪の催促に若菜は内心を漏らす。

 若菜は太ももに乗せた両手を握りしめ「もうどうにでもなれ!」と投げやりに腹を括った。


 「お兄たんっ! 一緒にお風呂入るにゃんっ!」


 両手をグーにして、猫のような仕草をする。

 頬がますます赤くなる。

 その後すぐに「ううっ・・・・・・」という声を漏らして、若菜は俯いた。


 「若菜ちゃん可愛い!!!」

 「若菜先輩、ごちそうさまです!!!」


 女子陣には大好評である。

 俯いている若菜に抱きつく澪。

 若菜は澪の肩に顔をうずめた。

 一方結人はその光景を、これ以上ないほどの垂れ目笑顔で見ていた。


 「先輩、そっちの趣味があるんですか?」

 「は!? いや、ないけど!?」


 桜乃の直球な問いを、結人は慌てて否定する。

 桜乃はしかめっ面で結人を見る。

 いたたまれなくなった結人は目をそらした。


 「次澪ちゃんだから早く!」

 「はいはい」


 早くこの状況から抜け出したかったのだろう。

 急かす若菜を澪は笑顔で宥める。

 そしてルーレットを回した。


 「8! えっと、子どもが6人産まれる」

 「六つ子!?」

 「この場合6頭が妥当じゃないですか?」

 「さすが乳牛だな」


 若菜の発言に桜乃、結人がつっこむ。

 六つ子とはめでたいじゃないか。

 牧場の賑やかな光景が浮かぶ。

 本来人生ゲームとは縁のないはずなのだが。


 「次は俺だな・・・・・・、一回休みだった!!」

 「先輩はうっかりさんですね。次は私ですよ・・・・・・、一回休みだった!!」

 「あんたらなにしてんのよ・・・・・・」


 バカ2人に若菜がつっこむ。

 まるでコントである。


 「次はわたしだけど・・・・・・、進みたくないわね」


 今の段階で一番辛い思いをしている若菜、そう思うのも当然である。

 しかし言い出しっぺが「やっぱり辞め!」とも言えないので、渋々ルーレットを回す。

 針が指したのは『3』。

 若菜は3つコマを進める。


 『全員分の飲み物を買ってくる』

 「もう人生ゲームじゃなくて罰ゲームじゃない!!」


 妹キャラにパシリ、災難も災難だ。


 「俺コーラで」

 「私はコーヒーお願いします」

 「澪はオレンジジュースね!」


 そんな若菜の事情をよそに、まるで遠慮のない3人である。

 若菜はカバンを持って立ち上がる。


 「わかったわよ! なんで私だけこんな・・・・・・」


 不満を漏らしながら若菜は部屋を出る。

 なんだかんだで従順に行動するあたり、微笑ましい。

 若菜が帰ってくるまで、ゲームは一時中断。

 思いがけないブレークタイムを手に入れた3人である。

 一方若菜は休憩がないに加え、パシリという重労働。

 発案した自分を散々に呪っていた。

 

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