表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
好きです。パンツください。  作者: 若めのわかめ
13/24

プール

 海開きだ!!!

 眩しく地面に降り注ぐ太陽。

 キラリと光る波。

 そこに戯れる妖精と言う名のレディー達。

 そんな夏の訪れを告げる美しい光景、とは程遠い状況に結人達は居た。



 授業で水泳が始まったのだ。

 そこには水の波もなければ、妖精達もいない。

 野郎どもが男臭く、更衣室で水着に着替えている。


 「はあ・・・・・・」


 クラスメイトの沢木がため息を漏らす。

 水泳というものは、全身の筋肉を使うのでかなり体力を消耗する。

 サッカー部の彼にも、それなりにこたえるのだろう。


 「なんでこんなに女っ気ねえんだよ」


 そっちかよ。

 いかにも高校生らしい発言に、水泳授業を楽しみにしていた結人は苦笑いを浮かべた。

 

 「男だけでプールに入ることも、大人になればなくなってしまうものです。これは学生の特権ですよ」


 ほお、なかなかいいことを言うな。

 柊耶が結人を挟んで沢木を元気づける。

 「まあ、そうだな」とボソッと呟き、そのままズボンを脱ぐ沢木。

 中には水着を履いていた。

 この水泳授業が2時間目なので、予め自宅から履いてきたのだろう。

 水泳あるあるだ。

 何度もため息をついて、すごく憂鬱そうだ。

 しかし心配には及ばない。

 結人と柊耶は沢木と同じ中学だったので、彼のことはそれなりに知っている。

 2人がこの後の彼のテンションを想像するのは容易かった。




 「うわぁぁあ!!! 冷たぁぁあい!! 地獄のシャワーだぁぁああ!!!」


 ほれ見ろ。

 クラスの誰よりもはしゃいでいらっしゃる。

 確かに水泳授業の最初のシャワーは冷たく感じるが、ここまではしゃげるのは彼のみだ。

 そのまま阿波踊りのような動きをし始めた。

 こいつなにがしたいのだろう。

 そんな彼に触れることなく、クラスメイト達はシャワーから退いていく。

 誰にもツッこまれなかった彼は、少し不満げな顔で一番最後にコースの列に並んだ。


 最初はクロールで25mを軽く泳ぐ。

 みんなアップ程度に軽く泳いでいるのだが、沢木はスタート台の上に立ち、真剣な面持ちで水面を見つめている。

 キラリと目が光ったあと、勢いよく水面に飛び込む。

 バシャーン!!!と音を立てて水しぶきが弾け飛ぶ。

 こいつ絶対腹打ったな。

 そのまま彼は水中を低空飛行で勢いよく進む、予定だった。

 彼は約2m地点で地面と垂直に、勢いよく水面から飛び出した。

 そして泣きそうな顔でこちらを見る。


 「ゴーグル忘れた!!!!」


 気付くの遅えよ。

 こいつはどこまでバカなんだろう。

 彼は先生から学校のゴーグルを借りて、その後普通にスタートした。





 痛い目を見て、その後彼はしばらく大人しくしていた。

 淡々と過ぎていく時間。

 授業は終盤に差し掛かっていた。

 この日の最後はクロール25m。

 ラストということもあって、結人は少し飛ばし気味に泳いでいた。

 3分の2近く進んだところで、結人は右側から強烈な視線を感じた。

 そこにはゴーグルをせずに、必死に目を開いてダブルピースを送っている沢木がいた。

 それ自体にはクスリともこなかったのだが、せっかく借りたゴーグルはどこへやったのか、水中で目を開いたままは痛いだろうなぁ、などと色々考えてしまった。

 目が『痛い』と訴えかけてくる。

 充血しまくってるじゃねえか。

 痛いならやめろよ。


 とうとう結人は吹き出した。

 不運なことにそこは水中。

 思い切り水を飲み込んだ結人は、急いでプールサイドに掴まり、四つん這いで咳を連発する。

 そんな結人を沢木が仁王立ちで見下ろしてくる。


 「どうした少年。もうすぐ産まれるのか?」

 「つわりじゃねえよ!!!」


 結人は全力で沢木の鳩尾(みぞおち)を殴る。

 膝から崩れ落ちて、結人の隣で四つん這いになる沢木。


 「なにやってるんですか・・・・・・」


 そんな2人を柊耶は冷たい目で見ていた。

 しかし考えすぎた柊耶は、それをネタ振りだと勘違いしてしまい、必死に『フリ』を考えた。

 考え抜いた結果、柊耶は左足を結人、右足を沢木の背中に乗せ、大の字で2人の上に立つ。

 意味がわからない。

 やっている本人も、どういう状況かよくわかっていない。

 それを見たクラスメイトが、まばらに拍手を送る。

 その拍手の音が、土台の2人の耳に届くことはなかった。




 授業が終わり、シャワーを浴びてから体を拭いて更衣室へ戻る。

 みんなが軽く談笑する中、沢木は青い顔をしていた。


 「どうしたんだ?」 


 それに気づいた結人が声をかける。

 ギギギと滑りの悪いロボのようにこちらを見る沢木の目には、涙が浮かんでいた。


 「パンツ忘れた・・・・・・」


 パンツを忘れることなんてあるのか?

 そういえばこいつ家から水着で登校したんだったな。

 それでパンツを持って来ずに登校したわけだ。

 こいつほんとにバカだな。

 小学生でもバカの部類に入るレベルだ。


 「2枚履いてたりしないよな・・・・・・?」

 「してるわけないだろう」

 

 どこに希望を見出してるんだよ。

 沢木は下半身丸出しで、大きくため息をつく。

 揺れてる、揺れてるから。

 変なもの見せるんじゃないよ。


 「じゃあブラは?」

 「何に使う気だよ!!」


 俺が付けてると踏んだのか。

 バカは何考えてるのかわからなくて怖い。


 「やばい、時間ない!!」

 「まじ!? 急げ!!」


 クラスメイトA、Bの言葉に急かされ、更衣を済ませた男子陣は、急いで更衣室を出始めた。

 結人も荷物を持ち、彼らを追っていく。

 

 「すまん、沢木」


 それだけ言って、結人は教室にダッシュで戻った。

 普段なら絶対に救いの手を差し伸べる結人も、この時ばかりはどうしようもなかった。

 罪悪感に後ろ髪を引かれながら、教室へ走っていく。

 その後、更衣室に1人きりになった彼が、どうなったのかは知らないが、その日1日下半身がソワソワしていたのは、言うまでもない。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ