帰り道トリオ
「帰りは私にまかせてください」
これは行きが若菜だったので、帰りは桜乃が結人の手を引いて行く、という意味であろう。
これには若菜も納得したようで、頷いて結人の後ろについた。
教室への階段を降りる途中で、結人は尿意を催した。
「悪い、トイレに寄ってもいいか」
「わかりました。一番近くの男子トイレは・・・・・・」
桜乃は階段の踊り場からキョロキョロ周りを見回す。
階段を降りてすぐのところに男子トイレがあったので、桜乃はそこまで結人を案内した。
「ここから大丈夫ですか?」
「ああ、ありがとう」
男子トイレの前に2人を待たせて、結人は1人でトイレに入っていく。(当たり前なのだが)
なんとか小便器まで辿り着き、用を足す。
「先輩ー! 良ければ私が手伝いますよー!!」
「うるさいよ!!!」
桜乃の声がトイレ内に響く。
男子トイレに結人以外に誰もいなかったのが、不幸中の幸いだった。
手を洗い、ハンカチで軽く拭いてトイレを後にする。
2人は律儀に待っていてくれた。
「ありがとう、行こうか」
「先輩、今日もクマさんパンツですか?」
「違うわ! もうやめてくれ!」
今日『も』というのは、以前に結人がクマさんの顔がプリントされたパンツを履いていて、それを桜乃に見られたのだ。
「あんたそんなの履いてるの・・・・・・?」
「違うって! いや、違くないけど・・・・・・」
若菜の追い打ちに結人は反論出来ず、細くなった若菜の目を見ることができなかった。
「じゃ先輩、午後も頑張ってくださいね」
結人のクラスに着いたので、桜乃は結人の手を離し駆け足で去っていく。
結人がトイレに寄ったので、授業までの時間があまり残っていなかったのだ。
結人は長かった休み時間を終えた安堵から、少し軽快に足を踏み出した。
結果行きよりも派手に机と椅子にぶつかりまくることになった。
そして放課後。
結人は普段1人で、時々若菜と帰宅するのだが、今日は余分に1人付いてきていた。
お昼と同じメンバー、桜乃である。
帰りは結人を真ん中にして、2人と手を繋いで歩くことになった。
両手に花となった結人を、すれ違う人たちがジロジロ見てくる気がする。(繰り返すようだがはっきりとは見えない)
結人は恥ずかしさから黙りこくっていた。
一方女子陣は、若菜の桜乃への洋服の質問から会話が弾んでいた。
どうやら2人は同じブランドの洋服を好んで買っているらしかった。
そこからお気に入りのスイーツ店などの話に派生し、すっかり意気投合していた。
結人は2人が仲良くすることは良いことだが、出来れば俺を挟んで話してくれるなと思っていた。
そのまま結人は一言も発することなく家に着いた。
若菜は家が斜め前なのでわかるのだが、桜乃も家までついてきていた。
「ありがとう。今日は助かった」
そう言い結人は玄関への階段をあがろうとした時、家の扉が1人でに開いた。
「あ、お兄ちゃんおかえり」
出てきたのは結人の妹、真田澪中学3年生である。
「澪ちゃん、久しぶり!」
「若菜ちゃん、昨日も会ったよ」
若菜が、そうだっけ、などと返して2人は笑い合っている。
結人と若菜は家族ぐるみの付き合いなので、もちろん澪と若菜とも関係がある。
小さい頃はよく3人で遊んだりしていたので、澪と若菜はかなり仲が良い。
2人だけで買い物に出かけることも、しばしばあるほどだ。
結人は2人が話していると和むので、傍観者として居ることも結構好きなのである。
「先輩の妹さん・・・・・・?」
「ああ、そうだよ。お前の1個下だな」
桜乃は結人の新情報に少しだけ驚いたようだ。
結人の妹なのでしっかり挨拶しなくては、と思ったのだろう。
スカートを直し、襟元もしっかり整え、3歩前に出て澪の前に立つ。
そして結人はしばらく見なくなっていた、とびきりの美少女スマイルを浮かべた。
「澪ちゃん、こんにちは。結人先輩の後輩、春宮桜乃です。よろしくね」
「こんにちは桜乃さん、よろしくお願いします」
澪は桜乃の顔をじっと見つめていた。
すっかり彼女の美少女スマイルにやられたらしい。
「すごい美人さんですね。お兄ちゃん付き合えばいいのに」
澪が冗談なのか本気なのか微妙なラインのことを言う。
桜乃はうんうんと頷いている。
余計なことを言うな、とこの時ばかりは少しだけ妹を恨んだ。
「好印象、計画通り・・・・・・」
「夜〇月か、お前は」
不気味な笑みを浮かべている桜乃に、結人は1番的確なツッコミを入れた。
「今日はこのへんにしといてあげます。先輩またコンタクト忘れてくださいね」
「2度とごめんだよ。じゃあな」
桜乃は結人の妹を味方につけて満足したらしい。
鼻歌交じりに帰っていった。
「若菜ちゃん、晩ご飯食べていかない?」
「んー、今日ちょうどお母さんが出かけてて1人だし、ごちそうになろうかな」
結人の知らない間に夕食の数が一つ増えていた。
結局作るのは俺だぞ、と思ったが結人は心に留めておいた。
2人がいつも美味しそうに料理を食べてくれるだけで、それだけで作る価値がある、と主婦のような心を持ちながら。




