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好きです。パンツください。  作者: 若めのわかめ
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告白とは

 真田結人(さなだゆいと)高校2年生。

 彼はある人に呼ばれて昼休みに屋上へ来ていた。

 

 ある人と言っても俺はその人物を知らない。

 知る術がなかったのだ。

 朝学校に入り下駄箱を開けると1枚の手紙が入っていてこう書かれていた。

 「伝えたいことがあります。お昼休みに屋上へ来てください」


 非常に簡潔だが想像を掻き立てる文。

 手紙を隅々まで調べたが、どこにも名前は書いていなかった。


 心当たりのある人物はいない。

 ここ最近もいつもと変わらぬ日常だった。

 それだけに結人はかなり緊張していた。


 まだ初夏だがお昼の時間になると日差しがきつい。

 汗が頬を伝う。

 しかしその汗は暑さのせいだけではなかった。


 校舎と屋上を繋げる扉が開いた。

 思わず結人は背筋を伸ばし、震える手を横に揃えた。



 扉を開き頭を少しだけ覗かせる。

 結人と目が合うとその人物は慌てて扉の裏に隠れた。

 結人はその人物を知っていた。

 春宮桜乃(はるみやさくの)、1年生。

 しかしただの1年生ではない。

 校内一の美少女と有名な1年生だった。


 彼女が入学してものの数日、その噂は瞬く間に広がっていった。

 腰まで伸びた綺麗なロングのストレートヘア。

 綺麗だが少し子供っぽさが残る顔。

 まさに美少女。

 人当たりもよく男女問わず人気がある。

 入学して1週間でファンクラブが出来たほどだ。


 そんな彼女が俺に告白?

 ありえない。

 結人は並の中の並といった普通の高校生。

 彼女のことは知っていたが、俺とは無関係だと割り切っていた。

 彼女が俺なんかを好きになるはずがない。


 彼女は俯き気味にこちらへ近づいてきた。

 その頬は少し赤くなっている。

 まさか本当に俺のことが好きなのか?

 結人はパニックになり何も言えずにいると、彼女の方から口を開いた。


 「来ていただきありがとうございます。お話があってきました」


 上目遣いで俺を見つめてくる。

 その破壊力はものすごいものだった。

 結人は息を呑んで固まっていた。


 彼女は大きく深呼吸をし、結人を見つめ直してこう言った。



 「先輩のことが好きです! なので先輩のパンツをください!」


 

 結人は固まっていた。

 先程とは違う理由で。

 今なんて言った?

 可憐な彼女が「パンツ」なんて言葉を発するわけがない

 俺の頭が暑さでやられたのだろう。

 もう1度告白させるなんて酷だと思うが、念のため俺は確認することにした。


 「なんだって?」

 「先輩のパンツをください」



 今度は先輩が好きだという文は省かれていた。

 どうやら正しいのは俺の方だったらしい。

 内容も、倫理的にも。


 「俺のことが好きなんだよな?」

 「はい」

 「だからパンツが欲しいのか?」

 「正確に言うと、好きになったパンツを履いていたのが先輩だったんです」


 話がまるで噛み合ってない。

 予想外の事態に直面し、パニックになった結人はよくわからない質問をした。


 「パンツが好きなのか?」

 「先輩のパンツが好きなんです」

 「じゃあ俺のことは好きじゃないのか?」

 「もちろん好きですよ」

 

 パンツと俺が好き?

 パンツの俺が好き?

 ダメだ、こんがらがってきた。

 更に訳のわからない質問を重ねる。


 「パンツと俺どっちのほうが好きなんだ?」

 「8対2で先輩です」

 「8が俺だよな?」

 「いえ、8がパンツです」

 「パンツに負けた!!!」


 頭を抱えてその場にうずくまる。

 これは彼女の告白内容に対してである。

 決してパンツに負けたからではない。

 そう、負けたからではないのだ。


 「意味がわからん・・・・・・」

 「パンツの意味が、ですか?」

 「そこじゃねえよ!!!」


 ダメだ、漫才みたくなってきた。

 「告白されたとき」の対処方はある程度想像つくが、「パンツを催促されたとき」の対処方は聞いたことがない。

 なにが正解なのかが全くわからない。

 ただ相手のペースに持ち込まれてはいけないような気がする。(もう手遅れなのだが)



 などと考えてる間に少し冷静になり始めた。

 まず俺はいつの間にパンツを見られたんだ。

 スカートの下から盗撮!?

 いや、アホかと自分でオチをつけながら頭で考えるが、いくら考えても答えは出ないのでそのまま聞いてみる。


 「いつ俺のパンツを見たんだ?」

 「先輩が体育でサッカーをしているときです」


 体育中か。

 確かに体育中は周りに男子しかいないので無防備になることはある。

 しかし周りが男子だけだからといってズボンを脱いでパンツ1丁でサッカーをするような輩はいない。


 ただ結人には心当たりがあった。


 「お前、あれ見てたのか・・・・・・?」

 「はい、シュートの時にズボンが脱げたやつですよね?」

 「うわあああああああああ!!!!」

 再び頭を抱えてうずくまる。


 あれは体育でサッカーをしていた時。

 その日結人は珍しく相手ゴール前につけていた。

 味方が右サイドから見事なクロスを送り、チャンスだと思った結人はボールの落下地点まで走り出した。

 そして見事なボレーシュートを決めようとしたその時、ズボンが重力に従い一気に足まで落ちた。

 バランスを崩した結人はパンツ丸出しで前へ倒れた。

 幸か不幸か倒れた勢いでボールをヘディングし、見事にゴールを決めたのだった。


 あの日から結人は「頭得して尻隠さず」という異名を持つようになった。


 しかしその黒歴史には続きがある。

 なんとその日のパンツはクマさんの顔がプリントされたブリーフだったのである。

 クラスメイトからは哀れみの目を向けられた。

 結人としては笑ってくれた方が楽だったのだが。



 まさか見られていたなんて・・・・・・

 たとえそれがきっかけで美少女から告白されることになったとしても、結人としては消したい過去だった。


 「あのパンツに一目惚れした私は、あの後ショッピングセンターで同じのを探して、今履いてます」

 「気持ち悪いわ!!!!」


 彼女の性癖の扉がどんどん開いてく。

 精神がKOされていた結人は早くこの場から去りたかった。

 もったいないが彼女を断ることにした。


 「すまないが、君の要望には応えられない」

 「そんな・・・・・・」


 彼女は悲しそうな顔をして俯く。

 少し罪悪感を覚えた。

 結人は全く悪くないのに。

 可愛いとは罪なものだ。

 

 可愛い後輩をこのまま放置するわけにもいかず、なんとか改心させることを試みた。


 「あのな、仮にお前が他人からパンツくれって言われたらあげるか?」

 「あげるわけないじゃないですか。さすがにキモイです先輩」


 こいつ・・・・・・

 自分は人と同じパンツを好んで履いてるくせに。 

 無意識のうちに右手で握りこぶしを作っていたが、行き場をなくしその手を腰にやる。


 「とにかくダメなものはダメだ」

 「そうですか・・・・・・」


 本気で悲しそうなあたり、さっきの内容は本気だったのだろう。

 そのほうがタチ悪いのだが。


 「はあ・・・・・・」


 ため息?

 なんで俺が悪いみたいになってるんだ?

 俺は人として当たり前のことをしたはずなのに。

 もうやだ帰りたい。


 告白されたのに何故か落ち込んでいる結人に向かって、彼女は追い打ちをかけるように信じられない言葉を発した。


 「じゃあもう先輩のお〇ん〇んだけでいいです」

 「はあああ!!??」


 もうわけがわからない。

 初めて話した人に向かってお〇ん〇んを見せろなんて、並大抵の根性じゃない。

 結人はまたしても当たり前の返答をした。


 「それもできない」

 「もしかして先輩皮かぶりですか?」

 「そういう問題じゃねえ!!!」


 先生助けてください。

 俺は今セクハラにあっています。

 

 「大丈夫です。先生のブツは引っ込み思案なんですね、と笑い飛ばせるくらいのユーモアを私は持ち合わせています」

 「余計傷つくわ!!!」


 この返しは自分のブツが皮かぶりだと肯定しているようなものなのだが、結人は感覚が麻痺していて気づけなかった。


 「とにかくもうすぐチャイム鳴るから帰れよ」


 そう言い残し結人は屋上を出ようとする。


 「待ってください!!!」

 

 突然の大声に思わず結人は振り返ってしまった。

 そこには申し訳なさそうな顔をした彼女がいた。


 「実は緊張していて・・・・・・ 失礼なことを言ってしまいました。ごめんなさい」


 彼女は結人に向かって頭を下げる。

 人間アガってしまうことなんて誰にでもある。

 故意じゃなかったのか。

 告白という一大イベント、緊張するに決まっている。

 結人は一生懸命な彼女を軽くあしらってしまったことを恥じていた。

 結人も怒っていたわけじゃないので彼女をなだめることにした。 


 「いいよ、気にすんな」


 結人は彼女に微笑みながらそう言った。

 彼女は笑顔で顔を上げた。


 「本当ですか!?」

 「ああ、もうすぐ授業が始まるからお前も教室戻れよ」


 最後に少しかっこをつけて帰ろうとした時、彼女は最後に一言。


 「じゃあパンツください!!」

 「最後のいい感じの雰囲気返せよお前!!!」


 結人はそう言い屋上を飛び出した。


 最初のピュアな頃の俺が懐かしい、と半べそをかきながらそのまま走って教室へ戻った。

 

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