感情を無くした少年
それは俺様が行く宛もなく、ちょっとその辺をウロついて居た時のことだ。
川辺の道のその先に、クソガキがちょこんと腰を下ろしていやがった。
「おいクソガキ、こんな所で何やってんだよ」
近寄って声をかけても、クソガキは身動き一つしないときたもんだ。
これには俺様も頭にきて、さっきよりもうんと大きな声を出してやった。
「おいクソガキ! シカトかよ!」
それでもこのクソガキは、まるで耳でも聞こえないかのように反応がない。
もしかしたら本当に耳が聞こえないのかと、ちょっと足で小突いてみる。
「おーいクソガキー、おーい」
ダメだ全く効果がない。
これはアレか、今流行りの感情を無くした少年ってやつか。
クソ生意気なクソガキが、一丁前に色気づきやがって。
周りから恐れられてるこの俺様を、無視することがどういうことか教えてやろう。
「ウラァ! クソガキが! 怪我すんぞウラァ!」
威勢よく怒鳴ってはみたものの、この手の脅しは通じないようだ。
なら少し痛い目を見てもらうしかない。
クソガキの足を踏みつけて、そこに全体重を乗せてみせる。
どうだ痛いだろうと顔を覗くも、相変わらず遠くを見ていやがった。
余裕ぶりやがって、いい度胸だ。
そのすました顔をめがけて、今度は思い切り頭をぶつけてやった。
これはさすがに効いたようで、クソガキがようやくこっちを向く。
「どうだクソガキ、思い知ったか」
てっきりそのまま泣くかと思いきや、クソガキはしれっと視線を戻した。
これにはさすがに驚いた。
ここまでコケにされるとは予想だにしなかった。
そっちがその気なら、こっちにも意地ってもんがある。
何がなんでもこのクソガキを泣かせてやる。
「ウラァ! ウラァ!」
でもこのクソ野郎、腕を引っ張っても蹴飛ばしても全く動じねえ。
本当に感情を無くしたとでも言うのかバカバカしい。
そんなもん簡単に無くせるかよ、見てろよお前の感情暴きだしてやる。
「ウラァ! クソガキが!」
泣くのがダメなら怒ってみせろ、それもダメなら悔しがってみせろ。
こんなにされて何黙ってんだよ、お前本当にそれでいいのかよ。
ちょっと前まで偉そうな口聞いてたのに、なんでそんな大人しいことになってんだよ。
「ふざけんな! こっちを見やがれ!」
なあ、あるんだろう。
本当はちゃんと、あるんだろう。
無くしてなんかないくせに、格好つけて隠してるんじゃねえよ。
「ウルァアア!」
もういっそ喉でも引き裂いてやろうかとしたその瞬間、やっとクソガキの口が開いた。
そうだ、言え、お前は感情を無くした少年じゃない。
さあその口で、お前の思いを吐き出してみろ!
『…………コロ』
「なんだ!」
『うるさい』
『バウッ』
『……ったく、こんな所まで来やがって』
『バウッ』
『あちこち引っかくなバカ』
『クゥー……』
『あーあ』
『ハッハッハッ』
『このバカ犬が……』
『ハッハッハッ』
『人の気も知らないで』
『ハッハッハッ』
『本当、なんで……』
『ハッハッハッ』
『…………』
『ハッハッハッ』
『…………』
『ハッハッハッ』
『…………』
『ハッハッハッ』
『……コロ』
『ハッハッハッ』
『帰ろっか』
『バウッ』