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錬金術士の私とスライムの聖騎士  作者: 暇したい猫(桜)
第一幕 錬金術士の私とスライムの聖騎士
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第一章 5


 とっさにグリムはサクラの背中を支えた……といっても、跳びついてクッションのように身体を滑りこませただけだが、それでもひんやりしたスライムの温度にサクラは楽になったようだ。目を開けて「えへへ……」となけなしの微笑みを見せた。


「あれ……おかしいな。きょうは、いけそうなきが……したんだけどな」

「……おい、これはどういう事だ」


 グリムは目線を鋭くしてスフィアを睨んだ。それもそのはずだ……今、グリムの背に乗っかっているサクラは体重というものを感じられない。非常に軽く、容易に浮き上がったのだ。これが先ほどまでグリムの身体に覆いかぶさって離れなかった少女と同じだと思えない。

 そんな時、サクラの肩から小さな灯が浮かび上がって溶けるように消えていく。グリムはそれを眺めながら物思いに耽った。


 ――これは……魔力? 


 光を反射して煌めくそれは、間違いなくサクラに宿っていた魔力だった。それが身体から抜け出している。まるでグリムが魔力を使った後と同じ……使われた魔力が抜け出る『魔力の自然消滅』と似ていた。

 だが、不可解な点がある。サクラから抜け出している魔力は白く濁っていなかった(、、、、、、、、、、)。つまりはまだ使う前(、、、)の魔力が勝手に身体から出ているのだ。


 ――いや、待て……『病気』、『魔力の自然消滅』。


 その時、グリムの脳裏には一つだけ思い当たる病名が浮かび上がった。


 ――だが、だとしたらサクラは命に係わるほど深刻な状況だ。


「発作!? サクラちゃん、やっぱり今日薬を飲まなかったでしょう!!」


 それを証明するかのようにスフィアは喚き声をあげる。すぐさまサクラの額に自分の額を当てて体温を測る。次に呼吸の確認。結果は……素人でもわかるほど酷かった。呼吸が荒くなっているし、体温も徐々に熱くなっている……服の上からでもわかるほど火照っていた。

 だけど、サクラは平気なふりをして苦笑いする。


「大丈夫だよ……これぐらい気合で……」

「そういう問題じゃない!!!!」


 そんなサクラの症状を診ていたスフィアの目には涙が浮かんでいた……真剣にサクラの身を案じている。それを理解したのか、直後サクラも押し黙った。

 そして、涙を指で払い落とすとスフィアはアトリエ内を駆け回った。開けては閉じ、引いては押して……本の塔を軽々と跳び越えるスフィアは何かを探しているようだった。


「もしかして薬があるのか?」


 だからグリムは問いただした。

 なにぶん不思議ではない。スフィアは錬金術士だ……錬金術士には病に効く薬を作る者もいる。

 つまり薬学専門の錬金術士。もしスフィアもそうだとすれば薬を作り置きしている可能性はある。ひとまずそれを飲ませれば事態は落ち着くはずだ。

 とっさにグリムはその身を起こす。


「どこにある? 自分も探す――」

「……駄目です」


 だけど、スフィアは言葉を遮って止めた。スフィアはグリムの推論に対して首を横に振ったのだ。


「作り置きした分は全部サクラちゃんの家にあります……どこかに届け忘れたものもあるかもしれないと思いましたが、やっぱりどこにもない」


 ああ、だから焦っていたのか……ここに薬がないから。もしサクラが発作を起こしたら、対応できないから。

 グリムは目を見開いた。スフィアは話をきかない少女だと思っていた。スフィアは何も考えていない天然だと思っていた。だが、何も考えていないわけではなかった。

 スフィアが歯を食いしばる。自身のふがいなさを悔いるように、その行動には他者への思いやりがあった。


 ――まさか、誠意がない(、、、、、)と思っていたのは自分だけではないのだろうか。


 グリムはその表情を見れば見るほど、これまでの出来事を思い出した。スライムにされた日の事、今日の朝に行われた説明、サクラを追い返そうとした理由……もしその全部にも意味があったとすれば、自分はとんでもない認識違いをしていたのかもしれない。

 その時だった。スフィアが唇をかみしめながら勢いで玄関へ駆け寄った。当然だ、要はアトリエ内に薬がないのだから、考えることは一つ。


「私、薬を取りに行ってきます!!」

「待て!」


 グリムはそんなスフィアの足を止めた。そして、自分自身の問いに結論を導き出すために質問を投げかける。


「ここにその薬の材料……素材はあるのか?」


 その言葉で連想したスフィアは意表を突かれたように耳を疑った。


「まさか、ここで薬を錬成するのですか……!?」


 そう、ないなら作ればいい……グリムは唾を飲み込んで頷いた。

 ここから高台下にあるリンドには距離があるはずだ。ざっと見積もっても片道三十分はかかりそうだ……往復でも一時間はかかるだろう。その間にもしものことが起こらないとは限らない。そうなればグリムにはもうどうしようもない。

 それよりかはここで薬を作り、状況に合わせて対応した方がいい。グリムはあくまで騎士……守ることはできても救うことはできないのだから。

 それでも、スフィアは戸惑って指を噛んだ。頭ではわかっているのだが、身体が拒否しているようだった。それはまるで、


「迷っているのか」


 途端にスフィアは肩を震わせる……図星を突かれて動揺したのだ。

 これで得心が行った。


「そうか、スフィアはまだ始めたばかりの……錬金術士の素人(、、)だったのか」


 思えばこれまでスフィアは今まで何度かある言葉を口ずさんでいた。


 ――『おばあちゃん』


 この単語はいままでで一番スフィアの口から聞いた。

 『おばあちゃん特製の爆弾』、『おばあちゃんが街から買い占めた何千冊という知識』、『おばあちゃんが残してくれた研究資料』、『その時おばあちゃんが治した薬』……そのどれもが錬金術士から連想するもので、それはある事実を示していた。


「ここは、本当はスフィアの……スフィアのおばあちゃんの(、、、、、、、)アトリエだったんだな」


 グリムは冷静に状況を確認する。おそらくスフィアはまだ満足に錬成を成功させるほどの実力を持っていないのだろう……そうであれば三日前、朝早くに錬成していた事も納得がいく。人気がなければ周りを気にせず、錬成に集中できた……失敗しても被害は出なかったはずだ。

 そして、それを邪魔したのが自分。


「そう、です……本当は、私は一人前の錬金術士じゃない。おばあちゃんは私に何も教えてくれなかった。始めたのは二年前……蔵書で知識はどうにかなっても、錬成はできなかった」


 刹那、スフィアの肩が震えた。グリムはただ黙した。それはつまりスフィアが未熟な錬金術士であることを示していることに他ならなかった。

 スフィアは両手で顔を隠す。自身への苛立ちや焦りが嫌というほど伝わってくる。

 要はこわいのだろう……グリムも幼少の頃に剣を取った瞬間に経験した。この剣は誤って誰かを傷つけたりしないか。魔力は確かに自らの糧になるが、振り回されては意味がない……スフィアもまた側に誰かがいる状態で錬成をしていいのか悩んでいたのか。


「わかって……います、ここで薬を錬成した方が速いって。でも……もしかしたらまた失敗するかもしれない……そうしたら、スライムさんみたいに…………」


 次第にその声は怒気がまぎれて音量を増していく……スフィア自身が自分の未熟さに憤りを感じ、膨れ上がっていく。そう、スフィアはグリムが思っていたよりももっとスライムにしてしまった件を重く捉えていた。


 ――……だが、そんなことに気を回してやるほど自分は優しくない。


 スフィアは今も尚、顔を隠し、俯かせている……ついには泣き崩れて膝を折った。グリムはそんな少女を追い詰めた事実を受け止め、飲みくだし、力に変えて、腹から声を出す。


「だったら自分がレクチャーしてやる」

「……え?」


 唐突なその言葉にスフィアは掌の仮面をはずして、間抜け顔を向けた。途端にグリムは背で抱えていたサクラを優しく地面に降ろして起きあがる。直後、ぴょんぴょん、と本の塔を跳び越えて中央の錬成釜へ……その隣、薬草やら鉱石やらが並べられている薬品棚を定位置にして居座った。


「期待はするなよ。一応、騎士学校で浅く学んだだけだからな。それももう何年も前のことだ。それでもないよりはましだろう……間違っていたらこちらから指摘する」

「で、でも私は駆け出しで……未熟で」


 その時だった。サクラが自ら胸を掴みだす……そして、いっそう息を荒くし、うめき声をあげだした。白いワンピースは汗に濡れ、所々肌が透けて見える。これ以上このままじっとしていたら、それこそ取り返しのつかない事になるだろう。

 グリムは再度スフィアに問いただした。


「このまま迷い続けるつもりか」

「……」


 直後、スフィアは顔を隠していた自分の掌を眺めたのち、ぎゅっと握りしめた。グリム自身、自分の言葉がどれほどの影響を与えたのかはわからない。だが、後がないことを悟ったスフィアは覚悟を決めたように走り出し、錬成釜の近くに放置していた杖を掴んで釜に突き刺す。


「私はまず何をしたらいいんですか」


 よし……グリムはスフィアの意気込みを買って、静かに記憶を呼び覚ました。騎士学校時代……つまりはまだ騎士見習いだった頃の記憶を。


「いいか、よく聞くんだ。この世界ステラには星の生命……魔力が通っている。その魔力があふれて宿ったのが、魔力の才能(自分たち)であり、ひとまとめに『レグルス』と呼ばれる存在だ。だが、スフィアも知っている通りレグルスといっても魔力の特性に合わせて六種類ある」


 その魔力特性は全部で六つ。


 一つ、集中。成長するたびにひたすら自らの魔力を高め続ける聖騎士(パラディン)の特性。


 二つ、放出。成長するにつれ自らの魔力を取り出せる錬金術士(アルケミスト)の特性。


 三つ、吸収。成長すると大気中にあふれる魔力を引き寄せる預言者(プロフェット)の特性。


 四つ、略奪。成長すれば他の魔力を奪い従わせることができる召喚術士(サモンテイマー)の特性。


 五つ、具現化。成長に伴い、自らの魔力を具現化させる魔女・魔法使い(ウィッチ)の特性。


 六つ、共鳴。成長と共に他の魔力に引き寄せられる山賊(バンディット)の特性。


 これら六つの特性はレグルスならず、魔力を宿した動物や植物……つまりは錬金術士が錬成で使う『素材』にも適用される。


「使われる素材……レシピの材料はわかるか?」

「は、はい!! 『きれいな流水』、『生きたキノコの傘』、『効力草』です」

「よし。それなら、まずは『聖水』を作るんだ……錬成釜に水を入れて魔力を注ぎ込め」


 言われたとおりにスフィアは動く。溜め込んだ水壺から『きれいな流水』を汲んでくると、錬成釜に注いで手を浸した。するとただの水が光り輝いて、透明度を増した。一見するとそこに水があるのかさえわからない透明さにスフィアは息をのみながら覚悟を決める。

 そう、これが『聖水』。複数の素材が一つになるための依代……錬成で基本となる媒体だ。素材と素材をくっつける魔力の込もった接着剤といってもいい。これを作り出して、はじめて錬成は可能となる。そして、聖水は魔力を放出することができる錬金術士にしか作り出せない。

 ゆえに錬成は錬金術士の専売特許。何物も真似できない彼らだけの技術。だけどそれだけではない。


「十分に魔力を注いだら、次に素材を入れるんだ。ただ一緒にいれるなよ……あくまでも、素材を分解し終わってから次を入れていくんだ」

「素材を分解……?」


 スフィアは首を傾げた……なるほど、スフィアが錬成に失敗していたのはこの部分を理解していないせいだろう。

 そう、素材の分解。それは錬金術士だけに許された技術のもう一端。杖を使って錬金術士の魔力を素材にぶつけ、分解……素材に元から込められていた魔力特性を取り除いて空っぽにする。魔力を抜き出して聖水に込める。いわば、水の入った瓶に別のものを入れたい時、先に水を抜くのと同じことをしている。

 そうして取り除いた魔力を再構築……聖水を使って素材を合わせ、空っぽの入れ物に魔力を込め直していくのが錬金術士がする錬成の全容だった。


「なるほど……おばあちゃんは、いつもそんな事をしていたのですね」


 コツン……そうしてスフィアは杖を振った。だが、どうやらスフィアはその分解が苦手らしい。眉を寄せて素材をいれると、杖をぎゅーと握りしめて険しい顔をしている。無理に魔力を当てようとしているのかもしれない。

 確かに錬金術士の錬成という技は他と違って、感覚的なところに頼る部分が大きい。錬金術士でも才能を問われるものだと騎士見習いの時に聞いたことがある……実際、グリムも言葉で取り繕ってはいても頭では理解できていない。


 ――だが、今は精一杯フォローするしかない。


 グリムは一生懸命考える。スフィアにわかりやすく伝えるにはどういえばいいのかと……そうして出た言葉は、


「パズルのピース」


 だった。

 途端にスフィアは振り返る。その期待のまなざしにグリムは一瞬たじろいだ……思いの外、指導するというのは注目を浴びるのだと知り、嫌な汗を背中に書く。

 だが、すぐさま態勢を立て直すとゴホンと咳払いして言い直した。


「難しく考えなくていいんじゃないか。そう……パズルのピースをバラバラにする感じでいいと思う」

「ピースをバラバラに……」


 スフィアは目を丸くしてこちらをみつめた。まるでその発想はなかったと言わんばかりだ。


「例えば……今さっき入れた素材は何だ?」

「えっと……『生きたキノコの傘』ですね」


 スフィアは口を開く。

 『生きたキノコの傘』はこの《聖鐘の町リンド》より北東にある森で取れる素材で、サモンテイマーの特性を持っているので魔力を円滑に順応させることができるそうだ。つまり、中和剤替わりなのだろう。


「だったら、その成分を抜き出してみたらいい……自分の魔力を手足のように使ってな」

「自分の魔力を手足に……」


 スライムだからこそ言えるグリムの言葉にスフィアは意を決して前を向く。そして、錬成釜と真正面に向き合った。杖を手に、釜の中をかき回す。

 チリン……その時、鈴の音のようなきれいな音が釜の中で響いた。同時に聖水の中に小さな星のような光がこぼれる。続いて、二回、三回……次々と錬成釜に光がこぼれて弾けていく。

 その様子はまるで夜空……いや、それよりも上の空間かもしれない。何にしろ暗い空間に色とりどりの光が回る光景は言葉に現すよりも神秘的で幻想的だった。


 ――これが錬成……創造する力。


 その間にもスフィアは残りの素材を入れていく。チリンチリン、と心地よい音色が響き渡る。


「この次はどうするんですか?」

「え……」

「この先の錬成です!!」


 あ、ああ……あまりに引き込まれる光景に呆気に取られていたグリムは、頭を振って現実に戻ってくる。そうだ……今は感傷に浸っている時間はなかった。振り返れば床に倒れて苦しんでいるサクラがいる。

 グリムは気合を入れなおすように錬成釜に向き直った。小さな光たちをまっすぐ見て告げる。


「最後は再構築。先ほど素材から取り出した魔力を聖水を使ってこめ直していく。この時、取り出した成分(ピース)を自分が創り出したいと思うもの、起こしたいと思う現象にはめなおす……自分の夢を形にするんだ」

「私の夢……起こしたい現象」


 スフィアはグリムの言葉に想いを馳せるとゆっくり杖を回す。

 正直、ここから先は本当にグリムでさえもわからない。騎士学校で学んだことだが、一概に『夢を形にする』という事象があやふやすぎるのだ。才能(センス)が問われる部分と言ってもいい。スフィアに錬金術士の才能があるか否か……ここで全てが試される。

 すると、心配するグリムの目の前で光と光がぶつかった。錬成釜の中が小さな鈴の音で共鳴し始める。

 光たちが渦を巻いて一つへと収束していくその様はまるで星ができていく感覚……創造の瞬間がグリムの目の前で起きていく。

 そして小さな光が全部共鳴しきった時、釜の中が光で溢れ出す。そのあまりの神々しさにグリムは目をつむってしまった。


「……できました」


 そうしてスフィアの声が聞こえ、グリムは瞼を上げた。目の前に映るのは錬成釜の中から何かを掬い上げたスフィアの姿。その掌には今まで握られなかった丸い形状の粒が握られていた。

 つまりは、


「成功したのか!?」

「はい! 『心身統一の丸薬』です!!」


 途端にスフィアは錬成釜から飛び降りる。涙ぐむ中、そのまま本の塔をいくつか壊して、こけて……それでも立ち上がってサクラの側までかけつけた。逆にグリムは水壺に向けて足を延ばし、コップを上手にくわえて水を汲んだ。

 そんなグリムを遠目に、スフィアはサクラの肩を掴んで抱きかかえる。すると簡単にサクラの身体は持ち上がった。サクラの身体がさらに軽くなったことがわかる。

 スフィアはそんなサクラの口元にできあがった心身統一の丸薬を含ませる。だけど、それはすぐに零れ落ちて地面に転がった。何度も、何度も試すがうまくいかない……もう自ら薬を呑み込む気力がなくなっていたのだ。


「ど、どうしましょう、スライムさん……! サクラちゃんが、サクラちゃんが……」

「焦るな。今、水を持っていく。それで無理にでも飲み込ませろ」


 グリムは器用にコップを頭に乗せて、サクラのもとまでこぼさないように跳んだ。その揺れるコップを手にすると、スフィアは再度丸薬と水をサクラの口に入れる。そして、口を閉めるとサクラは空気を求めて水を飲み込んだ。

 その直後、小さなサクラの身体が発光する。と同時に、光が広がってアトリエ内を包み込んだ。途端に泡のような小さな灯が現れる。きらきらと輝くその灯は間違いなく魔力だった。


「これはもしかしてプロフェットの魔力特性か?」


 スフィアは首を縦に振った。


「『心身統一の丸薬』に入れた『効力草』はプロフェットの特性を持っている薬草です。その効果は魔力特性の効果上昇……心身統一の丸薬は魔力が減少した際に周囲から一定容量まで魔力を蓄えることができます」


 舞い上がる光はそれこそ妖精のようにサクラの身体を飛び回って消える。まるで祝福を与えているようだった。そうしたサクラの表情は穏やかな寝顔に変わっていた……もう大丈夫そうだ。ほんのりと平熱に戻るのをスライムの肌で感じられた。

 スフィアも再び額を合わせると涙腺を堪えながらも優しい微笑みでサクラの肩を抱いた……「よかった、よかった」と。同時にグリムも疲れがどっと出てのか、ぐったりと座り込んだ……といってもスライムが床にへばりついたようにしか見えなかっただろうが。

 それでもとりあえずはひと段落だ。


 ――だがレクチャーしたとはいえ、まさかこんなにすんなり行けるとはな。


 グリムはスフィアの安心する様子を眺めながらふと思う。

 何度も言うが、錬成は錬金術士でも一種のコツをつかまなければうまくいかない。助言したとはいえ一発で成功させるほど簡単なものではなかったはずだ。一流の錬金術士でも作るものによっては一時間や二時間、下手をすれば丸一日だってかかってしまうというのに。

 されど、スフィアは成功させた……よほど錬成を簡略化したアイテムだったのか、はたまたすごい才能の持ち主なのか。


 ――まぁ、今はどっちでもいいか……。


 グリムは安堵の息を吐く。今はあれこれ考えるよりも、誰かを救えた、という優越感に浸りたい。聖騎士としても鼻が高い。


「スライムに鼻があるかはわからないけどな」


 そんな冗談を自分で言うほど、グリムの気分は高揚していた。スフィアもそんなグリムに微笑みながら、しばらくサクラの回復を待ったのだった。



ここまでは下書きがありました。

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