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18 決して貴金属は与えないでください。辺境伯からのお願いです。

「ウエディングドレス以外の服を着なさい!」

「断る。」

の続きです。

「とにかく明日服を買え。代金のことならば心配はいらん。」

「まあ太っ腹。」

「後でお前を遣わしたアンバー姫に請求させてもらう。」

「それだけはご勘弁を!」

 あのどんな汚い手を使っても結婚してこい、と言った時のアンバー姫の狂気にみちみちた瞳を思い出して、体がぶるるっと震えた。

 正直言って処刑よりもアンバー姫にどやされる方が怖い。

 結婚が成功すればいいが、失敗したときは一体どうなってしまうことやら。

「冗談だ。というか、お前をそこまで怯えさせるアンバー姫って何者なんだ。」

 鬼の中の鬼でしょうね。

 自分のためなら死刑囚を脅してその命を天秤にかけさせることもいとわない心に獣でも飼ってるとしか思えないやっかいな権力者ですよ。

 黙ってなんとか微笑みを浮かべた私を見て何を思ったのか、フロスト侯は

「お前はやっぱりさっさと王都に帰れ。」

 と言ってきた。

「いやです。」

 帰るわけないでしょうが!首が飛ぶよ物理的にね!

「何がそんなにお前をかたくなにさせているんだ、本当は俺とは結婚なんかしたいと思ってないんだろう?もしかしてアンバー姫に弱みでも握られているのか?」

 惜しい!握られているのは弱みじゃなくて命!

「弱みは握られてませんが、とにかく私は王都には帰りません。あなたと結婚して、しけ......面白おかしく毎日を過ごします。」

 危ない、死刑を免れる、と口を滑らせるところだった。

 死刑囚だとわかると結婚はおろか、王都に強制送還か最悪即刑執行されてしまう。

 それに、彼に死刑囚だと知られることはどこか後暗いような気持ちがする。

 フロスト侯は、はあ、とため息をついた。

「そんなに結婚したいのなら王都にいくらでも相手はいるだろう。お前も黙って立ってれば、まあ、それなりなんだから、ひざまずいて大きな宝石のついた指輪でも持って求婚してくる奴だっているんじゃないのか?」

「色のついた石に興味はありません。」

「色のついた石ってお前......。女はああいうキラキラしたものが好きだろう。いや、そういう話をしているんじゃなくてだな。」

「あのようなアクセサリーのたぐいは邪魔だし強盗に狙われるし、何より役に立ちません。まあ、世界一固いと言われているダイヤモンドならクルミの殻割りとかに使えそうですけれど。」

「ちょっとまて、強盗に狙われる?王都で?ずいぶんと治安が悪くなっているな。」

「はい。最近では隙を見せれば強盗や暴漢なんかはすぐに寄ってきますよ。後は自分よりも身分が下だと思えばやりたい放題の貴族のお坊ちゃまに襲われたりとか。」

「なに!」

 フロスト侯はさらに眉間のしわを深くして難しい顔をした。

「その時はハイヒールで踏んだり蹴ったり、鍛えた拳で殴ったりしていましたが......。」

 フロスト侯は口をへの字にして何かを考え込んでいる。

 が、そんなことより私はとてもいいことを思いついた。

「宝石のついた指輪にいい使い道があります!五本の指にずらりと並べて殴れば殺傷能力が数段上がる凶器になります!しかも一目では凶器とは気づかれない!ほら、なんでしたっけ、そういう武器がありましたよね、拳につけて威力を上げる金属でできた。」

「ナックルダスターのことか。」

「それです。」

 わたしはびしっとフロスト侯を指さした。

 するとフロスト侯はつかつかと私のところへやってきて、がしっと私の肩をつかんだ。

「やっぱりお前は王都に帰るな死人が出る。」

「ですから帰りません、と何度も言っているんですが。」

「今までよく犠牲者がでなかったな。」

「人殺しなんてするわけないじゃないですか。半殺しくらいで穏便にすませています。」

「おい。」

「冗談です。」

「冗談に聞こえないんだよ。」

「でもか弱い女性を狙うやつなんてそれくらい反撃されて当然じゃありません?うふふふふふ。」

「目が笑ってない!」

 口には出さないけれど、肉体的には反撃できなくても、情報収集により弱みを握って社会的に抹殺した貴族のおバカは何人かいる。

「おい、今何か恐ろしいことを考えてただろう。」

「いいえ?」

 優雅ににっこりと微笑んで見せた。

 フロスト侯は私から手を離すと

「まったく、お前に貴金属は与えるべきではないな。花の指輪くらいがちょうどいい。」

 と呆れたように言ってきた。

 しまった、また呆れさせてしまった。

 宝石に興味がないなんて本音をいうべきではなかったかもしれない。

 こういう場合はやっぱり、そんなプロポーズをされてみたい!とかいうべきだっただろうか。

 ああ、やっぱり男性に気に入られるような受け答えは難しい。

 こんなことならばシエラを以前から見習っておくべきだった。

 そんなことを考えていると、フロスト侯は私が座り込んで花輪を作っていた場所のそばにひざまずいて、シロツメクサを三本ほどちぎると、両手を二、三回くるくるとまわして、何かを作っている。

 王都の貴族の男性とは鍛え方が違うのだろうけれど、筋肉質で厳めしいフロスト侯が人を殺しそうな鋭い視線でシロツメクサの絨毯の中に埋もれているのはなかなかシュールな光景だった。

「ほら、お前にはこれで十分だ。何をするかわからんから金属類は今後身に着けるなよ。」

 フロスト侯はそう言って、座ったまま私に三つの白い花が付いたシロツメクサでできた指輪を渡してきた。

「......これは?」

 想像もしていなかったものが出てきたので、驚いてしまい聞き返してしまった。

「そういえばお前はもう子供じゃなかったな。ついまだ子供のままのような気がして......。何をやってるんだ俺は......。」

 そう言って頭をかいている。

「すまん、こんなものはいらんだろう。」

 私は捨てようとする彼の手から慌ててその指輪を取り上げた。

「いいえ、いります!こんなに素晴らしい造形物は初めて見ました!この前の花輪も芸術的な作品だったけれど、こちらはたった三本の花で作られているというのに繊細にして斬新!これは美術界に革命を起こしますよ!」

 感動のあまり手が震え、ため息がもれた。

 どうやってできているんだろうと思ったので、いろんな角度からなめるように眺めてみたけれど、さっぱりわからない。

「ただの子供の遊び道具だ、大げさな。」

 私は興奮を抑えられないというのに、作った当の本人はまるで関心がないようでいたってクールだ。

「侯爵様、これをぜひ王都の美術工芸コンクールに出品しましょう。いえ、それよりもまずは国王陛下に献上しなくては!」

「落ち着け、これくらい誰でも作れる。」

「これが落ち着いていられますか!さすがは現代の名工!」

「まあ気に入ったのならばやるから、それで騒ぎを起こすなよ。まさかとは思うがさっき言っていたようなことをすれば問答無用でそいつは取り上げるからな。」

「この芸術品を私が独り占めしていいとは......。」

「ただの草だろう、こんなもの。」

「ただの草かもしれませんが、自然のものほど美しいものはありません。所詮人間がどれだけ美しいものを作ろうとしても自然には敵わないと思いませんか?それに私の母国のハカティアには植物や動物をモチーフにしたものが多いんです。それが最近では自然回帰といって結構流行しているんですよ。やはり、皆自然のものが一番良いと思い始めているんではないかと思います。」

 私も指輪を作ってみたくなり、もらった指輪はそっと胸元に入れてフロスト侯の隣に座ってシロツメクサを適当にぶちぶちとむしって、それをくるくると輪っかになるように曲げたり結んだりしてみた。

「あら?やっぱり難しいわねこれ......。ん?」

 シロツメクサは輪っかになるどころか、私の両手の指にからまってしまって手が全く動かせなくなってしまった。







お読みいただきありがとうございました。



この二人がわりと普通に話してて、すごい、と思ってます。

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