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13 子供だから扱いやすいというのは安易な考え

子供レモーネは何も考えていないので、これよりしばらくフロスト侯視点となります。

 執務室に入ると、そこにはナハシュとバーンとポムピンとかいう女がいた。

 それから、六歳児くらいの黄色い髪の子供がバーンに襟首をつかまれて持ち上げられている。

 もはやトラブルのにおいしかしない。

 なんなんだよお前らは!

 ハゲる!

 俺の母方の親戚は薄毛の家系なんだよそんなに俺をハゲさせたいのかよ!

 思考が停止して頭が真っ白になりかけていると、ナハシュがバーンから子供の両脇を抱えて奪い取った。

「子供をそんな持ち上げ方をしないでくださいよ、副隊長。かわいそうでしょう。」

 その子供といえばされるがままに抱き上げられ、足をプラプラゆらして床を眺めている。

「おい、それ、あの女だろ。」

 俺は思わず指を指して言ってしまった。

「え?あの女とは誰のことを言ってらっしゃるんですか?閣下。」

 ナハシュが驚いて聞いてきた。

「あれだよ!レのつく黄色い奴だよ!」

「ヴァンドルディさんのことを言ってらっしゃるんですか?よくわかりましたね。」

「その目!……の色とか……髪の色とか!わかるだろ!」

「いや、すごいですよ閣下。」

 俺はおそるおそる子供を見た。

 目があったが俺の体が固まることはなかった。

 なんだ、あんまり怖くないじゃないか、しょせんは子ドラゴン恐るるに足らず。

 気を取り直して子供をぎろりとにらんでやった。

 するとこちじっと見た後、俺を指さして

「じんふろしゅと。」

 とだけ言った。

 いいぞ、何の害もない!

「実はポムピンさんが、ヴェネルディさんに何かをしたらこのような子供の姿に変わってしまわれたのです。」

「すすすすすすみませえええええーーーんんんっ!魔法失敗しましたああーーー!!!殺さないでえええーーーーー!!!!!!」

「魔法?お前、魔法使いなのか?」

「そそそそそうですううーーーっでも出来そこないなんですほとんど魔法使えないんですすみませんすみませんっ!目が!目が怖すぎですううううーーーー!!!!!」

 魔法使いか、めったに人前には姿を現さないし、その実態はよく知られていないから実在しないと思っていたが、本当にいたんだな。

 なぜ魔法使いが王都の商家の娘についてきているのか謎は残るが、今はとりあえずどうでもいい。

 特に強い力を持った魔法使いというわけでもなさそうだし、むしろ何の役にも立たなそうだから放っておいても大丈夫だろう。

「すみませんんんっ!処刑だけは!処刑だけはご勘弁をおおおおおおーーーーーー!!!!」

 ポムピンはひざまずいてなぜか俺に許しを乞いながら泣いている。

 いや、むしろよくやった!

 感謝状を贈りたいくらいだし、領地を与えてほめたたえたい。

「領地と領民に害を与えていないのだから罰を与えるのはおかしいだろう。別に謝る必要はない。」

 そう言うと、ポムピンは顔を輝かせて

「ははああーーーーーっ。」

 とひれ伏した。

 いちいち大げさな奴だ。

「よし、それじゃあこいつが無害な子供の状態のうちに王都に送り返すとしよう!」

「だめですよ閣下!こんなに小さな子供では森や山道は危険です。ポムピンさんにまずは元の姿に戻してもらうべきです。」

 ナハシュがすかさず抗議してきた。

 お前は誰の味方なんだよ俺の言うことを聞けよ俺は辺境伯だぞ。

「私、元に戻る方法を探してきます!」

 ポムピンは素早く部屋を出て行った。

「あ、おい!」

 そんなもん探さんでいい!

「しっかし、魔法ってすげえなあ、ナインちゃんがこんなガキになっちまうんだもんなー。」

 バーンが子供の頬をつつくと子供はその手をバシバシ叩いている。

「おじさんはさわらないでー!」

「おじさんじゃねぇ、かっこいいおにいいいさんだ。」

「副隊長は子供に近づかないでください。教育に良くありません。」

「なんでだよ!」

「存在そのものが有害です。閣下、私はこの方を隊の方に預けてきますので、その間ヴァンドルディさんのことを見ていて下さいね。」

「ひでえ!おい!ひっぱるな!」

 ナハシュは子供を下ろすと、バーンを引きずりながら部屋を出て行ってしまった。

「おい、お前ら待てこいつを置いていく……な……。」

 部屋に子供と二人きりになってしまった、気まずい。

 子供は苦手だ。

 だがあの女よりはかなりマシなことには変わりがない。

 ナハシュがいない間にこいつをなんとか王都に返す方法がないだろうか。

「ねえねえ、あのさあ。」

「うわっなんだ!いきなり話しかけるな!」

 子供はいつの間にかレバー料理の皿を持ってそばに立っていた。

「ぜんぶたべたよ!」

「おう、そうか。」

「おいしかった!はい!」

 そう言って皿を押し付けてきた。

 それだけだ。

 なんてことだ。まるで別の生き物だ。

「あのさあ、あのおじさんがさあ、たべたいっていったからさあ、れもがさあ、ぽいってしたらさあ、ぱくってたべていぬみたいだった!」

「そうかそうか、何を言ってるのかまったくわからんが、たいしたことを言っていないということはわかる。」

「あはははははははっ!」

「何がおかしいんだ。」

 人を指さして笑うな。

「おい、俺は忙しい。遊ぶならよそで遊んで来い。」

「よそってどこ?」

「この部屋以外のところだ。」

「うん、わかった!」

 子供は元気よく返事をして、ダアアアアアーーッと部屋を出て行った。

 よし、厄介払いができた。

 外でどうなろうと俺は知らん。

 たまった仕事をするべく机について、しばし書類に取り組むことにした。

 あのレのつく黄色いあんちくしょうのせいで最近はかなり仕事が滞ってしまっているのだ。

 しばし集中して仕事を消化していたが、ふとやはりまずいんじゃないかという気がしてきた。

 城内は有事ではないとはいえ軍事要塞の体制を保っている。

 そのため武器はそこら中に配置されているし、フランケンシュタイン博士夫妻以外は屈強な兵士達しかいない。

 何かの拍子に死に至るような事態に合わないとも限らない。

 あまりの強烈な印象で忘れていたが、あいつはアンバー姫の命令でクグロフに来たのだった。

 王族の命を受けた客人を領内で死なせたとあれば責任追及は免れない。

 やっとクグロフを落ち着かせたというのにこれでは水の泡だ。

「はあ……。」

 仕方がない、あいつを探しに行くとしよう。

 部屋を出て屋敷内を歩いて回ったが、あいつらが使っている部屋にも他のどこにも見当たらない。

 あいつが出て行ってからそう時間はたっていないはずなんだが全く、どこへ行ってしまったのか。

 屋敷の前の庭と古城と博士のところにも行ってみたがどこにもいなかった。

 まさか兵舎のほうに行ったんじゃないだろうな。

 ここにはいないだろうと思いながらも兵舎の入り口側にある訓練場に顔を出してみた。

 そこではちょうど新兵達が行軍訓練を行っていた。


 ♪王都の女の飯まずい

 マジでまずい!

 スゲエまずい!

 う~ん、まずい!

 もう一杯!


 俺たち誰だか教えてよ

 一、二、三、四

 国境警備隊!

 一、二、三、四

 マジ強い警備隊!

 マジヤベエ!

 マジパネエ!

 クソパネエ!

 警備隊!


 兵士は鋼鉄防御壁

 ……



 相変わらずよくわからん訓練歌だ。

 そして新兵を指導している上官が大声で罵倒している。

「このロクデナシのクソったれども!声が小さいぞ!くたばりかけのミミズにでもなったのか!」

『サー!イエスサー!』

「足ががくがくしてんじゃねえかこのロクデナシども!イモムシの○×☆※の方がまだ※☺○△◆※だぞ!」

『サー!イエスサー!』

 鬼の形相の我が弟、ロバートが自ら新兵を指導していた。

 仕事中は鬼上官になるんだが、時々弟は二重人格なんじゃないかと心配になるときがある。

 この仕事モードの弟を見たら市中の婦女子は間違いなく卒倒するだろうな。

 やれやれと思いながら弟のところへ向かおうとすると、子供の叫び声が聞こえた。

「くさったじゃがいものやくたたずども!おおごえだせ!もうじじいにでもなったのか!」

『マム!イエスマム!』

 おいいいいいいっ!お前そこで何やってんだよ!

 部屋から追い出した子供は、ロバートの隣で腕を組んで新兵達にげきを飛ばしていた。


ありがとうございました。

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