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第8話 強くなりたい

 孤児か。私達という事はカイルもなのだろう。


 ノエズ=シャルはともかくとして、クベルも孤児だった。


「小さい時に、両親が死んじゃって身寄りの無かった私達を引き取ってくれたのが今の家。私達はね、その家に恩返ししたくて魔王様に仕えようと思ったの。だって、魔王様に仕えるって事は凄い事だから」


 ニューラウドに仕えてる理由をカイルが「んー、僕たちは色々あったからね。成行きかな」と話したのは、だからか。


 俺は何も言わず、今はただ頷いた。


「打ち首、本当は怖かったんだ。頭の中いっぱいに、死にたくないって言葉が浮かんだよ」


 内容とは裏腹に、本人はへらっと笑って、それを語る。


「あの偉大な魔王様に仕えることは光栄な事だけど、何も出来てない気がするのはどうしてかな? シャルと出会う前、命令で人間界に行ったの。沢山、人間を殺した。そんな時悲しくなるのは何でかな? おかしいよね、私は魔族なのに。人間を殺して領地を広げられればそれは誇れることなのに……」


「沢山の命を終わらせてきた癖に、いざ自分の死が目の前にくると怖いなんて……最低だよ」


 アイルは命を大切に思えるやつだ。人間を殺した、それは俺にとって許せない事だ。


 でも俺が彼女を責めなくても、自分で自分を叱ったり、責めたり、後悔したり出来る。


 だから俺は、


「――そうだな、死ぬのは別に怖くない」


 本心を話す。


「えっ、なんで!?」


 別に一回死んでるから、とかそんな理由じゃなかった。クベルだった俺も、死を恐れてはいなかった。


「死ぬのが怖いって幸せだと思うんだよ。多分、死ぬのが怖いんじゃない、今を失うのが怖いんだ。今が大切で幸せで、そんな奴しか怖いって思わないんじゃないか?」

「確かに……」


 俺はそういう失うものが何も無かった。既に失ってたから。たった1人の”大切”さえ、簡単に失ったから。


「俺は死ぬのよりも、もっと怖い事を知ってる。……アイルは自分の力不足で大切な人を守れなかった事ないか? 俺は自分の無力さを感じるだけで、何も出来なかった本当に」


 自分が消えるより、大切な何かが消える瞬間の方が何十倍も怖い事なんだよ。何十倍も辛い事なんだよ。


 アイルは目を伏せ、首を振る。


 そして今にも泣き出してしまいそうな顔で、


「そっか、シャルは怖い思い、した事あるんだね。ごめんね、思い出させて」


 と儚く微笑んだ。


 そんなアイルの額を軽く弾く。


「でっ!」

「うるせー」

「なっ! うるさいって、うるさいってぇ!!」


 額を抑えながら、人差し指を突き立て俺に迫る。


「同情とかいらないんだよ。あれは、俺だけが背負うべき、いや、背負っていい事なんだよ」

「でも――、」


 言いかけた彼女の言葉を止める。


「泣き顔は嫌いなんだ。大人しく涙、引っ込めとけ。んでもって、お前ら二人には仮がある。何かあったら、頼れ」

「……ふっ、ははは、一般魔族の癖に何それ! 変なの。でも、うん、ありがとう、シャル」


 やっぱり、彼女達もどうしたって魔族だ。いくら二人が他の魔族とは違っても、その事実は揺るがない。俺も人間を殺した二人を許すことは出来ない。


 だから今は、こいつらも守れるくらい、強くなろう。


 それだけを思った。


「よし、そろそろ帰ろうか。カイルが起きちゃったら秘密がバレちゃうもん」

「だな」


 同意し、アイルの後を追う。後ろ姿に目を向けると彼女のポニーテールが元気に揺れた。



 ◇◇◇



 ここ数日の勉強もとい自主練で、魔力についての大体は理解した。


 魔力は力の素とする何らかの物質=マナ、を必要とし、自身が常に放っているという力=レヴェリー、とマナを無意識的に調合させた、というものらしい。『転生の書』によると力の種類は火、水、光、土、風、闇、で魔力が上達する程、使いこなせるらしい。


 今のところ、俺はまだランダムでこの六種類が出るので安定していない。


 流石はノエズ=シャル。魔力のステータスがBだっただけある。


「そういえば、人間の時は結構、剣を極めてたんだったけ」


 誰もいない自主錬場(と言っても、湖の前なのだが)で記憶を辿る。


 しかし、魔力の練習をしていると痛い程感じた。クベルの時よりも明らかに体力が無い。最初よりは、持つようになったものの、今も連続だと三回の魔力使用が限界だ。


「剣も知識だけあって体力が付いていかないんじゃな」


 ひとまずは、魔力だけに集中しよう思う。


 そして俺は、あれから未だカイルとアイルの家に間借りさせてもらっていた。一度は出て行こうと試みたものの「出て行かれた方が無駄に心配して迷惑だ」と言われてしまい、結局仮を作ってしまっている。


「シャル? やっぱりここだったか」


 背後からの声に振り返った。


「カイルか」

「また練習? 努力家だな、任務の為に魔力の特訓とは。て言っても、この任務には魔力あんまり関係ないんだけど」

「……べ、別に好きでやってるんだから良いんだよ」


 まさか、魔王を倒す為とも言えないので、咄嗟に口を付いた「俺の魔力じゃ南森管理も危ういからな」というのが二人の間では俺が魔力を特訓する理由になっているらしい。


 ニューラウドから与えられた南森管理の任務。成行きで南森管理を一緒にする事になっているが、実のところ仕事内容の理解度は皆無だ。


 後で、ちゃんと教えて貰わなきゃな。


「で、何か用事か?」

「ああ、そうだった。これ、シャルの? 最初はアイルのだと思ったんだけど違うって言うからさ」


 目を向けると、それは黒いリボンだった。


「落としてたのか」


 あの時、リカリス=フェリスが落としたのを拾ってポケットに入れといたはずだったのだが。


「はい。それと、使いを頼みたいんだけど、城下町でこれ買ってきてもらえる?」


 リボンと共に何やら文字の書かれた紙と金貨を受け取る。


「ああ、分かった」

「助かるよ。じゃあ、宜しく」


 買う物は、ガリック、ガッシュ、リンゴ、か。


 紙の内容を確認し、俺は城下町へと向かった。


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