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第4話 進むべき方向


「ていうか、そろそろ休憩しない? 疲れたよね。さっき、城下町でぶどう買ってきたし」

「休憩! ぶどうジュース! 早く言ってよぉ。ほら、シャルも行こう」

「……ああ」



 この二人を避けるのを止めたとはいえ、信じられるか、といえばまた別の話だ。人との距離は難しい。俺は二人のどこまで踏み込んで良いのだろう。二人にどこまで踏み込ませて良いのだろう。



「ねぇねぇ、これ、ぶどうジュースってなんか久しぶりじゃない?」

「言われてみれば確かに。僕も好きな方なんだけど、ちょくちょく飲もうと思う程じゃないからなぁ」

「おぉ〜、分かってるね。たまにが美味しいんだよねぇ」


 二人の会話を後ろで聞きながら、俺はため息を一つ零した。


 まぁ、どうにでもなるか。


「完成! はい、シャルもどうぞ!」


 丸い机のヘリに等間隔に三つのグラスが置かれた。机を囲むように四つの椅子が置いてある。二人が手前の椅子を引いた。続くようにして俺も座る。


「……いただきます」

「うん! どうぞ、どうぞ。美味しいよ!」

「とか言ってるけど、作ったの僕だし」


 ぶどうジュースの入ったグラス傾け、控えめに口の中にそれを含む。


「カイル〜、細かい事気にしてるとモテないよ?」

「アイルに言われると何かなぁー」

「うん……美味しい」


 「えー」と頬を膨らませていたアイルだったが、俺の発言で表情を一変させた。


「だよねぇ! 私達オリジナル! 私も飲もーうっと」

「僕のオリジナルね」

「細かい、細かいよ〜。いでっ」


 カイルがアイルの額を軽く弾き、


「う、る、さ、い」


 と、しかめ面を作る。

 

「うぅ〜、もう! 私が悪かったよ」

「判れば宜しい」

「っはは……」


 くだらないような、でも、懐かしいような、楽しいような、変な気分だ。


 失笑と共に下に向けた顔を上げると、二人の驚いた顔があった。


「何か変だった?」

「……いや、何ていうか、つい」

「つい、ねぇ。ていうか、シャルも笑うんだね」


 含みのある言い方をした後、甚だ失礼な事を言う。俺だって、笑ったりするというのに。


「お前、失礼なやつだな」

「うはははは! 何それ、僕そんなん初めて言われたよ」


 笑われた。それも大爆笑。腹を抱えて涙まで流している。そして、俺の羞恥心にもそろそろ限界が来てしまった。


「そんなに笑うなよ、カイル!」


 あ。



「「名前!」」



 二人の声が重なる。


 俺が自覚したのと同時にそれを口に出され、恥ずかさは倍増した。

 あぁぁ……本当、調子狂う。


 アイルとカイルのニヤけ面を見ていられなくて、手の平で目を覆う。


「いやぁ、君は本当に素直じゃないんだね! うふふふふ、あぁ、もう、嬉しすぎてにやける!!」

「何でアイルが嬉しいのさ。僕が名前呼ばれたんですけど」

「そういうカイルもニヤけてるじゃん!」

「そりゃあ、だってやっと名前呼んでくれたわけだし」

「あぁ! 何だよ、名前ぐらいで大袈裟なんだよ。アイルもカイルも」



 こうなったら、とことん呼んでやる、という勢いで俺は二人の名前を呼ぶ。


 するとアイルとカイルは顔を見合わせて破顔した。


 失敗したかも……。


 気を入れ直す為に、もう一度ぶどうジュースのグラスを手に持つ。


 その途中でアイルが思い出した様に「そういえば」と口を開いた。


「シャルって、ターバントからここまで来たんだよね?」

「そうだな」

「え、じゃあじゃあ、シャルはやっぱり大魔王、ニューラウド様に仕えたくて国を出たの?」


 あまりに唐突な質問に、グラスを口に持っていく手が止まる。けれど、ここで動揺を見せるわけにもいかない。俺は迷うことなく頷いた。


「ああ」


 それに崩すなら内側からだ。魔王の下について油断した所を欺いてやる。きっとそれは簡単な事じゃない。とてつもなく時間のかかる事かもしれない。でも、覚悟を決めろ。どんなに理不尽でも残酷でも最初は絶対に逆らうな――そう自分に言い聞かせた。


「そっかぁ。でも、シャルは一般魔族だから少し大変かもね。私達でさえ、仕えるための試験は手こずったし」

「アイルも仕えてるのか?」

「もっちろん。私もだけどカイルもだよ!」


それが光栄である、と言うようにアイルは微笑み、続けた。


「まぁ、城下町から離れた南森みなみもり担当だから、魔王様の部下の部下の部下って所だけどね」


 俺の頭の中に魔界の地図が浮かび上がる。


 城を中心に城下町、森、そして四国、って広がってるわけか。


「南森も歴とした王都だよ。だから、文句言うな?」

「はーい」


 不服そうではあるが、承服するアイル。


 一般魔族よりも上なはずの、二人が南森だとすると俺はどこ担当になるのか分かったもんじゃないな。


「ニューラウド様に仕えたいなら、まず城に行って手続きするんだ。謁見するだけなら簡単だから。城までの行き方は分かる?」

「ちょ、カイルは冷たいね~。大丈夫だよ! 一緒に行こ、シャル。てか、今すぐ行こう! 善は急げぇ!!」


返事も待たずにアイルは俺の手を引いた。強引に引かれ、足がほつれる。


「た、確かに場所は分からないけど、今からって本気なのかよ?」

「そんなの気にしない! 私にどーん、と任せなさい! そうと決まれば今からGOだよ」


……何をどう任せれば良いのだろうか。


後ろからは、やれやれと言うようにカイルがついて来る。


大体まだ心の準備ってもんが……ぁぁあ!


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