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第1話 プロローグ どうやら転生したらしい

 「勇者候補クベルよ、お前は死んだ――」


 一瞬、その言葉の意味が理解出来なかった。 


 何を……言っているんだ? 気持ち悪い。頭の中がぐるぐると、大人しくしてくれない。


 と、金色の斜光が頭上から降り注ぐ。

 前に広がる純白の景色は『死』などというものとはまるで無関係だ。



 しかし、声を信じるなら俺は死んだのだろう。でなければこんな所にいるはずがないのだ。


 自嘲的な笑みを浮かべ、すぐに俯く。


 記憶が確かなら俺は、


「何も出来ないで死んだって事なのか……?」



 どうしようもない虚無感が襲う。


 俺は――ストリアとの約束さえ果たせずに死んだ?


 自分で自分に腹が立つ。



 なんでだよ!

 まだ俺は何も出来てないのに……それなのに死んだのかよ!

 こんなのって、こんなのって無いだろう?

 くそったれ……。



『お願いです、クベル。私達の住むこの世界を魔王から守って』


 あの時の約束、ストリアの言葉が脳裏を過る。


「クベル、お前は魔王ニューラウドを倒しに行く途中の道で落雷により死んだのだ!」


 そうだ、思い……出した。


 どれだけ俺は無力なんだよ。本当に――最悪だ。


 俺が魔王を倒せなかったということは、魔王はまた街を一つ消したということ。


「チャンスが欲しいか?」


 淡々とした問い掛け。しかし、俺の心は揺れ動いた。きつく拳を握り返す。



 もしも、



もしもそれを望んで良いのなら、



 今後こそ絶対に魔王に復讐すると。


 彼女の願いを叶えると。



「チャンスを寄こせ」


 気がつくと俺はそう答えていた。



「その心意気に免じ、お前を転生させてやろう。……転生の書だ、持っていけ」


 刹那、天から厚めの書物が降ってくる。

 これが『転生の書』と言うものなのだろうか。


「お前が暮らす世界の常識、お前自身についての本だ。さぁ、行け!!」


 発言や、疑問を全く受け付けないと言うように声は事を進め、ついに俺はあの世から下界へと飛ばされた。


 そして――再び生を受けた。



『お願いです、クベル。私達の住むこの世界を魔王から守って』


 生前の俺はこんな些細な約束も守れなかった。


 あの時俺はストリアにこう答えたのに。


『当たり前だ。……待っていろ、必ずあなたの願いは叶える』


 だから、もしも奇跡というのが世界にあって転生した先で――彼女の生まれ変わりと出会う事が出来たなら今度こそ守りきってみせる。


 俺はこの胸にそう誓った。



 ◇◇◇


 どうやら、転生というものをしたらしい。


 目の前の曠然(こうぜん)とした湖を取り囲む様に広がる森。月さえ存在しない、闇が覆う世界。


「――ッ」


 予想外の事に思わず絶句する。俺はこの様な場所を知っていた。


 まさか、転生した先が魔界(・・)だったとは。


 転生、なんていう上手い話に何も無いはずがない。いきなり魔界ってのは驚いたが、俺は魔王に復讐する為に転生したんだ。この転生先はむしろ好都合だった。


 ここには確実に魔王、ニューラウドがいるのだから。


 しかし、この世界にいるのが自分以外魔族なのだとしたらそれは厄介だ。何しろ、全員が俺の敵になるわけだから。


 苦渋に顔をしかめていると、俺は一冊の書物を手にしている事に気がついた。


「あ……『転生の書』!」


 すぐさま書物に目を向ける。


 暗闇の中でも効く視界に違和感を感じつつも、俺は恐る恐る、その1ページ目を開いた。



 ――――――――――

 

 ノエズ=シャル(17)男

 一般魔族

 ターバント出身

 魔力 B

 剣 B

 運 AA

 スキル ???

 

 ――――――――――



「ノエズ=シャル? 魔族って、何のことだよ」


 確か、神は言っていた。


 『転生の書』に書かれているのは、転生先の世界での常識、それと俺自身についてだと。


「じゃあ、ノエズ=シャルってのは、俺の……事、なのか?」


 鼓動が脈を打ち、体内にどろどろとした血液が流れる。


 ごくり、と喉を鳴らし、もう一度『転生の書』を見た。


 内容は同じだった。


 

 魔族・・、その二文字が俺を凍りつかせた。屈辱的だ。


 勇者を目指してたはずの俺が、魔族に転生だなんて。


「神はストリアとの些細な約束すら守れなかった俺を許さないわけだ、ははっ……。良いさ、やってやるよ。魔族だからなんだ! 魔王には復讐を、人間には庇護を」



 俺は生き抜いて、自分自身とストリアの為にやり遂げてやる。


 魔族――ノエズ=シャルとして、この魔界で必ず……!

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