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第14話 東の国で


 やっぱり、スライムのシチューは美味かった。料理の腕は流石だ。


「ねぇねぇ、私、また東の国(チェルドシア)に行かなきゃなんだけど、二人のどっちか付き添いで来てくれないかな?」

「シャル、行ってきなよ」

「まぁ、別に良いけど」

「じゃあ、シャルって事で。少ししたら出るから宜しく!」


 王都の外か。王都から東西南北に続く四つの国のうちの一つ。東の国(チェルドシア)。どんな国なんだろうか。



 東の国(チェルドシア)について無知過ぎるのも何だ、と思い『転生の書』で四国について書かれたページを開く。



 ――――――――――

 <四国>

 北の国(マリケイト)

 南の国(ターバント)

 東の国(チェルドシア)

 西の国(ヨミリカ)

 これらの国は…………

 ――――――――――



 説明が続く中、目を引く一文があった。



 ――――――――――

 ……チェルドシアは四国でも最も貧しい暮らしを強いられており……

 ――――――――――



 あまり軽い気持ちで足を踏み入れる様な場所じゃない、ということか。


「よし、準備完了! 行こうか」


 アイルは肩から斜めに鞄をかけ、拳を上に掲げた。即座に『転生の書』を閉じ、


「いってきます」


 カイルに向けそう言うと、アイルと共に東の国(チェルドシア)へ向かった。


 ◇◇◇


「ここが、東の国(チェルドシア)か」

「シャルは来るの初めて?」

「来るのは初めてになるな」


 自然と話す声が小声になる。誰もいない。響くのは俺達の足音と話し声だけだ。


 いくつかある石造りの建物も、全てが崩壊しかけている。


「ここね、私達を育ててくれた家があるんだ。まぁ、その家っていうのがその孤児院……なんだけど」


 彼女の視線の先に目を向ける。


「ここに用があったのか?」

「……少し、差し入れをね。暇な時はいつも。人間界に遠征とかしちゃうと、なかなか来れなくなっちゃうから、来れる時にね」


 はっきりとは言えないが、今日のアイルは何処となく元気が無いような気がした。



 と、孤児院の扉が開く。中から一人の老人が顔を出した。


「ヒノさん!」


 駆け寄ったのはアイルだ。


「もう体は大丈夫なの?」

「もちろんだとも。長く()せっているわけにもいかないだろう? いいから、中に入りなさい」


 アイルに続いて、中に入る。数人の子供がもの珍しそうにこちらを見ているが、孤児院と言っていたから、ここの子たちなのだろう。



 聞くと、ヒノさんと呼ばれた老人は少し体調を崩していただけのようで、大した事は無いようだった。


「いつも悪いな、アイル。ん……今日は初めて見る顔があるな」


 俺の事だろう。


「あ、この子はね、一緒に魔王様に仕えてる子で、シャルって言うの!」


 自分の事くらい自分で言おうと思ったのだが、アイルに先を越される。


「そうか、魔王様に。……魔王様にももう少しだけ慈悲というものがあれば……」


 その発言は、この国が貧しいのは魔王のせいだ、ということを連想させた。


 ヒノさんは続ける。

 

「飢餓で人口も随分減ってしまった。この国に残る者は、各個に集落を作ってやっとのことで生き延びているが、わたしらの集落はもうここのだけで最後だ。いつまで生きられるか」


 まさかそんなに酷い状態だとは思っていなかった。予想を超えていたものに、思わず視線を落とす。


「そんなに弱気にならないで、ね! なんとかしてみせるから」


 そう言い切るアイルも、無理して笑顔を作っているのがバレバレだ。


「それより、ヒノさん……子供たちだけに差し入れてるんじゃないんだたらね。ちゃんと、皆で食べて」


 改めて目を向けると確かにヒノさんの方が明らかに子供たちより痩せこけていた。まさかとは思ったが、もしかしたら子供たちの食事を優先して自分の食事は疎かにしていたのだろうか。


 魔族なのにどうして。



 と、次の瞬間、何かが壊されたような突然の衝撃音。


 突然の事に子供たちは薄ら涙を浮かべ、身を固めている。


「お前らはここにいろ。俺が外を見てくる」


 音を立てないように扉を明け、外に出る。


「なんだよ、あれ……」


 そこにあったのは、自分の身長を軽々と超える巨体。


 あんなの、見たことない。魔物なんだろうが、魔物は攻撃されない限りほとんど無害なはず。


「ま、待ってよ、ミノタウロスって嘘でしょ? しかも危険種って」


 じっとしていられなかったのか、外に出てきたアイルが冷や汗を流す。


「危険種?」

「う、うん。あまり知られていないんだけど、魔物の中には攻撃性に特化した魔物がいるの。それが危険種。危険種は攻撃欲求も強いからたまに国に攻めいったりしてるらしいけど……ミノタウロスの危険種なんて最悪すぎるよ」


 不幸中の幸いでミノタウロスはまだ俺達には気がついていない。しかし、周囲の建物は次々に破壊されていく。話を聞いた限り、見つかれば俺達も確実に攻撃対象になるだろう。


「アイル、皆を連れて今のうちに逃げろ」


 俺の言葉に頷き、アイルは皆を連れてミノタウロスとは逆方向に走る。が、途中で足を止め、


「シャル……? どうして来ないの」

「あいつが俺達の気がつくのは時間の問題だ。逃げ切れるかは分からない。だから、少しでも食い止める」

「バカ! そんなの私が許さないんだから」


  そう叫ぶと、キッと俺を睨み付け、踵を返した。


「なっ、アイル!!」

「ヒノさん、子供たちをお願い!」


 普通、逃げるだろ。だって、アイルは逃げられる状況だった。


 ……本当、アイルとカイルには救われてばっかだ。


「シャル、勝とうなんて思わないでね。時間を稼ぐだけ!」

「分かってる」


 そもそも、そんな事を思ったりしない。この前のカイルとの戦いで自分の実力は痛いほど分かったつもりだ。


「行くよっ」


 勢いを着け、走り出す。狙いは脳、それか眼球。動きを止めるには、そこが一番手っ取り早いだろう。



 周囲からマナに使えそうなものを手に取り、魔方陣を出現させる。走っているため、的が定まらない。気持ちが焦り出した時、



 ”焦りは禁物”



 カイルの言葉が蘇った。そうだ、変に焦って攻撃を早まると足元をすくわれる。

   

「ごめん、シャル! 私の攻撃で、気づかれたみたい!」


 となると、やばい。ミノタウロスの攻撃対象が俺達に変わる。


 焦りは禁物、だけど、そんな色々頭で考えている余裕はない。


 攻撃を放つ。光属性。また攻撃を放つ。風属性。


「くそっ、駄目だ」


 属性にばらつきが有りすぎるし、脳付近にも眼球にも、距離がありすぎる。


 これじゃあ、足止めすら――出来ない。


 ミノタウロスの鋭い眼光が、恐怖心を煽る。そして、数秒も経たないうちにミノタウロスの腕が大きく降り下ろされた。


「流石危険種、ってか? 威力ありすぎだろ」


 的を大きく外れていたし、回避するのはそう難しくはなかったものの、腕の降り下ろされた地面は(ひび)を作った。


 しかし、俺の目は罅では無く、地面にのめり込んだ腕の方を捉えていた。考えるよりも先に体が動く。


 頭の中に、あの腕を使い距離を縮めたところで眼球に攻撃をする、というイメージが浮かぶ。確証はどこにも無いのに、成功する気がした。



 魔方陣を出現させ、風属性をイメージする。ミノタウロスの腕がめり込んでいた地面から持ち上がる。その衝撃で、俺も宙に浮いた。


 ――いまだ。風属性の力が魔方陣から放たれた。反動と、風の力で俺はミノタウロスの上からの攻撃が可能になった。


「シャル、ヒノさんの短剣! 使って!!」


 タイミング良く、短剣が飛んでくる。


 魔族になってから剣を手にするのは初めてだった。


 でも俺は、過去に無名から、()で勇者候補になったんだ。

 絶対に体が覚えている!!


「ああああああぁぁぁっ!」


 俺は急降下し、その矛先をミノタウロスの眼球へと定める。


 手応え。そこから(えぐ) る様に、剣を(ひね)り、抜く。


 ミノタウロスは悲痛な程の叫び声を挙げ、膝を着いた。


 その直後、俺も地に足を着く。


 息が苦しい。でも呼吸を整えている時間は無かった。


「逃げるよ、シャル!」


 アイルが手を引く。言われるがまま、今はただ走った。


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