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これからオレはこの異世界で生きていく  作者: 竜胆
序章:長い長い一日は、始まりの第一歩
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森の中

お久しぶりです。

完結まで頑張ります。

「ハッ……ハッ……ハッ……」


 どこまでも続く真っ暗な森の中を、一人の男が駆け抜ける。

 草木をかき分け、道なき道を走り続ける男は何かから逃げ続けていた。


 もうどれだけ走ってきたことだろうか。

 無我夢中で走り続け、どこをどう走ってきたのか、どれくらいの時間走ってきたのかなんてわからない。

 ただ、ぐっしょりと体を濡らす汗のしずくがどれだけ男が必死に走ってきたかを表している。


「も……もうダメだ。走れない」


 男はとうとう倒れこむようにして立ち止まり、その場に生えている木に背中を預けてもたれかかった。


「ハァ……ハァ……ハァ……」


 深い森の中にいるはずなのに、鳥の鳴き声一つ聞こえない。

 シンと静まり返った中で、自分の呼吸の音だけがやたらと大きく聞こえた。


「撒いたか……?」


 一体今は何時なのだろうか。

 朝なのか、昼なのか、夜なのか。

 

 日の光が差し込まないこの森の中、唯一の光源はいたるところに生えている月光草の淡い光だけだ。

 おかげで今の時間帯がさっぱりわからない。


 男はじっと真っ暗な森の先を見つめる。

 

 ……何もない。


 ただ、暗闇が続くのみ。

 どうやら追ってきていた物は、あきらめたらしい。


「ふぅぅぅ……死ぬかと思った」


 男は木に背中を預けたまま、地面にズリズリと座り込んだ。

 バッグから皮袋の水筒を取り出し、一気にあおり乾ききった喉へ水を送る。

 呼吸をするのも忘れ、生ぬるい液体を一気に飲み干すとぶはぁっと大きく息を吸った。


 呼吸を整えながら、男は考える。


 どうしてこうなってしまったのだろうか。

 今日の依頼は、依頼者たちの荷物持ちだったはずだ。

 狩りに必要な道具を持ち、後ろからついていくだけで済むはずの簡単な仕事。

 狩りに同行するため多少の危険は覚悟していた物の、周囲に気を使って無茶さえしなければいいはずだった。


 だが、気が付いたら一人で得体のしれない何かに追われていた。

 依頼者たちはどこへ消えたのだろうか。

 なぜ自分はこんな深い森の中を走っているのだろうか。


 ……自分を追ってきていたアレは、何だったのだろうか。


 やはり、こんな依頼受けるべきではなかったのだ。

 目的も明確にされておらず、ただただ仕事の内容にしては割高な仕事を何も考えずに請け負ってしまった。

 狩りは順調に進み、自分に身の危険が及ぶことは全くなかった。


 苦労といえば、剥ぎ取った素材が荷物として増えていく程度のこと。

 あと数匹狩って今日の狩りを終えようというときにアレは現れた。


 まだ森の浅い場所、常闇ではなく黄昏時のような薄暗い森の中で、木の陰から唐突に表れたあいつ。

 最初はただの布きれかと思った。

 ふわふわと半透明の布のようなものが森の中をすり抜けた。


 次の瞬間、依頼者の様子が急変した。

 まるでそれの存在を予見していたかのような素早い対応。

 まず轟いたのは巨大な雷鳴だった。

 そして一拍おいて放たれた巨大な光……


「あれは……神聖魔法……?」


 悪しきものを裁く神の光。

 神職にしか使えない高等魔法のはずだ。

 それを瞬時に繰り出したのだ。


 薄暗かった周囲は光に染まり、油断していた男の視界は強烈な光によってホワイトアウトした。

 ようやく視界が晴れた時には、すでに周囲には誰もいない。


 ――否。


 アレと、二人きりだった。

 

 目の前にいたはずの依頼人達の姿はどこにもなく、木々の隙間をフワフワと漂っていたアレだけが、何事もなったかのように平然と彷徨っている。

 訳も分からず、男の眼はアレにくぎ付けになる。


 目をそらすわけにはいかなかった。

 金縛りというのだろうか。体が一切動かない。

 背中どころか全身が粟立ち、瞬きする余裕すらない。


 目の渇きが限界まで達しても、おそらく血走っているであろう目はいうことを聞かず、喉は一切の水分を失う。


 ゆっくりと、ゆっくりと動いていたアレがその場に止まった。

 男は息をのむ。


 ゆっくりと……ゆっくりとアレが向きを変える。

 この時ようやく男は気が付いた。

 アレが人型をしているということに。


 半透明のアレは、ぼろ布のようなものを纏った人型をしていた。

 輪郭がはっきりとしないため、気づけなかったのだ。

 やがて、後ろを向いていたアレの顔がとうとう正面を向いた――


 ――ぶるっ


 男は座り込んだまま身震いをした。

 

「アレの顔が……、思い出せない」


 どんなに深く考えても、アレの顔が靄にかかったようになり、鮮明に思い出すことができない。

 ただ、わかるのは深淵のような目と口があったことだけ。

 

 そして、その深淵と視線が交差した瞬間のあの口の動き。

 遠く離れて、その声を聞き取ることはできなかった。

 読唇術なんてもちろん習得していない。


 だが、何故なのかわからないが、はっきりとこう言っていた。


「みぃぃいぃぃぃぃつけたぁぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁ」

 

 

 その言葉を認識した瞬間、男は走り出していた。

 全身が、すべての細胞が逃げろと言っていた。


 全力で走り、木の根で転んでも、枝葉が皮膚を切り裂いても一切立ち止まらずに逃げ続けた。

 そして気が付いたら、ここにいた。


「なんだっていうんだ……なんなんだよあれは……」


 男は心を落ち着かせるために目を閉じたが、あのおぼろげな顔が瞼に張り付いておりすぐに目を開けた。

 目を開けると、すぐ目の前でアレが自分の顔を舐めるように見つめているのでは――

 そう思い、身構えるもただ暗闇が続くだけ。

 

 寒くもなく、むしろ熱いはずなのに体が震え、歯がガチガチと音を立てる。


「大丈夫だ、大丈夫……アレはもう追ってきてない。大丈夫だ……」


 男は自分に言い聞かせるようにつぶやく。

 そう、今は危険な森の中に一人でいるのだ。

 アレのことよりもここからどうやって帰るかを考えよう。


 そう思って男は持っている荷物をあさる。

 緊急時、まずは落ち着いて自分の持ち物を確認してから動くべきだ。

 だが、荷物はほとんど逃げている最中に落としてきてしまったらしい。


 持っている物は水筒と短剣、身に着けるように体に縛っていたいくつかの小物だけだった。


「たったこれだけ……これだけの荷物でこの常闇の森を抜けないといけないのか……」


 男は肩を落とし、地面に並べた荷物をじっと見つめ続ける。


 ――パラ


 月光草で照らしていたその地面に、一枚の葉っぱが降ってきた。


「――ッ!!」


 その瞬間、全身が粟立つ。

 まるで氷を首筋に落とされたかのように、寒い真冬の日に小便をしたときのように細胞が震えあがり、何かの存在を感じた。


 男は慌てて地面に転がるようにして木から離れると、上を見た。


 ――何もいない。


 こっちじゃない。

 慌てて周囲を見渡す。


 だが、やはり周囲には暗闇が続くだけだ。


「……気のせい……か?」


 男は立ち上がり、荷物を回収するために振り向いた。


「みぃぃっぃいぃぃぃつけたぁぁぁああぁぁぁぁぁぁ」


 目の前に、青白い男の顔が浮いていた。

 本当に聞こえているのか、聞こえていないのか、頭の中に響く魂を揺さぶるような、そして凍り付くような声。


「うわあああああああああああああああ!!!!!!」


 男は自分の口から悲鳴が漏れていることすら気づかない。

 魂を鷲掴みにされ、声を上げる以外に何もできないでいる。


 深淵の穴が三つ空いた顔が、男の顔にぐんぐんと近づいてくる。

 大きく口が開き、すべてを飲み込むその穴が、まるで悲鳴を上げているようなその顔が近づいてくる。


「わああああああああああああああああああ!!!」


 アレの顔と、男の顔が交差するとき、男の視界がすべて光に包まれる。


 ――そのまま男は、光の中へと意識を手放した。  






 

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