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REAL WITCH ~ MISSING~  作者: 山極由磨
9/15

「失礼、何の用でっか?」物言いは慇懃だが、明らかに『その筋』と解る五分刈りのダークスーツが、真也が開けたウィンドを覗き込んでくる。

 レクサスの前後左右にはまた別の強面なダークスーツが一人づつ、門の前に車を寄せた途端、瞬く間に五人ものコワイお兄さんに囲まれた。

 懐の中には恐らく拳銃位は忍ばせているハズだ。 

 長時間の運転で心身ともにフラフラな真也も、この構図には正直、背筋に一本ぶっとい鋼材が通った様な気がして、思わず背筋がシャキンと伸びた。

 ところが、助手席の慧は臆するどころかいつもの調子で五分刈りに向かって「高山のオヤジさんに用があるんや『新世界の慧ちゃん』言うてもうたら解るわ」 

 五分刈りはケツのベルトに指した無線機を使い連絡を取る。暫くして急に腰を折り「失礼しました先生、今、門開けますんでしばらくお待ちを、直進されたら車庫が有りますんで」

 音もなく巨大な門扉が開き、街路灯に照らされた日本庭園の中を続く道が現れる。言われた通り走ると消防署もビックリの広大な車庫が現れた。

 中には数代の車。ベンツS550、センチュリー、レクサスLS600、等など、もちろん、ナンバーは全部『8888』や『7777』などのレア物ナンバーばかり。

 虎鉄とアントニオを残して車から降りると、どこからともなくまたダークスーツが現れ手にした金属探知機で全身をスキャンされた後、直接手でボディーチェック。

 一人が慧に手を伸ばそうとすると「兄ちゃん、魔女相手にボディーチェックは無意味やで」とあの艶っぽい笑を投げつつピシリとたしなめる。

 頬をヒクつかせながらすごすごとダークスーツは下がっていった。

 車庫から外に出ることなく邸内に通じる通路を、これまたダークスーツの男数人にエスコート、と、言うか監視されつつ延々と歩く。

 緊張のあまりキョロキョロ出来ないが、この邸宅の豪勢な作りは目に届く範囲でも十分わかる。

 心地よく香る檜をふんだんに使った数寄屋造り。ただし、肝心な外壁や躯体、建具などは戦車砲をぶち込まれてもビクともしない作りに成っているハズだ。

 かなり歩かされ、ようやく立ち止まったのはだだっ広い和室。

 二メートルは有にある虎と鷲をかたどった大理石のオブジェをバックに車椅子に座るのは、ギラギラとハゲ頭を光らせでっぷり太った初老の男。以前、暴力団の特集ばかり組む三流週刊誌で見たことのある顔。高山組長だ。

 その右手には、ピッチピッチのナース服に身を包んだポッテリ唇の、エロいフェロモンをプンプンと放つ若い女性看護師。左手には長身痩躯、きっちりと撫で付けた黒髪に、シルバーグレイのスリーピースに身を包んだ中々のルックスを持つ中年男。

 高山は、慧の姿を認めるなり親しげに。


「おお、慧ちゃん、久しぶり、あの時は世話に成ったァ」


 慧も軽く会釈を返して。


「オヤジさんも、そんなエロい看護師連れて、だいぶアッチの方も元気に成られたみたいで」


 言われた高山は、問題の看護師の尻をナース服越しになでつつ、笑いながら腰をくねらせる彼女を満足げに眺めた後。


「慧ちゃんの魔法のお陰やがな、あの相馬のアホンダラに任せてたら、魔羅どころかこの足とも生き別れに成る所やったわ、イヤホンマ、エンコ(小指)摘めた事のないワシが、糖尿で足切らなあかんて、シャレにならんがな、のう青木」


 と、話を振られた彼は、細く鋭い目で慧を認め


「高山組の若頭させてもろうてる青木や。君が、あの『新世界の魔女』か、ウチの組長が世話になった。俺からも礼を言わせてもらおう」


 横で高山が豪快に笑う。


「まぁ、その分、ガッチリ銭はふんだくられたがなぁ、ホンマ、花井の先生からよう仕込まれとるわ、頼もしい限りやで」


 慧も負けずに。


「文句があるんやったら、魔法での治療に健康保険を使えんようにしてる国に云うてください、ま、ウチは医師免許持ってないですから偉そうなこと言えませんけど」


 そして、ヤクザの親分と魔女とが二人で大笑い。全く蚊帳の外の真也は、でっかいダークスーツの強面二人に囲まれ、肝を冷やしながらこのやりとりを黙って聞く他ない。

 ひとしきり笑った後、高山は顎をシャクって真也を注しつつ。


「ところで、慧ちゃん、自分の後ろでちっちょう成ってるチャラいんは誰や?自分の彼氏か?」

「こんな貧相なヤツ彼氏に選ぶほどウチは飢えてませんよ。今回の仕事の依頼主です。今、こいつの彼女を探してるんですよ」


 もう、好きに言ってくれと小さなため息を付く真也、慧はここから一気に本題に入る。


「今日、オヤジさんの所にお邪魔したんは、コイツの彼女の件です。十八日の夜中かから姿消したそうなんですけど、その彼女の故郷の徳島まで行ってみたら、立ち回りそうな先で以前オヤジさんの所で世話に成ってた相馬が術をつこうた形跡を見つけたんです。もし、その女がなんか不始末でもしでかして、オヤジさんの手を煩わせてるんやないかと思いまして。ちなみに女の名前は千原菜々美『クリスタル・パレス』で麗蘭いう源氏名で働いてました。お心あたり無いですか?」


 高山は一瞬視線を宙に泳がせた後。


「ああ、麗蘭なぁ、覚えてるでぇ、今時風の可愛らしい子やったわ『クリスタル・パレス』に行った時、何回か会うたけど、ワシぁあんなん好かん、ワシの好みはこんなムチムチのピチピチやがな」

 

 と、またエロナースの尻を撫でスカートの中にまで手をいれる。


「しゃぁけど、不義理したの、追い込みかけてるのなんぞ知らんなぁ、それに相馬のボケナスは能書きばっか垂れよってワシの糖尿よう治さんでクビにしたったんじゃ、ほんで、代わりに慧ちゃんの世話になったんやで、あのカスがどこで何しとるかはノータッチや」


 そして傍らの青木に向き直り「自分、なんか知らんか?」問われた彼は頭を横に振り「存じ上げません」


「ま、そういうこっちゃ、すまんな慧チャン、役に立てんで」


 と言いつつ高山はひょいと頭を下げる。


「いいえ、気にせんといてください。相馬が絡んでるからオヤジさん絡みかなと思うただけで、ちょっと見当違いでしたわ。こちらこそお騒がせしてすんません」


 そう、今まで見たことのない殊勝な態度で頭を下げ「ほな、失礼します」と高山の前を離れてゆく。

 真也もかなり卑屈かとも思いながらも、四十五度に腰を折り高山に最敬礼し彼の前を去ろうとすると、突然高山が言った。


「兄ちゃん、慧ちゃんに人探し頼むなんぞ、中々の甲斐性やの、ええ?」


 なんと返したら良いかわからず立ち尽くし、曖昧に愛想笑いするしかない。


「しゃぁけどな、気いつけや、あの子可愛い顔して銭にはエグいからのぉ、ケツの毛ばまで抜かれるでぇ」


 そう言って豪快に笑う高山に、もう一度四十五度の礼をして慌てて慧の後を追う。


 高山邸を出て、阪神高速池田線に乗るなり、後部座席の上に座っていた虎鉄が言った。


「慧ちゃん、気ぃ着いてんの?」


 助手席の彼女はニヤリと笑い。


「ああ、プリウスとADバンの後ろに居る黒のマークXやろ?」

「な、なんの事や?」慌てて訪ねる真也、慧は事も無げに答える。


「高山のオヤジさんの家出てから、ずっとおんなじ車があと着けてきてるんや」


 思わずルームミラーを見る。けど、どれがそれなのかさっぱり解らない。


「多分、俺たちの背景を確かめたいんだろうな、どうする、撒くか?」


とアントニオ「いや、仕掛けよや」と応じたあと慧は真也に命じる。


「今から言う住所にカーナビ設定しいや、極道様御一行を招待して、戦争や!」 


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