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REAL WITCH ~ MISSING~  作者: 山極由磨
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 池田での自分の見聞きした情報を慧に話した後、大阪にもどる道中の車内には沈黙が訪れた。

 しばらくはタイヤノイズを聴き続けてきた真也だったが、黙ってハンドルを握り続けていれば、頭の中には次から次へと悪い想像が湧いてきて止まらない。

 無理やりシャブを射たれる菜々美、ヤクザ共におもちゃにされる菜々美、最後は殺されて海に捨てられる菜々美。

 頭を振ってそんな不吉なビジョンを追い出すが、一度湧き出すと止まらない。沈黙が疎ましい。

 ルームミラーを見ると、慧は悠然と脚を組み、虎鉄やアントニオを撫でながら真っ黒い車窓を眺めている。

 その横顔は、まるで外国のコインに刻印されている女王のように気品が漂い、かなりドキマギさせてくれる美しさ。

 この文句なしの美少女が、一度口を開けばヤクザも魂消るど汚い罵詈雑言を履き散らすのだ。しかし、今のところ話し相手といえばこの少女か、オカマの猫か、カラスしかいない。

 話題は差し障りのないものに決めた「なぁ、魔法って一体なんなんや?」

 二つの輝くガーネットが真也をにらみ「はぁ?何や唐突に」


「俺らが向き合ってる出来事は魔法がめちゃくちゃ深いこと絡んでる。そやけど俺は魔法に付いてほとんど知らん。ちょっと位知識が有ってもエエかなぁおもうて」

「この大阪一、つまり日本一、早い話が世界一の大魔女から魔法の知識を得よう言うんかいな、大それた思いつきやなぁ!ウチクラスの魔女が、学会で講義したら一時間で最低でも五十万は掛かるんやで」


 と、ほぼ予想通りの答え。しかし。


「ま、今回はオプションちゅうことにしといたるわ。それに頭の温い高校中退のド腐れホスト風情に上手いこと説明できるかどうか考えながら言うのも、クイズ感覚でエエ暇つぶしになるしな」


 そう、ありがたいのやら腹が立つのやら訳の解らない言葉のあと、唐突な例え話からクソ有難い講義が始まった「まず、アンタ、頭の中に堂島ロールを思い浮かべてみ」


「堂島ロールって、あの列んでも買えんロールケーキかいな」と、彼女の指示通り濃厚な生クリームをスポンジケーキで包んだロールケーキを思い浮かべる。


「クリームの部分が、今うちらが住んでる世界、つまり《現世》や。別の言い方をすれば物質世界やな、そのクリームを包むケーキの部分が《常世》アホでも解る言い方をすれば死んだら行く世界、霊魂の世界や。ちなみにロールケーキの幅が世界の広がり、長さが時間やと思うたらエエ、これがウチら魔術師が考えてる世界の構造や。魔術言うのは、その《常世》の物理法則を《現世》に持ってる事を言うんや。あっちの世界では《思い》の力が物理を支配する力の一つになってるからな。そんで《魔力》言うんはその《常世》の法則を《現世》に引っ張って来る力の事を指し、《魔法》はその技術のことを意味してる。そう言うこっちゃ」

「つまり、その、あんたら魔術師はあっちの世界からこっちの世界へ力を持ってくる電線みたいなもんか?」


と、恐る恐る自分が理解した中身を口にする。対して慧は。


「その例えで言うたらウチらはスイッチやヒューズ、変圧器も備えた回路やな、ま、ええ線行ってるな」


 別に褒められたのが嬉しい訳でではないが、調子に乗って。


「前に店に来た魔女が言うてたけど、あの護符とか紋章いうんは、ホンマに精霊や悪魔を呼び出すんや無うて《魔力》を使う為のスイッチみたいなもの言うてたけど」

「その通り、別に《常世》からそんなモンを呼び出す訳や無い。ただ、自分のしたい事をイメージしやすくするのに護符やら紋章を使う。たとえば金属の形を変えるんなら悪魔《ザガンの紋章》瞬間移動するんやったら《太陽の第五の護符》いうふうにな。そやからホンマは護符、紋章の類の材料や魔術を実行する時間や場所なんてどうでもエエんや、ウチみたいに《魔力》の強いんはスマホの画面に出すだけで、何時でも何処でも魔法が使える。逆に力の弱い魔術師やアンタの彼女みたいな未熟な《トツケン者》は真面目に羊皮紙やら金やら銀やらで護符や紋章を作り、適した日時にしか魔法を使えん」


 と、得意げに言う慧をルームミラー越しに眺めながら、ふと真也は宗山の行っていた事を思い出す『持って生まれた《魔力》が弱かったら幾ら勉強し修行してもたかが知れてる』と、いくら《魔力》が有っても、力の不公平が有るのはこの世界も同じなのだ。


「そうや、そもそも世の中の大多数が《魔力》を持ってないアンタみたいな凡人やし、持っててもほとんどの《筋》はそんな強い力を持ってない。ま、それやから世の中上手い事いってるんや、力言うもんは選ばれた者が持てばエエ、銭の力も暴力も権力も《魔力》も、アホが過ぎた力持ったら、ろくなことならへん」


 また頭の中身が覗かれたのだろうが、もう怒る気がしない。しかし、この魔女っ子のいうてる事、なんか引っかかる。


「さ、これでウチの講義はオシマイ。これ以上知りたい事が有ったらマジ銭掛かるで、さ、運転に専念しいぃや凡俗」


 言われるまでも無いワイと、真也は真っ暗なフロントグラスの向こうをにらんだ。

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