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REAL WITCH ~ MISSING~  作者: 山極由磨
7/15

 真也や菜々美が『くみちゃん』と呼んでいた佐藤久美子は、駅前の酒屋の娘で、今は親が店をコンビニに変えそこで働いていた。

 青いユニフォームに身を包んだ彼女は、おなじ二十三歳だと言うのに夜の世界で働く菜々美とは全く人種が違う人間に見えた。

 全く染めていない黒い髪に、少し肉付きの良すぎる大人しそうな顔、指には結婚指輪。ごくごく普通の人妻だ。

 最初、久々に見る彼に明るい驚きの声を上げたが、急に深刻な表情を浮かべ「ちょっと、話したいことがあるんほなって」と、店をバイトの学生に任せ、裏にある自宅の方に彼を招いた。

 玄関横にある客間に通されるといきなり「菜々美になんぞ有ったの? 」と、逆質問。今までの経緯を話すと、眉を潜め表情を曇らせて彼女は言った。


「十九日の昼頃に、ヤクザみたいな男が店に来て 、いきなり『千原菜々美が帰ってきてるハズや、会ってないか?』って巻き舌の大阪弁で訊いてきて、私『知りません』って答えたら『隠してたら承知せんぞ!』って、大きな声で脅すんよ、もうかいちいて(怖くて)・・・・・・」


 やはり、奴らは来ていた。真也の背中に冷たいものがサッと走る。

 その後、二件の友人宅を訪ねたが、二人とも答えは『くみちゃん』と同じだった。

 巻き舌の大阪弁を使うヤクザ丸出しの男がやって来て『千原菜々美が帰ってきてるハズや、会ってないか?』と質問し、知らないと答えたら『隠してたら承知せんぞ!』と脅しを掛け帰ってゆく。

 恐らく、菜々美の部屋を家探しした時に得た情報で、友人知人宅を特定したに違いない。半ば逃げてきた様な故郷とは言っても、年賀状程度の連絡は取り合ってきたのだろう。

 幸い、真也の事に関しては、情報は渡っていないハズだ。店にバレたら色々と具合の悪いホステスとホストの恋愛だけに、真也も菜々美も相手の情報はごくご親しい知人にしか明かしていなかった。勿論、何らかの事情で連絡先が知れるとまずいので真也は菜々美のアドレスを架空の名前で客として登録し、菜々美は何と丸暗記していた。

 しかし、相手はヤクザ、どんな手段で真也の存在にたどり着いているかもしれない。

 ハンドルを握る手が恐怖と緊張でじっとりと汗ばみ、ひょっとして自分も尾行されているのではないかと言う猜疑心が急に膨らんできて、しきりにルームミラーばかり見るようになる。

 突然、懐のスマートフォンが鳴った。車を路肩に止め、ディスプレイを見ると見慣れない番号。

 心臓が止まりそうになる。誰だ?まさか、菜々美を探している奴らが自分のことに気がついたのか?

 しばらくディスプレイをにらみ続けたが、しつこく鳴り続けるので、恐る恐る出てみる「だ、誰や?」

 帰ってきた声は「電話ぐらい早出ぇや、ボケ!」慧だった。

 番号など教えた覚えなど無いのに・・・・・・と訝しがりつつも、ホッとする。

 電話の向こうの彼女は毎度の横柄な口調で彼に命じた。


「今から言う住所、カーナビに入れてこっちに来いや、手がかりが見つかった」


 言われるままにカーナビに住所を入力する。出てきた場所は川べりから五百メートルも山の中に入った場所。林道の終点の様だ。

 こんなところでどんな手がかりが見つかったのか?一瞬、最悪の想像が頭をよぎる。まさか、菜々美の死体でも有ったのか?

 不安に背中を押され、猛スピードでその場を離れた。

 車一台ギリギリ通れる林道に突っ込んでゆく、しばらくすると舗装が無くなり砂利道になる。小石が遠慮なく車のそこにぶつかり、木の枝がボディをこするがもう気にならない。

 飛ばしに飛ばしすとやがて道が終わり、森の中の崖に囲まれた小さな原っぱに出た。その真ん中には慧が足元に虎鉄とアントニオを従え待っている。

 真也が車から降りると開口一発「売り飛ばす時の査定額が落ちる走り方しよって、このアホ!」

 いちいち怒っていられず「手がかりって何や!」

 慧は指で地面を指した「ココ見てみ」

 足元を見ると、自分や慧が地面にペンキで描かれた大きな丸い図形の真ん中に居ることが解った。

 その円は、さらに大きな正方形で囲まれ、四つの頂点にはそれぞれ円が重ねて描かれている。図形の各所には、あの菜々美の部屋で見た《太陽の第五の護符》にあった文字のような物が書き込まれている。


「魔法円や、ここで魔術師が術を実行した跡や。恐らく、菜々美はあいつらに捕まってる」


 目の前が真っ暗に成りそうだった。膝が震えだし、立っていられない。

「つ、捕まったって、それからどないなったんや!」口の中が乾ききってなかなか出ない声を振り絞り真也はたずねる。


 慧は平然とあのスマートフォンをいじりながら。


「どっか拉致られたみたいやな、そやけど、どこかはは解らん、なかなか用心深い黒魔術師や《太陽の第六の護符》を使うて上手いことこっちがトレースでけへんようにしてる」

「どこか解らんって、そんな無責任な!」

「落ち着きぃや!拉致った言うことは何か目的があって生かして連れて行かなアカンかったいうことや。もし、必要なかったらぶっ殺してどこかに埋めてるやろ。念の為《パイモンの紋章》を使ってこのへん一帯の地中を調べたけど、死体が埋められてる様子は無い。まぁまぁの確率で彼女は生きてる。ギャァギャァ騒ぐなアホンダラ!」


 と、一発罵ったあと、今度は嫌に色っぽく笑って付け加えた。


「それにな、ここで魔法を使うた奴も大体特定できた。魔術師にはそれぞれ術をやるときのクセがあるからなぁ、菜々美の部屋でも概ね検討は付いてたけど、ここに来てハッキリしたわ相馬周斎そうましゅうさいちょっと前まで高山組で飼われてた黒魔術師や」


 そして、真也の横をすり抜けて、勝手に助手席に乗り込み、唖然とする彼めがけ命令を下す。


「アンタからの報告は車の中で聞くわ、さぁ、今すぐ大阪戻るで、高山組の組長は病気療養中で箕面の自宅に居るハズや、会うて直接話聞こうや」

 


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