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REAL WITCH ~ MISSING~  作者: 山極由磨
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歩道に横付けした車内で待っていると、虎鉄とアントニオを引き連れた慧がやって来た。

 ブラックレザーのライダースジャケットに同色の革のホットパンツ、黒いニーハイソックスに足元は蹴られたら痛そうな、コレも黒いエンジニアブーツ。ただ、インナーは何故か白黒虎縞のチューブトップ。肩からはポケットがやたらめったら付いた黒いレザーのボディバッグがぶら下がっている。

 魔女と言うよりかなりワルそうなロッカースタイルな彼女は、ドアを開けると後部座席にドッカと座り込み、シャープな顎をシャクって見せて出発を命じる。

 これではどっちが客だか解らない。

 その隣では猫とカラスがシートの上に。アントニオの鋭い爪が、アルカンターラに遠慮なく食い込んでいる。思わず真也はため息を漏らす。

 堺筋にある銀行のATMで必死に溜め込んだ貯金の半分を毟り取られ、またため息を付く。

 車に戻り慧に利用明細を見せると、彼女は実に嬉しそうな満面の笑を浮かべた。思わず「ホンマ、オマエ銭が好きなんやんぁ」空かさず「アンタは銭が嫌いか?」真也は言葉に詰まる。


「銭はなぁ、自分の思いを形にできる力、つまり《筋》が無いもんでも使える魔法や、銭さえあれば大抵の事は出来る。その証拠に魔法が使えんアンタでも、銭を払うことで魔女のウチを雇うて魔法の力を利用することが出来るやろ?銭こそ万能の願望機、聖杯やで」


 愉快そうにまくし立てる彼女。勢いで何か言い返してやろうと思ったが、言葉が見つからずハンドルを握る。



 新なにわ筋を通った時、ハデにパトライトを点灯させけたたましくサイレンを鳴らして走る大阪警視庁の装甲パトカーの車列に出くわす。

 陸軍の物と同じ軽装甲機動車を青く塗って、パトライトを付けた、およそ警察らしくない車には、これまたおよそ警察らしくない、兵隊並みに武装した攻撃機動隊員が詰め込まれているハズだ。

 多分、舞洲か夢洲の難民キャンプで暴動が起きたのだろう。規模が小さいうちは放置プレイなのだが、放火まで起きると一応鎮圧に行くらしい。

 千日前筋に面した菜々美のマンションに到着すると、慧は勝手に車を降り、虎鉄とアントニオに指示を出してどこかへ行かせオートロックをあけてエントランスへ、慌ててあとに続いた真也は思わず「魔法で開けたんか?」

 対して半ば小馬鹿にした様な表情で慧は答える。


「こんなしょーむない事で魔法使うか、アホ。ウチ、このマンションに部屋持ってて人に貸してるんや、オートロックの暗証番号、知ってて同然やろ」


 確か、このマンション、一番安い一LDKの部屋でも一千九百万は下らないハズ。

 部屋に着いてドアを開けると、菜々美が姿を消してから最初に入った時より臭がキツくなっているのが解る。冷蔵庫から放り出された食材が腐り始めているのだろう。

 一瞬、早よ片付けんといかん、と思ったが、菜々美と一緒に部屋を掃除する自分の姿を想像したとたん、不安感といらだちが一緒になってこみ上げてきて、玄関先で立ち往生してしまう。

 そんな彼の脇をさっさとすり抜け、慧はなんと土足の間まで部屋に上がり込む。

「靴ぐらい脱げや!」と怒鳴るが。


「こんな汚い部屋、裸足で歩けるか、ボケ、それより早ぅ電気点け」


 言い返す気力も失せ、言われた通り明かりをつける。

 また、荒らされ放題の部屋の中が目の当たりになり息が詰まる。

 ダイニングでは、冷蔵庫の中身が全て庫外に投げ出され、食器棚は開け放たれ、床には踏み潰された野菜や果物、割れた陶器やガラスが散乱し足の踏み場も無い。

 キッチンの収納庫も全部中身が引っ張り出され、鍋、フライパン、ケトル、レードルにフライ返し、大小の包丁も皆ぶちまけられている。

 居室に入ると、今度は化粧品の臭が鼻を突く、ドレッサーから投げ出された化粧品類が全部床にこぼれそれが臭うのだ。

 クローゼットの衣類。タンスの下着類は勿論全部床やマットのはがされたベッドに放り出され、小さなデスクの上の本は全部開かれて投げ捨てられていた。

 よく見れば、なんと壁のコンセントのプレートまでが外されている。

 徹底的、完膚なきまでに家探しされ、その上腹いせに荒らされた事が丸分かりだ。

 そんな、具の音も出ないほど荒廃した室内を、床に捏ねられたドレスを蹴り上げ、叩きつけられたクレンジングクリームの瓶を転がし、伏せられた本を拾い上げ目を通すとまた床に放り投げ「ふーん」とか「なるほどな」とか独り言を呟きつつ、慧は悠然と土足で歩き回り、ふと立ち止まって何か紙の様な物を拾い上げると言った。

「彼女、やっぱり魔法をつこうて、飛んだみたいやな、これ見てみ」と、指し示した薄いベージュの紙には黄色い線で描かれた奇妙な図形。三重の大きな円と、その中に正方形に囲まれた小さな円、判読不明な文字のような物が円の内側に沿うように書かれ、小円を囲む正方形の外縁にも同じ形の文字、そして、小円の中には折れ曲がった直線が交差する形で描かれている。


「《太陽の第五の護符》や、コレを使うて《常世》を経由して誰かから逃げたんやろなぁ」


 次に彼女は陶器の皿を拾い上げ、小塚につきつける。


「インセンスを焚いた跡や、部屋にコイツを焚き染め、太陽の支配時間の月曜日の午前三時に、羊皮紙に黄色いインクで描かれた《太陽の第五の護符》を示しながら、精霊を称える呪文を詠唱して、術を実行したんやろ。多分、術は成功したんやろなぁ、本人が消えたんがその証拠や、ウチクラスの魔術師になったら、こんなめんどくさい事しやんでも術は使えるけど、まぁ《トツケン者》にしちゃぁなかなかのもんやな」

「それで、菜々美はどこに行ったんや?」

「未熟なもんがこの術を使って飛ぶんやったら、一番イメージしやすい場所を行き先に選ぶんが硬いな、つまり、馴染みの場所、そんで、何かから逃げるんやったら、なるべく遠い場所」


 ここまで慧が言うと、真也は拳で自分の手のひらをパチンと叩き「故郷の、徳島や」

「ま、其の辺が妥当やろな」そう慧が応じた時、窓のガラスに何かが叩きつけられる音がした。見ると窓の外、ベランダにアントニオの黒い影が。しきりに嘴で窓ガラスを叩いている。


 慧が窓を開けてやると、飛び跳ねながら部屋に入って来て言った。


「十九日の午前中に、見慣れない連中が車に乗ってこのマンションに来たのを見たカラスが居た。車種は黒いベンツ。中から出てきたのは如何にもヤクザって感じの男三人と、黒いローブを着た長髪の男一人」

「ご苦労さん」と、アントニオに声を掛けたあと。


「ロン毛に黒いローブか、如何にもいちびった黒魔術師がしそうな格好やな、多分、そいつらは彼女を追っかけてた連中やろう、ほんで、そのロン毛の野郎がホンマに黒魔術師やったら、彼女の行き先を突き止めてる可能性が高い。急がなヤバイ、今すぐ徳島へ行くで」 

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