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REAL WITCH ~ MISSING~  作者: 山極由磨
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 近くのコインパーキングにレクサスISFを停める。車泥棒&車上荒らし対策に、日本橋で買った《ウァレフォルの紋章》をかたどった防犯ブザーをハンドルにぶら下げる。

 コイツさえあれば、並みの泥棒は車に触れたとたん気絶しぶっ倒れる。ただ、最近、ロクでもない《黒魔術師》が闇の通販サイトで泥棒よけの魔法を破る《木星の第二の護符》を売りさばいているとの事。油断も隙もないのがこの大阪だ。

 まだ陽が頂辺に来ていないというのに、商店街の入口ではいい具合に出来上がった作業服姿のおっさんが、宝焼酎のペットボトルを片手に鼻歌で『六甲おろし』を歌い。その横では中華民国から来た観光客が、通天閣をバックに記念写真と洒落込む。その手には日本橋のアニメショップと、その裏側にある魔法道具店のレジ袋。


『武本』とか言う魔術師が《庵室》を構える『パレス新世界』はその程近くに有った、どう見ても安物のスナックが入るような小汚いレジャービルだ。

 先ほどい抱いた疑いが、さらに大きくなって真也の首筋あたりに重くのしかかる。

 何階に行けばいいかわからず、エントランスの案内板を見ると表示があるのは『御用は一階へ』とシルクスクリーンで印字された一階のみ、あと残りの十一階分は何も書いていない。 しょうが無いので一階の玄関に立つ。分厚いなチーク材らしいドアを開けると、いきなり目に飛び込んできたのはロココ調の豪勢な彫刻が施されたシングルソファーに、悠然と座る一人の少女。

 赤い石のあしらわれたヘヤ・ゴムで適当に纏められた漆黒のショートボブ。ガーネットに似た赤い瞳を持つ大きく鋭い目は冷たく真也を睨み、すっと高く通った鼻筋は、白人とのハーフである事を示し、黒いレースのネグリジェに包まれたスレンダーなボディは白磁の白さ、目に痛いほどにきめ細やかな肌を惜しげもなく晒して組まれた膝の上には何故か三毛猫。細くしなやかな指はその猫の背中を物憂げに行ったり来たり。

 一瞬の見た目は少女、しかし、その居住まいから発散される雰囲気は明らかに女、それも一筋縄では行かないヤバイ女。だが、心の中をかき乱されるようないい女。

 職業上、女を見る目が命の真也は、一瞬でこの少女が纏う危険な空気を嗅ぎ取り思わず戦慄するが、そんな自分を奮い立たせ、舐められてはたまるかと。


「弁護士で魔術師の花井先生から紹介されて来たんやけど、武本慧とか言う魔女はどこに居るんや?」


 と、偉そうに少女を見下ろして訪ねる。対して彼女は「フンッ」と鼻で笑っただけで何も答えない。代わりに彼女の背後に置いてある、これもロココな意匠の止まり木の上で、カラスがバサバサと羽ばたく。

 薄暗く、重苦しいバロックな空間で、黒い薄衣一つの美しくも妖しい少女を前に『なんかヤバイ所に来てるで』と囁く本能に抗いながら、彼女の舐めた態度に腹を立て。


「おい!コラ!小娘!答えろやボケ」


 と、口汚く罵る。

 少女の目が細められ、美しい眉がキュッと狭まり、シャープな顎がしゃくりあげられる。艶かしく淡く赤い唇が開いたかと思うと。


「目の前に居るやろが、ええ?この、どアホ」


 透き通った少女特有のソプラノボイスだったが、乗せられた言葉はコテコテの極めつけにガラの悪い大阪弁。

 膝の上の三毛猫をどかせ素早く立ち上がると、本物と思しきペルシャ絨毯の上をその白い足で音もなくギャップに戸惑い息を呑む真也に歩み寄り、息遣いが聞こえるほどの距離にまで近づいた。

 甘い香りが彼の鼻をくすぐる、見上げてくるガーネットの瞳に射すくめられ、思わず息を呑む。

 しなやかな彼女の指が、突如真也の胸元まで伸びてくると、桜色の爪が細いシルクタイに触れ巻き取る。

 強引に引っ張られ、強制的にお辞儀さされる形になり、彼女の顔が目の前に。不意を突かれただけではない。華奢な腕からは想像すら出来ない腕の力に逆らえなかったのだ。

 真也の頭が、更に混乱した。


「ウチが、大阪一、つまりは日本一、早い話が世界一の魔女、武本慧や、よぉ覚えとけ、このボンクラ!」


 一気に胸を突かれ、勢い余って二三歩退き尻餅を付く、絨毯のない石張りの床に思いっきりケツを打ち付け悲鳴を上げる。それを慧は愉快げに笑う。

 ジンジン痛むケツをさすりつつ、それでも意地を見せようと。


「嘘つけや!お前みたいな小娘が大魔女なハズが無いやろが、ええかげんなこと抜かしてたら、本気で怒るぞコラ!」


 慧は、そう吠える彼を冷ややかに見下ろし。


「頭の悪いのもここまで来たら哀れを誘うなぁ、徳島のド田舎から来た、高校中退のお脳の足らんド腐れホストには、やっぱしモノ見せたらな理解できんか?」


 無礼千万な彼女の物言いにカッと来て、床を蹴って立ち上がろうとするが『え?なんで俺が徳島出身で高校中退って解ってるんや?』一瞬湧いた疑念で思わず身動きが止まる。

 そのあいだに慧は、ソファー横のサイドテーブルからスマートホンを取り上げた。

 画面にタッチし、紋章を表示させる。ソロモン七十二柱の一人、二十六の悪魔の軍団を従える恐怖の公爵ベリスのシンボル。

 スマホを左手に、右手は真っ直ぐ真也を指差す。

 彼の胸元を、なにか液体がつたう感覚が走った。それはへそを跨ぎ、シャツのあいだから飛び出して、股の間の床にポチャリと落ちた。銀色に輝き揺らめく雫。まるで古い体温計の中の水銀のよう。

 今度は背後で何か液体が床に溢れる音がした。振り返ると金色の雫が床の上を慧の方向に向かって走ってゆく。

 何が起きているのかわからずキョロキョロしていると、首の周りが軽くなっているのに気がついた。そっと手を当てると、無い。シルバーのネックレスが、無い。

 耳たぶを触ると金のピアスが、手首を見ると両腕のブレスレットが消えている。

 慧の方を見ると、その手の上で金と銀の小さな玉がクルクルと自転している。

 何が起きたか、理解するのに時間がかかった。そして理解したとき、思わず口から悲鳴がほとばしり出た。

 かつて真也の身を飾っていた貴金属で出来た二つの球を握り締めると、慧は甲高い大笑いを一発やって。


「ピアスとブレスレット、ネックレス、このグラム数やったら、大した銭にはならんやろうけど、まぁ、さっきのウチに対する非礼への詫び金としてもろうといたるわ」


 抑えようもなく、真也の体が恐怖で震えだす。

 今まで、何度か魔術師や魔女が魔術を使うのを見たことがある。でも、大抵は日本橋界隈やアメ村の賃貸マンションや雑居ビルで《庵室》を構える程度の奴らで、数万の手間賃を取って虹彩の色を変えたり、別れた女の名前を彫ったタトゥーを消したりする程度、あとは客を手玉に取るためや、ライバルを蹴落とし、喧嘩に勝てるための護符や悪魔や精霊の紋章を作ってもらうのが関の山。

 しかし、今、目の前でこの慧と言う少女がやらかした事は、そんな今まで見てきた魔法など、三流の手品かお子様相手のおまじないにしか見えなくなる、ガチの魔法だった。

この小娘は、間違いなく本物の魔女だ。

 大股開きでヘタリ込み、震えながら慧を見つめる真也の元に、いつの間にか慧の膝の上に居た三毛猫が擦り寄ってきた。

 ちょうどナニのあたりに頬ずりし、その猫は、言った。 


「やぁァ、ヤッパよう稼ぐホストだけに、エライええ男やないの、おまけにアソコも大きそうやしぃ、ウチ惚れそうやわァ」 


 そして止まり木の上のカラスは、己の羽を繕いつつ。


「オイ、慧、そのあんちゃん、まだお前の力が理解出来ねぇ様だったら、猫にでも変えて虎鉄のカマ掘らせてやったらどうだ?」


 慧はそのカラスに艶っぽい視線を投げかけ「あんまりビビらせたらあかんで、アントニオ、ションベン漏らされて、絨毯汚されたらかなわん」

 そして、勝ち誇ったかの様な悠然たる歩みで小塚に近づき。


「どや?ウチがホンマモンって解ったか?」


 深々と、何度もうなづく彼に言った。


「ほな、商売の話しょうか?」

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