始まりの始まり
「クラン久しぶり!」
「…テン?テンじゃないか!!お帰り!!」
学校の帰り道、1人で歩いていると後ろから懐かしい声が聞こえた。
僕の親友、テンだった。
テンは僕より半年誕生日が早いが故に先に『フー』を探しに山に出ていたのだ。
心なしかテンがしっかりしているような顔立ちに見える。半年ぶりというだけなのに。
テンは元々イケメンだから余計そう見えるのかもしれない。
一通り簡単な挨拶を済ましてから立ち話ではなくじっくり話をしたいということになり、僕たちは1人暮らしをしている僕の家に向かうことにした。
道中、会わなかった半年について話をした。
「テン、どこの山に行ったんだっけ?」
「カタラオ山に行ってきた。」
「帰ってきたということは『フー』をパートナーに出来たんだよね?」
「じゃないと帰ってこれねーよ」
矢継ぎ早に言う僕に対してテンはちょっと笑いながらそう答えた。
「で、どんな『フー』にしたの?」
「龍属のアルマ系で耳がしましま黒のオス」
どや!と言わんばかりにアルマ系の部分を強調するテン。
「凄いね…龍属のアルマ系なんてよくいたね」
アルマ系とはコウモリのような翼をもつ種類で、基本的に性格は凶暴。
身の回りの人達でもあまりパートナーとしていないタイプである。
「呼ぼうか?」
「え、契約済み?」
「そりゃパートナーだからな」
ニッとテンが笑い深呼吸してから召喚呪文を唱え始めた。呪文と言っても簡単なものである。
「我がフーよ、我の元に参れ!」
テンが高らかに言う。
そしてボフンと白い煙が出たと同時に目の前にパタパタと特徴的な羽を使って宙に浮いている四つ足タイプの龍が登場した。
「ちいさっ!」
そこにいたのは体長75cmくらいの小さな龍で、てっきり体長が3mくらいある大人の龍と契約したと思ってた僕はつい口走ってしまった。
後頭部の後ろから出ている長い両耳は白黒と確かにしまもようになっている。
因みに体の9割が白で耳の部分だけ黒が入っているかんじだ。
そして白くて太いしっぽをぶらんと垂れ下げている。
「ミトタって名前にしたんだ。因みにこいつ15才な」
ミトタを腕に抱きしめ、撫でながらテンが言う。
ミトタは猫のようにゴロゴロと喉を鳴らす。
「15って赤ちゃんじゃん!」
龍属は寿命が長く少なくとも800年は生きる。それから見ると15才は赤ちゃんなのだ。
「まぁまぁ気にせずに。で、いつからクランは山入りだっけ?」
「明日」
「明日…え、え?!」
「僕、明日誕生日だから明日から山入りだよ」
山に入っていたからか、いつも覚えてくれていた僕の誕生日を忘れているようだ。
「え、来月じゃないの?」
ちょっと戸惑うテン。
その様子を腕の中からミトタが見て大きな欠伸をした。
そうか、忘れたんじゃなくて月の感覚を間違えたのか。
こんな話を僕の家についてからも、ひたすらし続けた。
テンから少しでも山の経験を教えて貰って参考にしたかったからだ。
ミトタはその間、家にあったオレンジジュースを飲みほして幸せそうに寝ていた。
あれ?アルマ系って凶暴じゃなかったのか?
赤ちゃんだからか?
と、思うような光景だったが手足にある立派な爪を見てゾッとした。
怒らせないように接すれば大丈夫かな。うん。
こうして僕は次の日、テンとミトタに見送られながら自分が選んだ山であるサント山へと向かった。