第8章 祖母になった元乙女
これで完結になります。
長女ラルラの卒業式にはバーディング伯爵夫妻が父兄席に仲良く並んで座っていた。
泣いて感激している父親を見て娘は、久し振りに母に逢えて嬉しくて泣いているのだろうと、隣にいる婚約者のサイラスに言った。
それは間違ってはいなかったが、しかしそれだけでもなかった。
当然愛娘の卒業に感激していたのと、その娘ともう一緒に暮らせないという寂しさからくるものだった。
この三年間、ラルラが側にいてくれたから彼はどうにかやってこれたのだから。
まあ娘の代わりに、今度は妻そっくりな息子のロイドがやって来るのだが。
その後バーディング伯爵は財務大臣になって、その責任がさらに重くなったが、優秀な義息子が部下になったことで、以前と比べると却って仕事が捗るようになった。
しかし、その義息子に度々有休を奪われることには閉口していた。
それでも娘のためと思って辛抱し続けた。
半年後、娘への引継ぎが終われば、妻は末の娘を連れてタウンハウスにやって来る予定になっていたからだ。
しかし予定は未定。
娘が妊娠した。初めての出産は不安だろうと、アイラは王都に出てくるのを延期した。
しかも妻の妊娠に歓喜した義息子に全ての有休を奪われたバーディング伯爵は、愛する妻と領地いる子供達にさらに会うことがままならなくなってしまった。
娘の妊娠は嬉しかったのだが。
娘の出産予定日が近付いてきたある日、伯爵はある決意を持ってかつての上司であった宰相の元を訪れた。
そして、口を開こうとした瞬間、いきなり宰相に頭を下げられた。
「バーディング伯爵、これまで本当に申し訳なかった。
まさかあの馬鹿息子が君の有給まで奪って領地へ行っていたとは知らなかった。
私の一年分の有給を譲るから、辞職するなんて言わないでくれ」
新たに宰相となったジョグス侯爵は、バーディング伯爵家の婿の実父だったのだ。
そう謝られた伯爵は、苦笑いを浮かべてこう言った。
「有給は半年分でいいですよ。貴方も初孫の顔を早めに見に行きたいでしょうから」
と。
宰相から休みをもらったバーディング伯爵はその足で領地に戻り、無事に娘の出産に立ち会うことができた。
そして愛娘に瓜二つの男の赤子、つまり赤毛の婿にはどこも似ていない、自分似の孫を産婆に一番に手渡されて、バーディング伯爵は感涙にむせんだ。
その姿を妻と二人の娘が微笑みながら見つめたのだった。
因みに婿のサイラスは妻の出産には間に合わなかった。
出産が予定日より五日早かったからだ。
いつも天使のように純真なバーディング伯爵も、このときばかりはこう心の中でこう思った。
(何を悔しがっているのだろうね、婿殿は。
出産予定日はあくまでも予定日なのに。僕と君とでは経験値が違うのにね)
そしてラルラの出産からひと月半後、バーディング伯爵は妻と末娘のマイナを連れて、長男のロイドの待つ王都に戻った。
「お母様、私のことはもう心配はいりませんわ。
子育ては弟や妹の世話をしてきたから慣れているし、仕事も一応一通りおぼえましたし。
カイルのこともちゃんと見守りますわ。
それに、ここには頼りになる『鉄の心を持つ使用人』達がいますもの、大丈夫ですよ。
お父様と王都に行ってください。
お城には、財務大臣のお父様の登城を待ち望む方々がたくさんいらっしゃるでしょうから。
さすがのサイラス様も悲鳴を上げていると、お義父様からのお手紙にも書かれてありましたし」
と、娘に背を押されたからだった。
そしてそれら数年後、バーディング伯爵夫妻が王都内の公園で小さな男の子の手を引いて散歩している姿を目にした人々は、こんな会話を交わしていた。
「一時期不仲説が流れたけれど、元の鞘に収まったようで何よりでしたわね」
「ほほ、本当ですわね。お子様までお生まれになって。
見てご覧なさいな。五人目のお子様はお父様そっくりよ」
その話を耳にした義息子のサイラスが
「マルスは僕の息子だ!」
と悔しそうに歯ぎしりしていたことは言うまでもない。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
娘ラルラがヒロインの短編
「悪役令嬢物を自己啓発本とした伯爵令嬢のその後〜愛と正義と真実は疑ってかかれ!〜」
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