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貴方の笑顔を守りたい〜いつも泣かせてしまうけど〜  作者: 悠木 源基


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第4章 天才扱いをされる乙女


 エメランダ公女とラヴェル王太子は間もなく正式に婚約を発表すのだという。

 本来ならお妃教育をするためにももっと早くにそうしたかったらしい。

 ところが、なかなか彼女を補助できる取り巻きのようなご令嬢が見つからなかった。

 そのせいで、学園内で彼女を守り切る態勢が整えられなくて、婚約話が進められなかったらしい。


 なにしろ、現王妃の懐妊の情報と共に高位の貴族たちが子作りに励み、ベビーブームが到来したそうな。

 その結果、王太子の婚約者を狙う高位のご令嬢がたくさん誕生して、彼女達はみなライバルとなって牽制し合うことになったのだから。

 王太子が正式に婚約したとしても、彼らの仲を引き裂き、パートナーになろうと試みる輩が後を絶たないだろうことは簡単に想像ができた。


 もちろん王太子の側近希望者も多かったのだが、こちらの方は早くにオーガストやロードといったしっかり者が脇を固めていたので、あまり心配は要らなかった。


 ところが、エメランダの周りにはあいにく優秀かつ信頼できる同性が見当たらなかったらしい。

 この一年は彼らが守ってきた。

 しかし間もなく彼らは卒業してしまう。

 この後どうやって彼女を守ろうかと頭を悩ませていたときに、ロードの妹のことを思い出したのだ。


 全ての事柄について俯瞰的に判断できるクールな彼があそこまで自慢するのだから、一度会ってみる価値があるのではないかと。

 そして実際にアイラと会って話した結果、この子だ!と三人とも感じたらしい。なんでもピピッ!ときたらしい。


「あれはまさしくあれは天啓だったと僕ら三人には思っているよ」


 大分後になって、公爵令息であるオーガストにそう言われたアイラは、高貴な方々が何という大袈裟なことを言っているのだと呆れた。

 しかしその後の彼女の功績を鑑みれば、強ちその話は間違ってはいなかっただろう。


 とはいえ、初めてアイラがエメランダと会ったときは、彼女はまだ十二歳で、公女とは三つも年が離れていたのだ。

 つまり、本来、二人は学園の在籍期間が被るはずがないのだ。

 ただでさえ公女は、この場にいる方々同様に一年飛び級をしていたのだから。

 そしてアイラが中等部へ入学したとしても、高等部とは建物が遠く離れていたので、公女の側にはいられない。

 ましてお付の侍女見習いでは、学園の中にまでは入れなかったわけだし。


 それゆえ、彼らはアイラに高等部に編入して欲しいと言ったのだ。

 エメランダが高等部の二年生に進級するときに。

 最初にその話を聞いたとき、アイラは絶句した。しかし、言うべきことはきちんと伝えた。


「たしかにお兄様同様に早期入学する力があると、家庭教師の先生には言われました。

 でも、それはこのままあと三年きちんと勉強をすれば、の話ですよ?」


「いや、今の時点で高等部に軽〜く入学できるという意味で先生は言ったらしいぞ。

 お前幼いころから、僕が家庭教師から勉強を教わっているとき、いつも隣にいただろう? 

 それで無意識のうちに高度な知識を頭にインプットしていたみたいだからな」


「えぇ〜!」


 さすがのアイラも、思いもよらない真実につい大声を出してしまった。


「お兄様、そうは言っても、私はエメランダ様より三つ年下で、他の方々とは四つも年が離れることになるのですよ。

 さすがに無理じゃないですか?」


 しかし、兄を含めた四人組は笑顔で「無理じゃない!」と言い切った。

 そのとき、例の天才少年の話を持ち出したというわけだ。


「その天才少年はね、外交官をしているバーディング伯爵の令息でシュリン君というのだ。

 おそらく彼は将来この国にとって、間違いなく必要不可欠な人材になる。大きなことを成し遂げると期待されているのだ。


 ご両親が絶えず世界中を飛び回っているので、彼は幼いころから辺境の屋敷で、超一流の家庭教師と優秀な使用人に囲まれて育ったんだ。

 しかし、同世代との触れ合いも大切だろう?

 だから宰相が、早めに多くの子供と交わる方が良いだろうとおっしゃったんだ。


 もちろん、彼にはすでに高等部に入学できるだけの能力もあったからなのだが。

 できれば君にも気に掛けて欲しいと思っているんだ。

 年が近いし、天才同士なら理解し合えるじゃないかと思うし」


(王太子妃予定の公爵令嬢を守るだけでも大変そうなのに、その上その天才児の面倒まで見させようというのですか?

 まだ十二の私に? 

 そもそも私は天才なんかじゃありませんよ!


 キラキラ王子なのに、案外鬼畜野郎だったんですね!)

 

 そうアイラが怒ったのも当然だったろう。

 そして彼女はこうも思った。


(学園に入って同世代との触れ合い? 周りと五つも離れているのに?

 必ずしも頭と精神年齢が比例しているとは限らないのに? 

 殿下とか、宰相閣下とか、案外馬鹿なのかしら?)


 不敬罪に問われてしまうのでそう口にはしなかったが、学園の寮に入ることだけはきっぱり拒否したのだ。

 アイラからすれば泣き落としをする気など全くなく、事実のみを伝えたつもりだった。


 ところが、これまでの妹の置かれていた事情を当然知っている兄でさえ、他の二人の友人と共に目を赤くしていた。

 エメランダに至っては、アイラを抱き締めて号泣したのだった。


 因みに、祖母は人目の付くところではアイラに暴力はふるわなかった。

 兄はいつも抗議してくれたが、その度にのらりくらりとごまかしていた。

 二人で両親に訴えても、彼らはお前のために厳しくしてくれているのだから我慢しろ、としか言わず、祖母を止めようともしなかった。

 実際に自分達も鞭で打たれてみろ!とアイラは言ってやりたかった。


《その後、余分な使用人を雇えなくなった両親は、自分達で寝たきりとなった祖母の面倒を見るようになった。

 しかし、その介護の仕方に不満を抱いた祖母の怒りを買い、枕元に置いておいた鞭で打たれた。

 強烈な痛みで悲鳴を上げた両親は、そのとき初めて娘に心の中で詫びたのだった》


 その後、五人でじっくりと話し合った結果、とりあえずアイラは名目上エメランダの侍女見習いとして、アルバイン公爵家で暮らすことになった。

 そして学園の高等部二年の編入試験に受かったら、エメランダと一緒に登下校をするだけでなく、学園内では離れず常に行動を共にして、彼女をあらゆる危険から守り抜く役目をすることになったのだ。

 その対価として衣食住の面倒を見てくれて、手当てまで付与されるという。


 しかし、明日から早速編入試験の勉強と、簡単な護衛術の稽古を始めると言われて、さすがのアイラも鼻白んだ。

 そして心の中で


(将来、未成年の子供の労働を規制する法律を絶対作ってやるわ)


 と思いながら、ばれないように公子と王太子を睨み付けたのだった。




 しかし実際のアイラは、アルバイン公爵家とはギブ・アンド・テイクの関係にはならなかった。

 いや、むしろアイラの方が強い立場になった。


 なぜなら、彼女は公爵家の世話になどならずに済むことになり、本来ならエメランダを守る義務が消滅したからだ。

 


 どうして主客転倒と相成ったのか言えば、それは王太子に何気なく放った一言がきっかけだった。


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