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貴方の笑顔を守りたい〜いつも泣かせてしまうけど〜  作者: 悠木 源基


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第3章 本当は夢見る乙女


「お兄様、なぜ私までアルバイン公爵家に呼ばれたのでしょう?」


「いつも僕が妹自慢ばかりしていたから、一度お前に会いたいと思ったのだろうな」


「お兄様ったら、ご友人方に私の話をなさっていたのですか?」


「ああ。オーガストが妹のエメラルダ嬢のことを、この国で最も素晴らしい淑女だと言い張るから、腹が立ってな。

 アイラの方がもっと可愛くて優秀なのにって」


「公爵令嬢と私を比較するなんてありえませんよ、お兄様!」


 そう窘めながらも、兄に愛されていると今さらながらに実感したアイラは、嬉しくなって飛び跳ねたくなった。

 一応未だ貴族令嬢なので我慢したが、平民になったらもっと素直に感情のままに行動をしてみたいと思った。

 

 公爵家はまるでお城ように大きくて立派だった。いや、本当にかつては王家の離宮として使われていたらしい。

 そしてそこには本当に光輝くような王子様やお姫様がいたので、普段物怖じしないアイラも、大きく目を見開いて固まってしまった。

 アイラはそんな彼らと平然とやり取りしている兄に、改めて尊敬の念を抱いた。

 そしてそれと同時に、そんな兄の明るい未来を潰した両親と、父を甘やかして育てた祖母に対して恨みの念が募った。

 もちろん


「ヒュンバルト=ブレイントン=ウルフレットシュレーゲルスタイン」と、「アレクサンドラ=キャンベル=ウルフレットシュレーゲルスタイン」夫妻に対しても。


 ん?


 憎き夫妻の名前を頭の中で呼んだ後で、アイラは何やらもやもやした気分になった。

 何か大切なことを忘れているような、早くそれを気付かなければ……そんな焦りを感じた。

 


「ロード、先日君は私の側近になることを辞退すると言ったが、それは却下だ。

 私は君の能力を必要としているのであって、君の身分などは関係ないからな。

 今の段階でいきなり平民を側近にするのは難しいが、元貴族令息だったら、貴族としての礼儀も常識も弁えているのだから、何ら問題はない。


 それと、君の妹のアイラ嬢のことだが、確かに君がいつも自慢していたように、かなり賢いご令嬢だね。しかもすでにマナーもきちんとマスターしているし。

 それでオーガストやエメラルダ嬢と先ほど話したのだが……」


「殿下、その先は僕が伝えますよ。

 実はね、僕と妹のエメランダはラヴェル王太子殿下とは幼なじみなんだ。

 そして、卒業したら家族になることが決まっているんだよ」


 王太子の言葉を遮って、オーガスト公子がこうアイラに向かっていった。

 すると、彼女は顔を上気させて


「おめでとうございます」


 と言って、王太子とエメラルダ公女の顔を見てにっこり微笑んだ。


(王子様とお姫様が本当に結婚するのだわ)



 まさしく天上人のごとく美しい二人の笑顔を見て、まるで自分が絵本の中の世界に入り込んだような気分になった。

 そんな感覚になったのは、アイラの人生においてこれで二度目だった。


 因みに一度目は三年前、とある伯爵家のガーデンパーティーに呼ばれたときで、そこの美しい庭園の中で天使か妖精か!と思うほど美しい子と遭遇したときだった。

 夕暮れ時に一緒に花を眺め、会話をし、震えていたので抱き締めて温めてあげた。

 ほんのひと時同じ空間を共にした。ただそれだけでアイラは恋をしたのだ。

 普段冷静沈着でどこか冷めた目で物事を見ているアイラが。

 しかも、男か女か妖精なのか分からない相手に。


 大、大、大好きな兄にだけはその話をした。

 するとその兄は信じられないという顔をしたが、その後で嬉しそうに微笑んだ。

 この妹、一生恋などしないのではないかと、密かに心配していたからだ。

 まあ、初恋の相手が妖精では結ばれる可能性はないのだろうが、一応妹にも()()()()は備わっているのだなと安心したのだ。

 まあ、これはこれで妹に対する認識が酷いといえるだろうが。

 しかしこのときはまだ、この妹の恋心が()()()()だとは思いもしなかった兄だった……



「君は察しがいいね。さすがロードの妹だ。『一を聞いて十を知る』という例えは本当らしい。

 君みたいな子に是非とも妹の側にいてもらいたいものだ。

 なあ、エメラルダ?」

 

「ええ、お兄様。

 私、ずっとこんなに可愛らしい妹が欲しかったの。お友達になってくれるかしら?」


「恐れ多いです。でも……嬉しいです!」


 アイラは年相応の弾けるような笑顔でそう応えた。

 これまで彼女は、兄以外の人から可愛いらしいなど言われたことはなかったからだ。両親や祖母からも。


 アイラはどちらかというと、可愛いというより美人と呼ばれるタイプだった。

 つまり、かなり整った顔をしていたのだ。

 とはいえ、決してキツイ顔付きだったというわけでもなかったのに、なぜかあまり可愛いとは言われなかった。


 おそらくその理由は、アイラの態度があまり可愛らしくなかったからだろう。

 感情は滅多に表に出さず、いつも冷静沈着。会話は理路整然としていて、無駄話はほとんどしない。

 もちろん人の噂話や悪口なんて一切しなかったので、信頼はされた。しかし、親しみは持たれなかったのだ。

 でもそれは昔マナー教師をしていたという、厳しい祖母に幼いころから躾けられていたせいだった。


 祖母は自分が仕事をしていたせいで、一人息子に寂しい思いをさせてしまったと、ひたすら息子を甘やかして育てた。

 その結果、父親は甘ったれというか呑気というか、脳内お花畑のような人間になってしまったのだ。

 それを激しく後悔した祖母は、何故か息子夫婦を躾け直すのではなく、孫達を厳しく教育したのだ。

 いくら孫を教育して優秀にしても、息子夫婦が駄目なままでは家は保てない。それくらい分からなかったのだろうか。


 アイラの本来の性格は天真爛漫、自由闊達、そしてロマンチックなことが大好きな夢見る乙女そのものだった。

 つまり普段の彼女は、単に自分の本性を上手く押し隠す術を身に付けていただけだった。

 シスコンの兄も、さすがに妹がロマンチック好きということまでは把握していなかった。


(お姫様のお友達なんて、なんて素敵なポジションなのかしら。王子様との恋のやりとりをずっと側で見ていられるなんて。

 でも、結ばれるまでには、きっと様々な出来事が起こり、波乱万丈な世界が広がるに違いないわ。

 お二人の恋路を邪魔する様々な悪役令嬢や悪辣な男が現れる。

 それを私がバッタバッタとやっつけて未然に防ぎ、お二人の幸せな未来を守るのよ! 

 なんて素晴らしい役回りでしょう! やる気に満ちるわ!)


 そんなことを思い浮かべて一瞬うっとりしたアイラだったが、すぐさま冷静になってこう言った。


「友人にしていただけることは大変光栄なのですが、私は間もなく平民になってしまうので、お会いするのは難しくなると思います。

 誠に残念なのですが」

 

 するとはオーガストはニコリと微笑みながらこう言った。


「そのことなんだけどね、君には学友として妹の側に付いて、学園内のサポートしてもらいたんだよ」


「はい?」


 首を傾げたアイラに向かって、オーガスト公子とラヴェル王太子は優雅にお茶を飲みながら、気分良さげに説明をし始めた。

 その内容にアイラは目を見張ったのだった。



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