第1章 無茶振りされる乙女
短編「悪役令嬢物を自己啓発本とした伯爵令嬢のその後〜愛と正義と真実は疑ってかかれ!〜」
に登場する人気キャラ?であるヒロインの両親の生い立ち、夫婦としての絆を描いています。
シリアスな内容が含まれているため、コメディーぽい短編のような作風にはできませんでしたが、それでもできるだけほのぼのするような話にしてみました。
微微ざまぁされていた父親のささやかな微微ざまぁ返しに、クスッとしてもらえたら嬉しいです。
短編にしようと思ったのですが、長くなったので、連載にしました。
三日ほどで完結します。
「えっ?」
アイラはキラキラ眩しい集団を見つめ、あんぐりと口を開けた。全く淑女らしくない態度だった。
もしここに祖母がいたら鞭打ちの刑にあっただろう。
なにせ目の前にいるのは王太子、そして公爵令息とその妹令嬢という高貴な方々だったのだから。
少女の名前はアイラ。一応まだ子爵令嬢だった。
彼女はかつて高名なマナー教師だった祖母に厳しく躾けられていた。
しかしそんなアイラでも吃驚したのは当然だっただろう。
なにせ彼らはまだ十二歳だった少女に対し、学園の高等部の二年に編入するために、試験を受けるようにと言ったのだから。
それが中等部の二年だというならばまだ理解できた。一年だけ人より早く入学するだけだったし。
《学園には高等部だけでなく中等部もあったが、通っている生徒は高等部に通っている者の半数以下》
この国の学び舎はどこも実力主義だった。それゆえに能力さえあれば、早期入学も飛び級も早期卒業も可能であったのだから。
平民などは金銭の問題もあり、それを狙う者が多かった。
つまり、まもなく平民になる予定のアイラならば、早期入学を目指すのは当然のことかもしれない。
しかしいくらなんでも、人より四年早くだなんて荒唐無稽過ぎる話だろう。
そこで彼女はこう訊ねた。
「これまで人より四年も早く学園に入学した者はいたのですか?」
しかし彼らは首を傾げてこう宣ったのだ。
「入学年齢に関してははっきりとはわからないが、これまでの最年少卒業記録は十五歳だから、君が順調にいけば記録更新できるよ」
「もっともその記録もすぐ破られてしまうと思うけどね。
君より二つ年下の子が高等部一年に入学する予定になっているからね」
「二年後にこんな天才が二人も部下になったらこの国の未来も明るいですね、殿下」
(え~っ! 私が王城勤めする未来までもう決まっているのですか?)
たしかにアイラには選択肢などないのかもしれない。
しかし、兄のロードはあの脳内お花畑で呑気な両親に向かって
「アイラのことはご心配なく。妹一人くらい、僕が働いて飢えさせたりしませんから。
いくら貴女達のせいで平民になって出世の可能性が消えたとはいえ、上級官吏試験に合格しているのでなんとかなると思うので」
と言ってくれた。それなのに。
少しだけ恨めしそうに兄の方に顔を向けると、ロードはにっこりと笑ってこう言った。
「学園を卒業して役人になったら、最低でも一年は王城内にある独身寮にはいることになっているんだよ。
だからお前とは一緒には暮らせない。
別に部屋を借りる手もあるが、どうせ僕は滅多に帰れないだろう。
そうなるとお前をずっと一人きりにしてしまう。可愛いお前をそんな危険な環境に置くわけにはいかない。
だからそうならないためにも、学園に早めに入って寮暮らしをした方が、安全じゃないかなと思うのだよ。
とはいえ、お前は同じ年の子達とでは話が合わなくてつまらないだろう?
それならば殿下の言う通り編入試験受けて、すぐに高等部に入った方がいいのではないか?」
住居の問題……これは自分が考えていたより大きいのかもしれない。そのことにアイラも遅ればせながら気が付いた。
もしかしたらアイラまで債権者に狙われるかもしれないのだから。
貴族の娘に手を出そうとすれば重罪となるが、平民の娘ならどうだろうか?
たしかに私が捕まってどこかへ売り飛ばされたとしても、誰も助け出してくれないに違いない。
それ以外にも、金銭的な問題がある。
早く入学した方が兄に負担をかけなくて済む。それはアイラ自身も理解できた。
とはいえ、何も人より四年も早く学園に入らなくてもいいのではないか、と彼女は思った。
出る杭は打たれる。無理は禁物。
彼女は兄同様、決して自分の能力を過信していないのだ。卑下もしていないが。
「よくありません。そんな四つも五つも年上の方々と同じ寮で暮らすなんて怖いです。
だって私は、お姉様方に可愛がられるような愛らしさなんて持ち合わせていませんから。
しかも、守ってやりたくなるような儚さもありませんし。
平民落ちした元貴族令嬢で、かなり年下。
しかも口が達者で愛想の無い小娘なんて、貴族と平民のどちらからも嫌われるに決まっているじゃないですか!
まさしく虐めの対象にドンピシャなのですから。
鞭で打たれることにはある程度耐性がありますが、複数人でそれをやられたらさすがに身が持たないです。
学園の寮に入るくらいなら、隙間だらけの安アパートの最上階の屋根裏部屋に住む方がよっぽどマシです。足腰が丈夫になれそうですし。
貧乏人には頑強な体がなにより大切だそうですから。
そこが危険で駄目だというのなら、私は修道院でお世話になりたいです。
そこでなら、さすがに鞭で打たれたりはしないと思うので」
眉間にしわを寄せて、ブルッ!と身震いさせながらも、アイラは最後に力強くこう意思表明した。
そんな彼女の言葉を聞いた兄を含めた四人組は、それこそ貴人にあるまじきポカンとした表情を浮かべた。
しかし、公爵令嬢のエメランダがいち早く我に返って、アイラを強く抱き締めてこう言ったのだ。
「寮になんて入れたりしないわ。貴女はここで私と暮らせばいいのだから」
と。




