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近づいてきたのは、君のほう。〜過保護すぎる幼馴染は溺愛中〜

成果を見せるのは、君のほう。

掲載日:2026/03/28

「近づいてきたのは、君のほう。―過保護すぎる幼馴染は溺愛中―」シリーズ第17弾です。(短編シリーズ)

王都防衛騎士団所属のノインと、村娘オルガ。

二人の人生に寄り添う形で進んでいく恋の物語を描いています。

※本編の時間軸は「贈り合いたいのは、君のほう。」の後の話です。


「どうしたの、ノイン」


 話があるというノインは、寝室の扉を背にしたまま、近づいてこない。


 遠いな……。


 狭い寝室には、ノインが普段使っているベッドが、一番目立つ家具だ。


 ベッドに腰かけているオルガに、彼が微笑む。


「??? ねえ、遠くない?」

「安全距離です」


 また!?


 なんなんだろう、その安全とは。

 この家になにか出るとでも?


「君が……、君を」


 言い直してから、ノインは言葉を選んでいるのか少し逡巡する。


「嫁として迎え入れるのは、誰です?」

「え? うーん、詳しいことは知らないけど、うちの村じゃないと思う。隣村でもないかも。

 そんなに遠くない場所だといいけど、もらってくれるだけでもいいんじゃない?」

「……顔も知らない男のところに?」

「そんなものでしょ」

「君は嫌ではないんですか」

「ええ? そんな贅沢なこと考えないって。行き遅れだって言われてるし」

「だれが」


 底冷えするような声が、もれた。


「??? ノイ……」


 なんか、微笑んでるのに、変じゃない??


「うーん、けっこう言われるかな。

 まあほら、私ももう十九歳だし、ちっちゃい子たち以外はみんな結婚しちゃったしね。

 ノインもよく知ってるリンゴの木の家の、よく遊んでた子がいるでしょ? なかなか結婚相手が見つからないって長いこと困ってたみたいだけど、やっぱり先に結婚されちゃったんだよね。

 私はどうかなーって訊いてみたけど、絶対ないって言われちゃっ……て」

「……………………」


 腕組みして聞いていたノインが、少し眉根に皺を寄せている。


 一方的に話してしまっていたことに、オルガは「やってしまった」と心の中で反省するしかない。


「は、話があるんでしょ? そんなところにいないで、こっちに来たら?」

「…………」


 オルガは立ち上がって近づき、ノインの手を取る。


 久しぶりに会えたのだし、積もる話もあるはず。


「ここはノインの家なんだから、遠慮しなくていいのに。さあさあ、お座りよ」


 ぎょっとしたように目を見開いて、ノインはオルガを見つめた。

 少し、顔をしかめる。


「業務中です」


 ん???


「業務中?」

「はい」

「なにが?」

「理性が」


 ???


 首を傾げたが、オルガはノインを引っ張ってベッドの端に座らせた。

 見上げていた顔が、今度は自分の視界より低い位置にある。


 困惑しているノインに、笑ってみせた。


「で、話って? なんか私がまた一方的に喋っちゃってごめんね。

 どういう話? 恋愛相談? どんと来いだよ! なんでも言って!」

「…………恋愛、相談です、ね」


 え。


 ええっ!?


(ノインが好きな人!? やっぱりお姫様みたいな女の子かな? いや、キリッとした大人の女性かも。知的な美人? それとも守りたくなる感じの子かな。フフ)


「フフ」


 つい、口から変な笑いが出てしまった。


「……あ、ごめん。べつに馬鹿にしてないよ。ノインが好きな人なら、私はだんぜん応援するから!」

「………………」

「で、どんな相談? でも私、恋愛したことないから、あんまり参考にはならないと思うんだよね。ふっ。でも村の人たちから話は多少は聞いてるし、そっちも少しは相談に乗れる!

 あ、でもノインの仕事仲間にもう聞いてるかもしれないか。だけど女の子の目線も必要だと思う! 恥ずかしがらなくてもいいよ!」


 胸を張って言うと、ノインはこちらをじっと見てから、口を開いた。


「好きです」

「ん?」

「好きです」


 なんて?


 まさか……!


(私で告白の練習してる……?)


 オルガはぐっ、と唇を噛んだ。


「よし! 受けて立つ!」

「…………?」

「あれ? 告白の練習じゃないの?」

「…………」


 唖然としていたノインが、なにか決意したようにオルガに手を伸ばした。


 手を引っ張られたと思ったら。


(???)


 ベッドに押し倒されていた。


 おお、すごい。


「すごい! 鮮やかっていうの? スマートって言うの? こんなことされたらドキドキすると思う!」

「……君も?」

「びっくりした! でも好きって言ってからのほうがいいかも」

「さっき言いました」

「そういえばそうだね。

 うーん、でも相手が嫌かどうかはちゃんと確認してね、ノイン」

「君は? 嫌ではない?」

「嫌じゃないよ。ノインのこと、一回だって嫌とか思ったことないもん」

「…………」


 少し困っているノインの顔が近い。


 この顔で迫られたら、イヤって思わない相手なら……告白の了承がもらえるかも。


(へへっ。お披露目の席には呼んで欲しいなあ……かっこいいだろうなあ、きっと。花嫁さん綺麗だろうなあ)


 自分の想像にうっとりしてしまう。


「………………」


 にやにやしているオルガを、ノインがムッとしたように見下ろした。


「嫌ではない…………言質は取りました」

「ん?」

「俺に集中して」

「わ、わかった! 真剣にやるね」


 こくりと頷いてみせるが、ノインのこめかみに少しイラついたような青筋が浮かぶ。


「ノインの計画だとどうするの? チューとかするの?」

「……ちゅ……? キスのことですか」

「貴族は結婚式? ってのがあって、そこで誓いの? ってのをするんだよね。平民には関係ないけど。

 でも正式に結婚するまではしないっていうのも、いいかもよ?」

「……君は?」

「私はべつにどっちでもいいかな。口と口がぶつかるだけでしょ?」

「…………」


 ノインが少し、顔を引きつらせる。


「したことあるんですか」

「チューくらいするでしょ」


 近所のおばあさんが飼っている猫に、よくしていることを思い出す。


「………………」

「ノイン?」


 なんかショックうけてる……。


 彼の眼前で「大丈夫?」と手を振ってみた。


「…………こんなことなら」


 小さくもらした声が、低い。


 なんだか。


(くるしそう)


 一拍置いて、ノインが尋ねてくる。


「どんな風に?」

「え?」

「好きって、言いながら?」

「ノ」

「触れるだけ?」

「ノイン?」


 すごく辛そう。


「……俺が触れても、いいですか」


 なんだかよくわからないが、触るくらいべつにいいのに。


「いいとも!」


 よし来いとばかりにしっかりと頷くと、呆れたようにノインが息を吐く。


「経験者は余裕があるんですね」

「そ」


 それは、と言いたかったのに。


 ノインの顔、ちかい。

 キョトンとしてしまう。


 ぶつかった、というよりは、そっと、かすめるような触れ方。


「?????」


 いま。


 驚きで硬直していると、角度を変えてまた、触れてきた。


 うわあ。


「目を閉じないんですか」

「……」

「じゃあ、少し口あけて」


 口?

 なんで???


 不思議になって言葉を告げようとしたのに。


 深く、唇が重ねられる。


(んんんんん?)


 混乱したまま、びくっと体が反応した。


 されるがままになっていたが、やっと解放される。


「いっ、息、できな」

「鼻でするんですよ」


 鼻!?

 どうやって!?


 尋ねたいのに、また塞がれた。


(わ、わ、わあああああああ!)


 頭の奥がしびれる。


「オルガ」


 やっと終わったかと、慌てて空気を求めた。


「俺のお嫁さんになってください」

「え……」


 なんて?


 頭がちょっと、ぼーっとしてる。


「ち、ちょっと待って」


 せめて呼吸を整えさせて。


「待たない」


 え。


「好き」


 す?


 練習、じゃ、なくて?


「好きです。ずっと、ずっと、君だけが好き」


 ま、待っ。


「俺のお嫁さんになってください。お願いします」


 オルガの手を愛おしそうに、自身の頬にやって、懇願する瞳でみてくる。


「………………」


 これ、は、ちょっと。


(かお、あつい……)


「好きです。好き」


 す、好き好き言い過ぎでは!?


「あ、ノイン、あの」

「好きですよ、オルガ」

「ノイ……」

「お願いします」

「の、」

「大好きです。奥さんに…………なって?」

「ッ」


 視線をそらす。


 うまく声にならない。言葉にできない。

 心臓うるさい。顔あつい。


「嫌ですか?」


 首をゆるく横に振る。


「言って」

「……」

「おねがい」


(ぎゃああああああああ!)


 握られた手首に唇が落とされる。


(ぎ、ぇ)


 気が遠くなりかけた。


「オルガ」

「な、なる、から」


 目を細めて、薄い笑みをノインが浮かべている。


「なるから、うん。な、ります」

「なにに?」

「えええっ!?」

「ねえ」


 くらっと、目まいがした。


 戻した視線を、オルガは慌ててあさってに向ける。


 見たらダメだ。


「な」

「ん?」

「なるから! お嫁さんに!」


 恥ずかしい!


 ほ、っと、ノインが小さく息を吐いたのがわかる。


「触れていいですか?」

「いいから!」


 あれ、いま。


 首元に息がかかる。


(えっ、えっ)


 肩口に、唇が触れた。


 混乱のまま、視線を戻す。


「えっ、あっ、の、ノイン、肌着が、ぬ、脱げ、ちゃう、よ」

「脱がしてる」

「チューは、かっ、体にはし、しないと、おもっ」

「俺はしたい」


 それ以上さがったら……。


 さが…………。


「わあああっ!」


 限界だ!


「ノイン! ノインってば!」

「はい」

「まままま、待って!」


 ぴた、とノインが動きを止める。


「そ、そ、こ、こ、」

「?」

「はずっ、恥ずかし、い!」

「…………はい」


 顔をあげて真剣に頷かれ、あれ? とオルガは目を丸くした。


「ほかは?」

「ほか……。い、息が、うまくっ、できない」

「それはキスの時?」


 キスってなんだろう……。


 よくわかっていないまま、頷く。


「わかりました。ほかには?」

「…………脚は、汚いと思う」


 少し持ち上げているオルガの脚を見て、ノインがふっ、と笑った。


「汚いところはありません」

「汚いって!」

「…………泣かないで。俺は、君に痛いことはしません」


 ノインがそんなことをするとは思えないので、オルガは「わかってるよ」と返事をした。


「でも体の構造として、痛みがあると思うから……練習していきましょう」

「練習」

「はい。キスの練習と、俺が触れることの練習」

「?? 触っても平気だよ?」

「…………」


 少し考えるように、ノインが視線を泳がせてしまう。


 そんなことより、持ち上げている脚を下ろして欲しい。


「ノイン……?」

「平気だと思っていても、嫌だと思ったら言ってください。

 一つずつ、確認しながら進めましょう」

「わ、わかった」


 オルガが頷くと、ノインが微笑む。


「俺は待てますから、安心してください」

「? う、うん」


 そんなやり取りがあったのは約一ヵ月前。

 結局、オルガは混乱の末に意識を手放したうえに、次の日の朝にはすっかり忘れていた。


 なんだか嬉しそうなノインにつられて微笑み、思い出してから羞恥に身悶えした――そして、今。


***


 額を膝がしらにつけ、両脚を抱えているオルガはそのまま微動だにしない。


「オルガ」

「………………」

「今日は練習、やめますか?」

「……あのね」


 小さく呟き、オルガはそのまま続ける。


「なんで気絶しちゃうのか……わからなくて」


 どうして毎回……。


「気絶したくないんだけど、どうしたらいいかな」

「…………」


 そっと顔を上げて、視線を伏せたまま。


「混乱しちゃって気を失うなんて……なさけない」

「ゆっくりします?」


 ゆっくり。


 オルガはしばらく考えてから、小さく頷く。


「嫌なら無理しなくても」

「嫌って言ってない」


 そう、一度だって、嫌とは言ってない。


(恥ずかしいだけで、嫌じゃないし)


「混乱するのがきっとダメなんだよ」


 壁際まで追いやっていたランプを元の位置まで引き寄せる。


「……俺から丸見えなんですけど、いいんですか?」

「暗くしたってわかってるでしょ!」


 いや、そうじゃない!


「ゆっくりするなら見えてたほうがいい気がする」


 ……呆れてる。


「そんなに躍起にならなくても」

「だって! 昨日はちょっと息ができたんだよ! びっくりしたけど、ノインが息するのに合わせたらうまくいったのに!」

「できたって浮かれたんですね」


 どんどん上達するんだなと思っていただけに、まさかまたできなくなるとは。


 だからといって、何度もキスをすれば唇が痛くなる!


(明日こそ……!)


「……加減したほうがいいですか?」

「……そういえばノイン、前よりキスする回数が減ったね」

「…………まあ、はい」


 歯切れの悪い言い方だ。


「俺は君に合わせたほうがいいと思ったんですけど」

「っ!」


 ガーンと、オルガはショックを受けて肩を落とした。


「ノインだけ上達するなんて……」

「あれだけすればそれは」

「私はできない……。なんで……」


 ちくしょう。


(……ん? 待てよ)


 剣はストレス発散でうまく……なった。


 つまり。


(ノインは練習すればするほど、うまくなるってことじゃない!?)


 なんてこった!


「なんで睨むんですか」

「私だってできるよ!」

「? なにを言って……」

「今日はゆっくりで!」

「…………はい」


 しかし。


(ゆっくり脱がされるの、はずかしい……)


 むり。


 無理無理無理! 無理だ!


「ノイン!」

「はっ、はい?」

「恥ずかしいからランプ、なんとか」


 言い出したのは自分なのに!


 あっさりとランプに手を伸ばしてネジを回し、芯をさげてくれる。室内が一気に暗闇に支配されてしまった。


(えっ)


 思ったより暗い!


(えっ、ええっ、ちょ)


 こわい。


 一気に頭の中がパニック状態になった。


「やだ! こわい、むりっ、ノイン!」


 慌ててしがみつくと、ノインが硬直してしまう。


 芯をあげてくれたのか、室内に灯りが戻った。


「……大丈夫ですか?」

「……くっそー!」


 なんでだ!


 呼吸を整えてから、ばたばたと脚を動かす。


 ぜんぜんうまくいかない。


 情けなくてしなびた野菜にようにしていると、ノインが小さく息を吐く。


「感じやすいからそれで気を失うんですよね……本当は」


*****


 後日。


 次の訪問をしたいと騎士団にまで訪ねてきたクララを、ノインはいつもの無表情で見つめる。


 彼女の最初の訪問を、実はノインは許可していたのだ。

 きちんと伺いを立てるクララは、根っからの貴族だとわかる。


「奥様はお元気でしょうか? あれから進展はありまして!? 初心(ウブ)でかわいくて……」


 つらつらと言葉を並べるクララを、ノインが少しだけうんざりしたような瞳で見た。


「小動物みたいでこの気持ちがあふれないように必死で……尊い! 推せる!」


 熱弁が止まらないクララを止めることもせず、ノインは静かに瞼を閉じた。


 一方的に語られていたノインは、令嬢が帰ったあとにそこそこ疲弊していたという。


ここまで読んでくださってありがとうございます。

最初の夜のやり取りが判明し、一ヵ月後の彼らの夜が見える回です。

楽しんでいただけたら嬉しいです。

もしなにか感じるところがあれば、そっと教えてもらえたらさらに嬉しいです。

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