神の贈り物
縄が解けると同時にランディの目に火が灯る。
ランディの緊迫する筋肉の動きを察したか、緊張感のないドラー・エムの危機に駆け寄るペンタゴンは距離的に間に合いそうになくジャンプした。
ランディは脇に居るドラー・エムの首を腋固めにしてペンタゴンの動きを制しようと、右腕を振り上げ身体を捻りドラー・エムの眼前にラリアット状態で迫り行く。
「え、……」
危機感もなく呆けた顔で迫り来るランディの太い腕を見つめるドラー・エムは、避ける術もかわす技術も一つとしてない全くのド素人と判らせる。
だが……
――HARALI――
「な、……」
――DOTEENN!――
ランディの腕は空を切り、くるりと空転する身体は仰向けになり地に落ちた。
――BOTE――
ランディが転び倒れたが為、同じく空を切ったペンタゴンもまた、ジャンプの勢いそのままに翼で叩こうとしていたからか、空転するも飛んでいる分回転も多く腹から落ちた。
「ク、クェ゙……」
一人傍観するドラー・エム、突然の事に何が起きたか判らず、倒れる一人と一羽を見て尚、頭の整理が追いつかない。
「え、え、ええ?」
答えはドラー・エムが纏う羽衣にあるが、当の本人が現状を理解しきれていない為、代わりとばかりに天から声が降って来る……
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説明しよう!
この蒼き羽衣は、ドラー・エムの授かったチート・スキル【ひみつ魔具】の一つ!
「『は? 衣』ーっ!」
である!
この『は? 衣』を纏った者は他者からの攻撃を全て回避する事が出来、相手が「は?」と思う次の瞬間には転げて地に這いつくばっているという代物なのだ!
序でに、前の話で出て来たランディの身体を治したのも【ひみつ魔具】の一つ!
「『時間ハンカチ』ーっ!」
である!
この『時間ハンカチ』を被せれば、被せた物(者の記憶や魂には関与せず)の時間を進めるも戻すも出来、木の柄の面が進む、芽の柄が戻る、とリバーシブルでどちらにも使える代物なのだ!
そして、それ等を収納するのもまた【ひみつ魔具】の一つ!
「『異次元ポシェット』ーっ!」
である!
これは特別に普段から肩に掛けて持ち歩く事が出来、異次元の空き地を物置場として利用していて、他の【ひみつ魔具】を収納しておき、手を入れれば直ぐに取り出せる代物なのだ!
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「ああ、これでか……」
天の声が聞こえるのはドラー・エムのみ、蒼き羽衣の端を手にして何が起きたかを理解した。
だが、何故ランディが自身を襲って来たのか分からず、それ故にペンタゴンが倒れている理由も分からない。
黙り考えるドラー・エムだが、頭の中で様々な想定をしては検証するを繰り返している訳ではなく、考え出したと同時に固まっているだけだ。
天を仰ぐランディもまた、自身に何が起きたか判らず考えるが、【ひみつ魔具】の存在を知らぬランディに答えが出る筈もない。
今日まで魔獣を相手に独り闘って来たランディは、相手に触れる事も出来ずに倒され天を仰ぎ、自信を打ち砕かれていた。
結果、あろう事かドラー・エムのソレを想像の遥か上を行く戦闘能力と捉えたランディは、一つの答えに行き着いた。
「なってやるよ!」
「え?」
「お前らの仲間になってやるって言ってんだよ!」
何せ、この魔女の帽子に辿り着いた時点で相当な手練れだろう。というランディの考えが的外れであるとは知る由もない。
「良いんですか? やった……」
ランディの肯きにドラー・エムは顔の前で拳を握りガッツポーズを震わせ、感慨深く喜びを噛み締めていた。
何が起きたか判らずも立ち上がり、床に着いた腹の汚れを翼ではたくペンタゴン。
「ふん、よろしくな、ドラエム」
仰向けのまま笑みに手を差し出すランディだが、その目には何かしらの企みが見え隠れしているようでもある、けれどドラー・エムはそれを知ってか怪訝な顔を向けていた。
「あの、繋げないでもらえます」
握手を求める手に対し、繋ぐなを言うドラー・エムの意図が分からず、自身の企みがバレたか否かも判らず困惑の表情を浮かべるランディ。
「あ、手は繋ぎますよ。ただ、私の名前はドラー・エム。ドラーが姓でエムが名前。なのでドラーとエムの間を空けてください。てゆうか、私の事はエムと呼んでください」
そう言って手を差し向け握手するエムに対し、何とも面倒臭さを判らせる語りに、今度はランディの顔に判断を誤った感が滲み出る。
「クエ?」
「そういえば、貴方に名前はあるんですか?」
「あぁ゙? あるに決まってんだろ! オレはランディ・ジェ……ランディでいい」
誤魔化したのは姓か名か、産まれた土地により姓名は逆にもなる為、ランディに素性を隠す理由があるのか分からないが、何かしらの事情がありそうだ。
「では、先ずはお風呂に行きましょう!」
「クェ……」
けれどエムにとっては他人の事情よりも臭い方が問題のようで、握手した手を嗅ぎ苦笑いし、先に見付けた小屋の外に在る風呂へと手を差し向ける。
「風呂か、今日は入れると良いけどな……」
「いや、入りなさいよ!」
ランディの言ってる意味が分からず、困惑顔を向けてツッコむエム。
「いやあ、平原の北西側に火口湖があるんだが、温度がな……」
火口湖とは、雨水が火口に溜まったものであり、温度を言う時点でこのヘルズホルンが活火山であると言っているようなもの。
つまりは、マグマに直で熱せられた温泉だが。客人のもてなしに温泉を言っているのかは判らずも、敢えてを言うその温泉自体に怪しさしかない。
風呂に入れと言った手前、今更入るなとも言えず、エムは火口湖を想像するも、映画やアニメで硫黄に朽ち果て骨が転がる毒々しいイメージばかりが浮かび苦悩する。
不安に怯えるエムを尻目に、火口湖へと向かう気満々のランディは、スポンジ代りか吸水性のありそうなココナッツ大はあるだろう何かの種子を樽に入れ、入れる温度かも判らないマグマ直火温泉の準備を進めていた。




