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軍人の禊は違えるものに


 ジェット一家は、ムジル中尉の兵と共に川岸に建てた防壁の中でホール妻子を待つ事にしたが、ホール妻子は既にジャーゴンの配下に捕らえられたかBARは閉められ、妻子の行方も分からない。


 ハールは、ファンが事務所として構える部屋へと向かうも、今日に接触はファンの身を危険にもする。ハールは事務書類に混ぜ暗号的な言付けを済ませると、顔を合わせる事なく去って行く。


 ケーヒルの報告でホール妻子が教会へ連れ去られたと知り、ムジル中尉は配下にホール妻子を探らせたが見つからず、何処に監禁されているかも判らない。


 朝になり、教会でジャーゴンに呼ばれたエボーナは胸騒ぎを抑え部屋へと向かった。


――KONKONN――


「入れ」


 中へ入ると配下の兵が長机の脇に並び、机の向こうではジャーゴンが軍服を纏い、肘を付いて手を組みエボーナを品定めでもするかに見つめる。


 エボーナは自身の脇に立つ兵に身構える事はせず、兵に視線を向けてその数を確認すると察した上で敢えて訊ねる。


「ご要件とは」


「ふん、探り合いはよそう。ここには居らぬ、手を引け」


 ジャーゴンはエボーナの策略を知っていると告げ、自身に向けた手やホール妻子を探る手の者を引かせれば事を荒立てず穏和に解決出来る事を言わんとしているのだろう。


 つまりは、ケーヒルから報告にあったホール妻子が教会へ連れ去られたとする報告も、ジャーゴンの手の上で転がされていたからこそ間違った報告になったと知れる。


 歯を食いしばるエボーナに向け、人差し指を下に向けるジャーゴン、すると脇の兵がエボーナの腕と肩を取り抑え、乱暴に椅子へと座らせ核心を問うジャーゴン。


「貴様は何処まで知った」


「それもご承知なのでしょう」


 鼻で笑い少し考えるジャーゴンは、エボーナの思考の裏でも覗くかに見つめると、次に出た言葉にエボーナは驚愕したのか目を見開いた。


「私も(ミソギ)を済ませた身なのだよ、ゼロの血は危険と知れた筈だ。何故に反発する」


「反発など……!、何故(ミソギ)の記憶がある」


 エボーナの疑問にジャーゴンの目が見開く、何かを違えたと気付き考えたジャーゴンはエボーナが既に解けた状態であると理解したのか、睨みを向ける。


「貴様、いつからだ」


「察していたのだろ!」


 告げた次の瞬間、エボーナは身を(ヒルガエ)し両脇を固める右の兵の脇差しを抜き取り構え、剣で斬り込んで来る左の兵の腹に武具の隙間から剣を刺し込み、自身を寄せて巻き込み位置を換えて剣を抜き取り、長机に並ぶ兵が向かって来るのを避けて長机に乗ると、ジャーゴンへと向け走り出す。


「貴様こそ、いつから!」


 そう言ってジャーゴンの首へと剣を向け突くエボーナだが、ジャーゴンは立ち上がりエボーナの剣を左腕の武具で横へと弾き、エボーナの胸の辺りを右の拳で殴りつけた。


――BUGGOOO!――


 脇の兵の並びに吹き飛ばされたエボーナは、兵に取り押さえられるが抵抗する。だがジャーゴンの兵もまた、その力を持っているのか腕力が強くびくともしない。


「ええい、ジャーゴン、貴様この兵にも(ミソギ)をすませたというのか!」


「ふん、知れた事。それは貴様の方が詳しかろう」


 平然とした態度で物を言うジャーゴンは、エボーナを取り押さえる兵に(アゴ)を向けて指示すると、兵はエボーナの腕を後ろ手に掴み扉へと向かう。


 そこでエボーナは信じられない光景を目の当たりにする。


「……なっ!」


 腹を剣で刺され倒れた兵が普通に立ち上がり、エボーナを睨み付けると殴りかかって来た。


――BOGO!――


「痛えなこの野郎!」


 それを見て高笑いする兵の数は二十程、エボーナは今立ち向かっても勝機はないと理解すると同時に、確認の必要に盾突く事を控え、敢えて部屋の外へと連れ去られるを選ぶが、ジャーゴンはそれを察したかに問いを向ける。


「何を勘違いしておる。安心しろ、貴様如きは殺す価値もない。仲間となる者達の動きも封じた。昼には脇に立ち、ゼロの血を潰す手伝いをしてもらう。放り出せ!」


 兵は放り投げるようにエボーナを廊下へと転がし扉を閉じた


 エボーナは尻を着いたまま殴られた口から流れ出る血を拭い、どよめきに視線を向ける周囲の兵にもそれが有るのか疑心暗鬼の目を向けていたが、目の前に立ちはだかる足を目で追い上を向くと双子の顔。


「ハー、違う、ファンか」


 頭に巻く青い布の赤い階級章にハールではなくファンだと気付くも、立ち尽くしたままエボーナを見下すファンの目には、冷たくも目の奥にギラつく何かを覗かせるそれをエボーナは魔人化が故と理解した。


 息を呑むエボーナはゆっくりと立ち上がり、未だ魔人のファンに悟られぬようにと動きを合わせ、立ち上がっては落ち着きに服を払うと、誤魔化しに惚けてみせる。


「ジャーゴンの機嫌を損ねてしまったようだ」


 ファンは特に反応もなく横目でちらりとして見ては、秘書が予定を告げるかにエボーナへと報告する。


「先程ジェット一家を捕らえた兵が、こちらへと向かっております」


「な、……」


 ファンはジャーゴンの側についたのか、表情も微動だにせず語るそれを見ても、今のエボーナには動きようがない。


 上の方で何が起きているのかを知れた気になっていたが、予想よりも遥かに大きなうねりがマウワー教会のみならず、メヌエ国の軍中枢部にまで至っていると理解したエボーナは、ジャーゴンが自身を鎖もなく泳がせる理由に魔人化が有ると考え、苦々しさを堪えつつも展望を見据えていた。



「ふふん、……」


 教会を出てから暫くして、ファンが急に笑いを零してエボーナを見やる。

 一瞬、何事か分からず警戒を見せたエボーナだが、考えに至ったのか警戒を緩め、まさかの機転と気付きファンを笑う。


「やってくれる!」


「双子が故、ハールが解かれたと気付き私もそれに気付きましたが、私はこのままの方が何かと都合が良いかと思いまして」


 ファンは魔人化を解く事もなく、ハールの気付きに双子が故の妙な以心伝心に触発されたようだが、魔人化の体質特性を活かす方を選んだらしく、それを直ぐに活かしてみせた。


 普段から計算高く冷たいファンらしからぬ顔で笑うと、エボーナを騙せた優越感に浸れたか、息を吐いて気を引き締め直すと普段の顔に戻るファン。


「ジェット一家をどうする」


 ファンはエボーナに視線を向けた後に周囲を確認、少し下を向き声を下げて伝える。


「ジェット一家を連れているのは魔人兵です。既にムジル中尉の配下に伝え、奪還する作戦は整えております。ホール妻子の救出にエボーナ様は川で待機を」


「川で……まさか、ジャーゴンめ、同じ手を考えたか。ファン、べフォイを使い伝えろ……」


 ファンはべフォイの名を聞いて少し考え視線を戻すと、話の続きを聞き意図を理解したのか笑みを向けて肯きを返した。




 昼を前にジャーゴンの兵に呼ばれた村の人々は、教会前ではなく川側に建てた防壁の前へと集まり始めている中、道具屋もBARも店を閉めたまま人の気配は無い。


 魔人化していたジャーゴンや兵を相手にエボーナはどう立ち回る気なのか、兵に呼ばれジャーゴンの横に立ったエボーナは、集まる村人達に視線を巡らす他にない。


 防壁を背に見回すも、草を刈られた平原の果てにジャーゴンの配下がちらちらと銀の武具の反射を見せているのは、恐らく魔獣をそこに仕込まれているからなのだろう。


 エボーナの策では村の中央から教会を襲わせる予定だったが、ジャーゴンは村人を襲わせ被害者を生む事で、それを助ける軍の意義を村人の頭に植え付けたいという考えが透けて見える。


 ホール妻子にゼロを呼ばせ魔獣が出たなら、その魔獣もゼロが寄越したとでも言うつもりか、英雄伝説も教会では異端者の虚言とする向きがあり、これを機に【魔害のゼロ】を魔獣を呼び込む異端者とでもする気なのだろう。


 ハールが川の岸へと抜ける扉に消えるのを見つけ視線を逸らすエボーナ、この断頭台を置く舞台も即席で造ったのだろうが、袖にムジル中尉の兵が舞台の下を指差すのを見つけ、そちらを見やると視線を平原へと向け逸らす。


「エボーナよ、何か策を考えているようだが、このジャーゴンを出し抜けるとでも思っていたか」


「まさか、私は世界を人の眼で見ていたいのです」


「ふん、戯れ言を。まあいい、今日でゼロの逸話も終わりだ。その人の目でしかと見ておけ!」


 ジャーゴンは高を括ると村人の集まりを見定め、兵にホール妻子を連れて来るよう申し付けた。


 その横で聞き耳を立てるエボーナは、ホール妻子を迎えに行った兵を目で追い顔を向け、村人の端に立つ村人に化けたムジル中尉の兵だろう男に視線を送る。


 顔を戻してジャーゴンに訊ねるエボーナ。


「ホール妻子がゼロの血を持つのなら、その血の中にもゼロの力はあるのですか」


 一瞬眉を上げたジャーゴンは、断頭台を見やり思考を巡らし立ち位置を確認すると、断頭台の向きを変えさせ兵を魔人兵と交代するよう申し付け、エボーナに向け蔑みの笑みを向けた。


「面白い余興となるだろう」


 エボーナは再度舞台の袖に目をやると、兵が親指を立てているのを見て視線を平原へと戻し、口角を緩ませ心に呟く。


〈見世物か見物か……魔害のゼロとはよく言ったものだ〉


 

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― 新着の感想 ―
ここまで読ませていただきました。魔人化していたジャーゴンと魔人兵、そして徐々に明らかになっていく「ゼロ」の真実から目が離せません。ホール妻子との関係も意外でした。エボーナははたしてランやランディを守れ…
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