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騎士道精神の崇高なる使命


 陽も暮れて店を閉めた直後の道具屋に、一人の騎士がやって来た。


 村の中では重装備までを必要とはしないのか、歳は四十手前程で銀髪黒目の白肌に筋肉質な身体を判らせる如何にもな騎士体型の男が戸を叩く。


――KONKONN!――


「メヌエ国中尉のムジルだ。グウェルガは居るか?」


 突然の訪問に驚きよりも既視感に襲われるジェット夫婦は、顔を見合わせると寝床に着いたランディの方へと顔を向け、直ぐに戻して肯く二人。


「グウェルガ……」


 同じ(てつ)を踏む馬鹿はしない。既に魔法設計師エボーナの配下とは面通ししているだけに逃げる訳にも行かず、グウェルガが立ち上がるとランは“覚悟は出来ている”とでも言うような真剣な眼差しで肯きを返した。


「安心してくれ、馬はいない。先日の無礼を謝りに来た」


 戸を叩くムジル中尉はロシナンテの愛馬ドンキーの件を言っているのだろうが、グウェルガを呼ぶも何用かまでは言えない辺りに少しの警戒心を残して戸を開けた。


「はい、騎士様が態々謝りになどと、滅相もない事です」


 ロシナンテの時と同様に軽装だが、脇差しの剣に加えて腕や腹や足を守る武具に銀を見れば直ぐに騎士だと判る程度の格好だ。


「申し訳ないが、少し中で話せるかな?」


 そう言ってムジル中尉はグウェルガの耳元に顔を近づけ、後から村へ来たジャーゴンの配下に聞かれたくないとの旨を(ササヤ)き終えると顔を上げた。


 グウェルガは騎士が謝罪に来た訳ではない事は理解したが、まさか中へ入るとは思ってもいなかったのか、一瞬困り顔を見せるも直ぐにそれを了承して中へ通すと、ランは驚きの表情を浮かべて何が起きるのかと警戒を見せている。


 閉めた店の中へ騎士が入って来れば当然の反応にも思えるが、ランディの件がなければそこまで警戒する事はしないだろう。


「これはまた、御婦人を驚かせてしまいましたな。しかしながら、ここへ来たのが私で良かったと、そう思っていただきたい」


 ムジル中尉が何を言わんとしているのかを理解してしまえる事がいけない事のようにも感じてしまうランに対して、グウェルガは理解したからこそに中尉に対して攻撃の姿勢をとっていた。


「グウェルガ殿、そのナイフで私は倒せませんぞ! 収めるのです。先ずは話を聞いていただきたい。」


 ムジル中尉は脇の剣に触れるでもなく、グウェルガの方を見ることもないままに、ナイフを腕の盾具で防ぐ気なのか腕押しする構えを見せている。


「グウェルガ!」


 ランが眼差しに肯きを向けると、ナイフを収め置いたグウェルガは、ランの座るテーブルへと向かい、ムジル中尉に椅子を引く。


 ジェット夫婦を見やり、一敬して席へと着いたムジル中尉は、無駄を省いて話を進める。


「どうやら当たりを引いたようですな。何の話かお分かりのようなので前置きは抜きに、私は魔法設計師エボーナ様に就く者として、ご子息のランディ君を迎えに来た。おっと、警戒しないで欲しい。これはジャーゴン一派から守ろうと言う話なのだ」


 ジェット夫婦は眉を寄せて考えるも、意味が分からないのか互いを見合う。


 それもその筈、ランディの力を知って近付いて来たメヌエ国の軍の中尉が、マウワー教会の魔法設計師がメヌエ国の軍のジャーゴンから守る為に、メヌエ国の軍の中尉がランディを連れて行く。


 こんな馬鹿な話を鵜呑みにして聞ける筈もなく、むしろ馬鹿にしているのかとさえ感じて当然の話だが、そこを気付いてすらいないのか、ムジル中尉は清々しいまでの誇りに満ちた顔を浮かべ、ジェット夫婦の応えを待っている。


 ロシナンテ少尉もそうだが、騎士というのは上からの指示を崇高なものと考え、自身の行動が如何に奇天烈なものかをすら理解して居そうにない。


 理解が難しいなら問うしかないのだろうと、グウェルガが一応に訊ねる。


「あの、騎士様もジャーゴン氏も同じメヌエ国の軍の方ですよね?」


「そうだ! いや、そうであった。これは、……あ、いや、大きな声では言えないが、私はこれより軍を抜けエボーナ様に付いていく事にしたのだ」


 少しだけ声を下げて話すムジル中尉の話を聞いて、再び考えるも意図する答えが見つからないグウェルガに対し、ランは何をもって信じようとするのか理解を求めるように問いを返す。


「ランディを何からどう守るというのですか?」


「ランディ君の事は、ジャーゴンにまだバレてはいない。エボーナ様が気付かれたのだ。明日の昼、ジャーゴンは別の者を妻子と見て【魔害のゼロ】を呼び出すつもりだ。だから今n……」


「まさか!」


 ランの顔は誰を浮かべたのかは判らないが、ゼロの妻子と目されている人物を知っているようで、グウェルガは不安に震えるランの手を取り、ランの顔を見つめて肯きを向け一呼吸を置く。


 ムジル中尉はランの大きな声に周囲の警戒心を強め、二人に顔を近づけ目を合わせると、更に声を下げて話し始める。


「どうやらそちらも見当が付いているようだが、私達は明朝からランディ君を連れ、教会からも軍からも離れる予定なのだが、その前にエボーナ様が話をしたいと、それで迎えに来たのです」


 ジェット夫婦はちらちらと互いの顔色をうかがうように確認し合うと、寝床のランディを見て覚悟を決めたか、ムジル中尉に肯きを返す。


「では、準備の方を」


 元より逃げ出そうとしていた経緯に、店を閉め家を出る準備までも出来ていたジェット夫婦は、歩く事を考えていたのか荷量も僅かにランディを起こしてあっという間に準備を整えムジル中尉の待つ戸に並ぶ。


 部屋の明かりを消し扉を少し開けると、ムジル中尉は警戒に周囲を確認してからそっと開いて、中のジェット一家を手招きに誘い出す。


 夜灯も点けず歩む姿は、曇る夜空に星明かりもなく、護衛兵の灯す松明(タイマツ)が所々に点在しているのがよく分かり、灯りを回避に裏道を行く。


 途中の護衛兵が多い辺りでは、グウェルガが前を行き逃走経路でエボーナの下へと辿り着いた。


――KONN!――


「領収書の件で」


 ハールが顔を出して確認すると、ジェット夫婦と子供を確認に下を向く、一つため息を吐き納得の顔を上げる。


「これは、……なるほど、そう言う事でしたか。ささ、どうぞ。中でエボーナ様がお待ちです」


 

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