竜殺し 07
このお話は全てフィクションです。
主な登場人物と用語
⚫︎立本吉成:本編の主人公。二十八歳。八歳の頃から竜を見て、竜と戦う強い力を持っている。
⚫︎立本武三:吉成の父親で六十歳。吉成と同じく竜と戦うが、止める力が強い。
⚫︎坂月大吾:吉成の又従兄弟にあたる弟分。二十五歳。公安に所属し、公安の立場から竜と戦う。守りが得意。
⚫︎結城士郎:武三の親戚で軍人。肩書きは少将。武三を何かと頼りにしている五十二歳。
▪︎和可津国:本編の舞台となる国。火山が多い土地で竜が多く出る。
▪︎竜:溶岩で体が出来ている化け物。天災と同じで多くの被害を出す。
吉成は慌ただしく車両や武器を確認する隊員たちを横目に、改めて士郎の方を見る。
「それで志郎さん、改めて聞くけど、あんたの体調はいつから悪くなった?」
「ちょうどニ日前の竜の目撃通報くらいからだ」
「じゃあ、あんたの言う通り、今回の竜の出現それ自体が、この国防軍庁舎を狙ってのことといういことになるな」
吉成が言うのに、武三が前で腕組をしながら、「システムとやらを、一度確かめてみるか」と口をはさむ。
「竜の能力に、AIに似た情報の集積がある、といってる学者もいる。とにかく竜は、意外に頭がいい。やつめ、やれる隙があったので、和可津国内の武力大元を攻めてみたか」
武三は士郎の持っているヘルメットを叩いた。
「この際だ。動ける部隊を全員中に入れろ。ここに置くと、遠巻きでも波長に当てられて、竜化症を発症しても対応できない危険もある」
「いきなり俺の隊で、中を制圧ですか」
士郎が渋ったのに、武三は意外そうな声を出した。
「難しいか? 部外者のわしらが中で暴れるより、通りは良いと思うがな」
士郎は相変わらず難しい顔をする。
「俺としては賛成ですが、全員動かすには決め手にかけます」
「今の電流の増幅だけで、十分不味い事態じゃぞ」
武三の言いように、士郎は悩む風情だ。
「隊員が概ね無事なのは、支部駐屯地に詰めていたからでしょう。それを全員突っ込むとなると、成果もですが最低限の安全策の保証か、もしくはそれを超える緊急性の証明が必要です」
「お前そのためにわしらを呼んだんじゃろう」
「武三さんのように、竜相手に素手で対応する隊員はいませんからね」
「慣れると便利じゃぞ」
「その前に、それ四六時中、竜の圧力に悩まされるでしょう」
「それも慣れじゃ」
武三は思案するように顎を撫でてから、大吾を呼んだ。
「大吾、聞くが、機動隊の出動要請は公安からできるのか」
大吾は首を傾げた。
「要請自体は俺からでもできるが、上司の説得はこの時間だと難しいぞ」
「要請だけで構わん」
武三は建物の上を指す。
「手順通りなら、機動隊の構成も兼ねている国防軍庁舎に、連絡が入るはずじゃろう。中が竜に侵されているなら、システム化していても力の反応がある。わしが上から軽く押さえて、その反応を確かめよう」
それに吉成が「いいのか」と渋い声を出した。
「親父が確かめれば竜に伝わる。案外、竜のやつ自分でシステムを壊して暴れかねんぞ」
武三は「たぶん、もう遅いわい」と吉成を見た。
「お前が波長を確かめたので、奴はもうわしらを見とる。問題はこの街中で、どう被害を出さずに竜を殺すかだ」
士郎は唇を噛んだ。
「できれば、この中だけで済ませたいですね」
「それも竜次第ということじゃな」
武三の言いように、吉成が「案があるんだが」と手を挙げた。
「俺たち方から逆に、竜のシステムを乗っ取るってのはどうだよ」
吉成が笑って言うので、大吾は「何言いだすんだ、お前」と不思議そうに聞き返す。吉成は返って面白そうに、本部庁舎の建屋を見た。
「やつが俺と親父を見て、いまだに正体を出さんということは、だ。たぶん、ここでの目的をまだ果たしてないんだよ。その目的とやらに興味がないか?」
武三は吉成を見ながら鼻を鳴らした。
「興味はあるが、どうやって探りを入れるかじゃろう」
「さてそれよ。どうせ上から親父が押さえるなら、俺も上から中に入る。むしろ後の上の抑えは俺がやるよ。親父は下から中に入ってくれ。俺と親父で、この庁舎を上と下から抑えにかかる。この電流だけでも竜のシステムを囲い込めるから、奴の動きも分かりやすい」
吉成の言い分に、武三は「しかし」と言って腕を組んだ。
「システムが庁舎内に収まってなかったらどうする。隠れていた場合、二人で物量を支えきれんぞ」
吉成は「それだけど」と、どこか自信ありげに顎を撫でた。
「山で見た奴の尾が、今回のは二百メートルくらいだったろう。動力を保つために尾を出してたんなら、奴の目的のシステムサイズも、大方それを超えねえんじゃねえかな」
これに、「一理ある」と頷いたのは、士郎である。
横の大吾はあきれた様子で、両手を上げた。
「それじゃ、バカみてえなことを聞くが。そもそもお前は、どうやってこの建物の上から入る気なんだ」
「壁伝いに上に飛ぶ」
「子ザルかなんかか、お前は」
「誰が猿だ。ケンカ売ってんのか、大吾」
「吉成の方が、よう分からんことばかり言うからやろ」
場をわきまえず、軽口を言い合う大吾と吉成に、志郎は「待って」と声をかけた。
普段おだやかで、冗談でも人を小ばかにしたこともない志郎の顔が、実に幸せそうににやけている。士郎の中で問題が解決してきた時の顔だ。
武三はうんざりした顔で、「なんじゃい」と士郎に振った。
「僕、隊長。指揮取るのは、僕。オーケイ?」
満面の笑みで言うのである。
武三は、士郎の自信を感じながら、「わかっとるわ」と志郎の肩を叩いた。
「それでだ、隊長殿。わしらも協力するが、結局どう攻める」
「まず武三さんの、大吾から機動隊の要請をする案は賛成です。反応を俺も確かめたいから是非やりましょう。あとの吉成が上から攻める案ですが、吉成一人では任せられない」
きっぱり士郎が言ったのに、心外そうなのは当の吉成である。
「何で俺じゃダメなんだよ」
「お前じゃ中の様子が皆目分からんだろ。もし生存者があれば、どうやって助ける気だ」
「だから、システムの乗っ取りだと言ったろ。親父と俺で、竜の指示を押し退けると一緒に、生存者を守る防壁のようなシステムを張るんだよ」
「なるほど、そこまでできるとなればだ。俺の部隊もお前と一緒に突入だ。もちろん武三さんと部下も一緒に突入させる。でなければ、あと起こることの責任が俺で取れない」
こう言い切られて、吉成も「ううん」と口を濁した。士郎は「悪く思うな」と吉成の肩を叩く。
「今まで俺は武三さんたちには、世間からの目を隠しながら、竜殺しをやってもらってた身ではあるよ。けど誤魔化せる程度には、体裁を整えていただろう? それが今回からなくなるんだ。マスメディアの目にも触れかねない。それを警戒しておかないと、お前の今後の生活がダメになる」
言い聞かせるような士郎である。吉成は士郎の顔を見ながら頭をかいた。
「いや確かにその通りだ。士郎さんと足並み揃えたことなんか、今までなかったから考えてなかった」
吉成は言って「それでどうする」と続けて尋ねる。
「俺としては、親父との連携なら自信はある」
士郎はにこやかに「そうだろう」と笑って返す。
「俺としても、お前と武三さんの連携に賭けた方に慣れている。だから部隊も同行させる形にするだけだ。ただし、俺も上から攻める方に参加する」
大吾が横から「大丈夫かよ」と口を挟んだ。
「かなり高いぞこれ、何階建てだ?」
「十一階建てだ。なぁに、私も皆も訓練はやってる」
機嫌良く言う士郎に、武三は吉成へ「落ちんようにやれ」と念を押す。
「わしは大吾と下からか?」
「大吾には別に頼みたいことがあります。武三さんは、俺の部下と一緒に、吉成の言う通り玄関から頼みます」
大吾は「俺にも頼むのか」と、意外そうに言った。
「公安の俺は警察派だぜ。大丈夫か」
「それを言うなら、ここにいること自体が大丈夫じゃないだろう。あとの書類はどうとでもする。協力してくれ」
士郎の保証に大吾は頷いた。
「分かった。士郎さん、できるだけ地味な役回りを頼む」
士郎は「よし」と大吾の肩を叩く。
「ここでドローンを飛ばす部隊を置く。それを守ってくれればいい」
「こんなところで、夜中にドローン飛ばして何すんだ」
尋ねる大吾に、士郎は「外からの監視だよ」と返した。
「中の様子と別に、外からの監視は必要だ。あとはこちらとの淀みない通信と連携で、かなり成功率はあがるだろう」
士郎が言ったのに、自信の程が溢れていた。武三は「よし」と士郎の肩を叩く。
「決まったな」
場を決した気分の武三は言って、両手でひとつ拍子を打った。
士郎と吉成も、そして大吾も、その武三に続いて同じよう拍子を打った。
気を締めたのである。
7話目です。よろしくお願いいたします。