竜殺し 06
このお話は全てフィクションです。
主な登場人物と用語
⚫︎立本吉成:本編の主人公。二十八歳。八歳の頃から竜を見て、竜と戦う強い力を持っている。
⚫︎立本武三:吉成の父親で六十歳。吉成と同じく竜と戦うが、止める力が強い。
⚫︎坂月大吾:吉成の又従兄弟にあたる弟分。二十五歳。公安に所属し、公安の立場から竜と戦う。守りが得意。
⚫︎結城士郎:武三の親戚で軍人。肩書きは少将。武三を何かと頼りにしている五十二歳。
▪︎和可津国:本編の舞台となる国。火山が多い土地で竜が多く出る。
▪︎竜:溶岩で体が出来ている化け物。天災と同じで多くの被害を出す。
士郎が武三の力の稲妻で竜化症を回復しつつ、中央の国防軍指本部についたころには、夜中の十時を回っていた。
「嘘みたいに震えが止まりました。さすが武三さんだ」
機嫌よさそうに首を撫でていう士郎に、後ろの武三は「調子に乗るんじゃないわい」としかめ面をする。
「お前に言わせると、ここから本番だろう」
「まあ、そうです」
苦笑いの士郎は、乗車のままで運転手の大吾を所内へと誘導する。
門衛には武三たちの入所手続きを求められたが、士郎の説明で入門書類の記入すら必要ないとのことだった。
「名前くらい書くけど?」
尋ねる吉成に、士郎は「今はやめとけ」と難しい顔で答える。
「即時出動もあり得るので、上には私から報告する」
「承知しました」
門衛は答えると、面々の身分証を目視で確認したあと、通行のため門扉を上げた。
士郎は重ねて通行の際に「変わったことはなかったか」と確認したが、「特に報告はありません」との門衛の返答だった。
所内を進み、門から見えなくなった距離の駐車スペースに車を止めて、車を降りた士郎は司令部の建物を睨む。
見上げるほどの立派なシンメトリーの造りである玄関の構えは、煌々と明かりをともして不正などとは無縁に見えた。
「静かなもんじゃな」
窓越しに武三が言って、部隊一行の車が駐車場に次々止まっていくのを片目に車を降りる。
大吾もそれに続いて、一帯を見やった。
「外からしか見たことはなかったが、バカでかい作りですね」
「大きいだけじゃなく、防備もしっかりやってるようだ。当てが外れたな」
大吾の後ろから言った吉成が、細い稲妻を走らせている。
壁に当たったところから、雷筋がかき消えていた。
竜の力が簡単に入れないという意味だ。
竜の侵入は特定の超音波や電波である程度防ぐことができた。その周波数は発電機や電波塔から、回線を分けて街中にも張り巡らされている。
士郎は「ふむ」と頷いて、少し安堵した様子を見せた。
「所内では二重以上に防御回線を設けてある。どうやら防備システムが、完全にオフになったわけではないようだな」
言った士郎は隊を呼んで、車両を点検してから各自休憩するよう命令を出すと、他と分けて部下である大佐を呼んだ。
「司令部に顔を出す。君は付き合え」
言ってから武三たちに顔を合わせる。
「司令部から、出現した竜を無視するよう伝達があったのは昨日の夜です。それから本部と北部支所経由で、衛星画像の確認を再度依頼しましたが、返答はありませんでした。司令部に何かあったとすれば、本部内の誰かが気づくはずですが、そういった報告も見たところ上がっている様子がありません」
そう話す士郎に、武三は「回りくどいのう」といた。
「要はお前に言わせれば、ここの司令部とやらに何かあったと思うんじゃな?」
士郎は持っていたヘルメットを、手でまわしてから武三に渡す。
「何かあったのは、間違いがないんですよ。他の支部からの呼びかけにも返事がないので。問題はどの程度かということです」
言い切る士郎に、大吾が手を上げた。
「ここ以外から、確認できるアプローチもあるけど試しますか?」
「どんな方法だ?」
「警察経由で司令部面々の自宅の方を確認するんだ。案外、何かあれば家の方に伝わってるもんだよ」
士郎はうつむいた。
「いい方法だと言いたいが、内部の記録は私的なことまで、本部内総務室の管理だ」
大吾は不思議そうに首を傾げる。
「機動隊の情報があるんじゃないのか」
「別個だな。それに機動隊の上だからといって、普察側に適正資料を渡してるとは限らないよ」
士郎の答えに、大吾が「むう」と唸る。吉成は「自宅は回ってもいいが、後のほうがいい」と、横から付け加えた。
「なんでそう思うんだ」
「自宅に不味さが出ている奴ほど、問題の元凶だろう。防備が一見これだけ硬くて、中が不味いとなると、その元凶の特定は、対応力があるとこがやるべきだ。一般警察官の手には余るぞ」
「どのみち行かなきゃならんのにか」
大吾は不満そうである。吉成は笑った。
「お前が行くなら止めねえけどね。お前レベルが、警察に何人居るかって話だよ」
言いつつの吉成が、両手で電雷を遊ぶ。
「そんなことより、外れた当てがはまったようなんだ。ここが不味い理由を一個見つけたぜ」
武三が持ったヘルメットを志郎に返して、「言うてみい」と吉成を促す。
吉成は稲妻を走らせたまま、両手をあげてみせた。
「こっちと、こっち、見ててくれ」
言って両手で放出した雷を、片手ずつ吉成はまたも建物に向かって投げやる。すると片方だけ壁で消えずに、柱に沿ってから地面に流れた。
武三は「増幅したな」と見たままを言う。
「どんな感情で投げた?」
「竜が嫌いってのと、竜が嫌いじゃないってので投げた」
「えらくファジーだな」
大吾の指摘に、吉成は「周波数なんてそんなもんだぞ」と吉成は返す。
「電雷の波長は、気候や湿度でも変化する。それに同じ周波数を長く使っても、竜の方が慣れやがるからダメなんだよ」
吉成が言うのに、武三が頷きながら髭を撫でる。
「残ったのは、竜に好意を持つ方の稲妻じゃな」
武三が言ったので、吉成は「その通り」と笑って返す。
「これじゃ防備があべこべだ。力を呼ぶための電雷だと、それも弾いてるようだから、一見は気づかないね」
吉成は言ってから、志郎を見た。
士郎は難しい顔をする。
「まさか防備システムの点検時に、周波数がずらされたのか」
「人間じゃなく、竜がそのための核を置いて、直接これをやってる可能性もあるよ。ここからさっきの山間まで二百キロないだろ。竜の狙いがここだとすると、小父貴の体調の原因も案外これだぜ。中の人間全員、同じことになってても不思議じゃない」
「どのみちこの状態では、うまく確認できんな」
士郎が大佐の方を見た。
「もう二人付き合わせる。選出してくれ」
大佐は「はい」と返事して、車周りを見ている部下たちの方へと走った。
それを横目に吉成は、士郎に「嫌なこと言っていい?」と話を振る。
「確かに中は今まずい状態なのかもしれないけど、まずい事をやってても、反応が全くなくても、よそから報告は上がるよな? 誤魔化せるほどの不味さで、中がはっきりしない状況ってことになると、庁舎内の機能丸ごと竜に握られてるっていう、一番良くない事態の可能性がある」
大吾が横から「機能丸ごとっていうのはどういう意味だ」と尋ねる。
「例えば命令があって、連絡を取るための手段があるとする。それが周りから見て、無事やってるように見えるよう、連絡を持っている人間や機材から竜が握るんだよ」
大吾は嫌な顔をした。
「お前の言いようだと、竜が電話やパソコン使ってると言うことになるぞ」
吉成は「そうなる」と悪びれずに笑った。
「バカ言うな。竜はマグマの塊だぞ?」
「お前は妙に守りが固いから、見たことがないんだろ。俺は実際、奴が目の前でスマホを取って、使ってみせられたことがある。生意気にパスコードも突破してたぞ。それ以来俺も、竜狩りの時は携帯持つのやめたくらいだ」
大吾は武三の顔を見た。
「そうじゃな。わしも見たことがあるから、間違いない本当の話だ」
答える武三に、大吾は唖然とした様子だ。吉成は面白そうに大吾を小突いた。
「奴にとっては遊びなのさ。顔さえ把握していれば、そいつに見えるそっくりの影を出してくることもザラだ。お前も竜の惑わしは、受けたことがあるだろう」
大吾は「あるにはあるが」と不承不承だ。
「それは本人がいないと、出せないんじゃなかったか」
「だから居るんだろう。本人が、中に」
吉成が言ったのに、士郎は吉成を見る。
「竜が機能を代替するシステムを組んだとして、外からの連絡の応対と、通退勤の人物なども映せるものか」
「乗っ取った領域の範囲でなら、できるだろうな。人間を映して騙すのも、奴の趣向だ」
「会話などは?」
「取り込んだ本人を、竜化症のまま、昏睡させて使うことがある。だからまあ、難しい会話はできない。しかし、中にいる人間が昏睡しているとなると、まだ助けられる手はある」
「そうなると、ここ本部から俺への撤退命令が一日前だ。竜の出現から一日、ここを観察していたという事か」
士郎はゾッと本部の建物を見る。
「狙えばできると、言いたいわけだな」
士郎が口惜しそうに言ったので、武三と吉成は互いに顔を見合わせてから、そんな志郎を見た。
6話です。よろしくお願いいたします。