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竜殺し 04

このお話は全てフィクションです。

主な登場人物と用語

⚫︎立本吉成:本編の主人公。二十八歳。八歳の頃から竜を見て、竜と戦う強い力を持っている。

⚫︎立本武三:吉成の父親で六十歳。吉成と同じく竜と戦うが、止める力が強い。

⚫︎坂月大吾:吉成の又従兄弟にあたる弟分。二十五歳。公安に所属し、公安の立場から竜と戦う。守りが得意。

⚫︎結城士郎:武三の親戚で軍人。肩書きは少将。武三を何かと頼りにしている五十二歳。

▪︎和可津国:本編の舞台となる国。火山が多い土地で竜が多く出る。

▪︎竜:溶岩で体が出来ている化け物。天災と同じで多くの被害を出す。

 

 

 

 

 迅速に消火を終えた一帯を見渡して、吉成は「へえ」と感心した声を上げた。

 

 今までの竜の始末では、距離をとってよく見ていなかったが、国防軍の動きはそれらしく連携がとれていて、素人目にも無駄がないように見えた。

 

 鎮火の心配がないので、吉成は両手を振って力を切り替えると、辺りを探って、逃がした核の方向を見定める。

 核がなければ竜は地上で活動しない。

 

 これだけ動いた尾があるので、隠してあっても核はあるはずだ。もしくはそれより隠れた尾が、地下を核に向かって長く伸びているはずである。

 しかし竜の気配はすぐに、ふっつりと切れてしまった。

 

「反応が早い」

 気配の切れた方を見て、嫌な感覚を否定せず、さらに探るだけ辺りを探る。

 焼け焦げた林の向こうを、一点睨むも返りはないが、さらに静かに稲妻を走らせた。

 その吉成に「吉成」と後ろから声がかかる。

 

「大事なく無事か」

 士郎である。吉成はその声かけに肩をすぼめて見せた。

 気配を探ったまま、志郎のほうを向く。

 

「士郎さんこそ、手こずってたようだけど大丈夫なの」

「見えてる部分が核なしかもとは、思ったんだが、決め手がなくてな」

「気配を追ったが逃げられた。割りと勘のいい奴みたいだ」

「そちらが追っていた竜とは別物か?」

「そうだね。あっちのは始末がついてるし、別だろうよ」

 

 士郎は「なるほど」と腕を組む。

「こっちの竜は、西手の町の南側を焼いてから、ニ日も移動した奴だ。核の位置は衛星の確認待ちだよ」

 吉成は「待ってられるの?」と嫌に笑って見せた。

「いつもは勘で、当たり付けて確認じゃねえか。どうしたの?」

「耳が痛いな」

 

 士郎はうつむいて笑った。

 そこで焼け焦げた道の向こうの、武三から「おおい」と声がかかる。大吾と共に車を降りて、こちらに向かっていた。

 

「おい士郎、無事か、お前」

 武三が尋ねたのは、吉成でなく士郎にである。

 志郎は意外そうでもなく「無事ですよ」と答えた。武三は「そうか」と自分の髭を撫でる。

 

「押さえるというから、思い切り押さえたわい。皆、大丈夫じゃったか」

 重ねて聞くので、士郎は笑う。

 

「やめてくださいよ。そんなにヤワじゃありません」

「そうじゃろうが。お前がわしらに軍隊入れとか言うから、心配になるじゃろう。武器も減らされたとか、言いよったじゃあないか」

「今のところは何とか動いています」

「中央の部隊とは対立しとるのか」

「対立じゃありません。持ち場が違うだけです」

 士郎が言って捨てるので、武三は「ふうん」と溜息を吐いた。

 

「わしらを軍隊に入れる、とかいう話は変わらずか」

「私としては決めたことです。やっていただきます」

「わしらの入る代わりに、隊が縮小されるとしても、やってくれというのか」

「乱暴に要約するとそうなりますかね」

 

「言っとくが、わしは仕事辞める気はないんじゃぞ」

 武三は「中小企業の会社の役員というのは、そう暇でもないのだ」と小言を言う体裁だ。志郎はちらり笑って見せた。

「今日はそのお仕事はどうしたんです?」

「女房に任せてきた」

「じゃあ、それでいいじゃありませんか」

 機嫌良さそうに志郎は笑う。

 

「今日からこのまま付き合っていただけるんでしょう? 私としては百人力以上ですよ」

 

 和やかに言う士郎に、どこか釈然としない武三であるが、言い出した士郎が譲らないのも良く知っていた。

 要点は、そこまでして軍との連携を強めたい理由は何か、確かめるべきはそれである。武三が尋ねようと口を開いた。

「お前どこまでワシとやりたいのだ」

「どこまでもと言ったら信じてくれます?」

「信じねえな」

 鼻で笑って、武三は髭を撫でる。

 

「お前にはやりたいことがきちんとあるはずだ。それを聞いておくわけにはいかんのか」

 士郎は「難しいでしょう」と、うつむいて言った。

「それに頼みたいことはすぐに分かります。とにかく余裕がないのは、我々の方なんですよ」

 士郎が答えたその時であった。

 

「結城少将!」

 場を切る様に、歩兵の一人が志郎を呼んだ。

 

 その目線先には、ゾッとするような透けた笑う顔が浮いていた。

 それを見た吉成が怪訝な顔で、張っていた稲妻を否定する。

 

「バカな、なんで霊害が出てる」

 霊害と呼ばれた顔はなお、あざ笑うように、浮きながら素早く動いて、吉成の稲妻を避ける。

 それからさらに、声を上げた歩兵へと覆いかぶさった。

 

「ああああ!!」

 叫んだ歩兵は泡を吹いて倒れる。

 と同時、笑う顔が消えた。周りの同僚が慌てて走り寄る。

 

「医官、意識がない」

 言った仲間の歩兵に呼ばれて医官が診るも、その倒れた隊員は白目をむいたままだ。

 志郎に目配せしてから、武三はその医官に近寄り後ろに立った。

 

「竜の霊に憑かれとる。そのままだと、竜化症になるぞ」

 武三の言に、医官は「はい」と理解している答えで薬剤をあけた。

 

 竜化症とは竜の出す霊や竜そのものに犯されて脳や脊髄をはじめとした骨と内臓を損傷する病である。

 そのまま進行すると、さらに回復せず本人の生命に支障が出た。また一方の発症として、その自律が侵され、竜の言いなりのように行動するまでの病が竜化症である。

 

 つまり悪くは、人を襲うようになってからやがて死ぬ。

 

 医官は目当ての薬を首から注射し、舌を噛まぬように口を押えた。武三は「さすが手際がいいな」と感心する。

 

「今日からそちらの顧問とやらになる立本武三だ。薬に合わせて、背筋に力の否定を通しておくと、なお治りが良いのだ。わしにやらせてくれ」

 武三は言って、手から通す細い稲妻を見せた。

4話目です。よろしくお願いします。

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