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竜殺し 01

このお話は全てフィクションです。

主な登場人物と用語

⚫︎立本吉成:本編の主人公。二十八歳。八歳の頃から竜を見て、竜と戦う強い力を持っている。

⚫︎立本武三:吉成の父親で六十歳。吉成と同じく竜と戦うが、止める力が強い。

⚫︎坂月大吾:吉成の又従兄弟にあたる弟分。二十五歳。公安に所属し、公安の立場から竜と戦う。守りが得意。

⚫︎結城士郎:武三の親戚で軍人。肩書きは少将。武三を何かと頼りにしている五十二歳。

▪︎和可津国:本編の舞台となる国。火山が多い土地で竜が多く出る。

▪︎竜:溶岩で体が出来ている化け物。天災と同じで多くの被害を出す。

 かつて海から出でし地は、

 種々の生命とともに竜をはぐくんだ。

 しかし力を大きくした竜は、

 ほかの生命を害し始めたのである。

 よって力ある人が起こり、竜を制し、御し、

 あるいは殺した。

 これ人々の国の起こりとして、

 皆に及んだことである。

 ーー和可津国忌憚序文。

 

 

 ごうごうと伸びる火としゅうしゅうと唸る水。

 広がるは一面の赤い光と、

 きつい硫黄の匂いである。

 何か見えぬかと腕を振るも、

 じゅうと光が鳴っただけだ。

 どうしてだ。

 あまりのさみしさに涙を流すも、赤い光に飲まれてやはり誰にも届かなかった。

 

 

 

ーーバシィッバシィッ!!!

 

 マグマ溜まりから飛んでくる鞭のような巳型のマグマを叩き落し、吉成は山地の一角、燃える一帯を刀代わりの木の棒を振って火を沈めた。

 

 対峙するのは小山はあろうかという溶岩のうねり。竜である。

 燃える火山で地を成す和可津国には、その内で広く害成す竜が出た。対応は国防軍の仕事だが、腕に覚え有るこの立本吉成が鎮火に出たのは、物見遊山というわけでもない。

 

 構えのまま、その目鼻がはっきりした女のような整った面に、掛かる黒髪を避けた額、手を当てると、吉成を犯そうと竜がこちらの隙を窺っている。

 吉成はその細身ながらしっかりした長身の体に、着ている登山用コートを払いのけるように、気合を入れてこれを祓った。

 

 竜が出るといつもこうである。

 竜の出現はその体の形成のため、マグマに生き物を飲んでいくのだが、竜はより良い体を求めて、常に周りから心当たりを広げて襲っていく。

 

 竜と馴染みを持っている吉成は、近場に竜のうねりが出ると、その身を焼こうと、常に竜からそぞろ寄ってくるのであった。

 そのために常日頃から自分から狩りに出ている。

 

「親父、これで全部か」

 尋ねるのは吉成の後ろで場を見据える父親の武三にである。

 名を立本武三。齢は六十になるが、吉成に負けず長身で恰幅も良く、鷲のような鋭い眼差しに、口元の整えられた口ひげが武三を強面に見せている。

 子の吉成同様、竜と馴染みを持って長い。

 

 吉成が八歳で竜を見てより二十年、吉成を竜と戦わせたのはこの武三である。

 そのおかげで今命ある吉成は、武三と共に竜との戦いを心得ている。

 

 今では吉成の方が仕留める腕で勝るが、竜を留める力そのものは、武三のほうが強かった。武三は自身も持っていた木の棒で、周りの土を掘り返し、吉成に似た登山用コートから手を出して、温度の程を確かめる。

 

「ここにいるのは、これで全部だな」

 言いながら武三は、思案する風に顎を撫でた。

「どうにも反応が弱い。はずれを引いたか」

 吉成が「だろう」と頷く。

「ここに居るのはまとまってるが、北側の奥の山向こうにまだうねりを感じる。そちらの方がでかいようだぞ」

「致し方ない。ここはこれで纏めてしまおう」

 

 武三が手をかざすと、空間に層ができる。

 対峙するうねる溶岩が、より熱を持って赤く輝いた。

 吉成も構えて熱と電流で層を設ける。二人の身体からは白い蒸気が立つとともに、稲妻が走り、燃える山と敵対するよう、その雷が場に走った。

 

 竜を見るものは、その力を一部得る。

 二人が使う熱や重さや電雷も、竜を長年見たから持っているものだ。しかし力は竜に通ずるため、力を使うものは竜を呼び、そこからこぞって竜を呼ぶ者は、やがて竜に押し負け死んでしまうのである。

 竜を見てさらに生きるためには、竜と戦い、打ち勝っていく必要があった。

 

 それは昼夜問わずであるため、人の身では、よほどの集中と熟練を要する。

 その戦いにこの二人共、長年に渡り慣れていた。

 そしてその長い敵対が理解できるような殺気立つこの竜も、二人の前でまたもマグマを飛び散らせ唸りを上げる。対して二人から出る蒸気は、それに対抗してマグマをブツブツと潰していった。

 竜は奇声を発するように熱を鳴らす。

 

 常人ならこの竜の熱波にひるむところを、吉成は涼しい顔をして歩幅五余りのところで棒を構える。

 さらに力を込めてマグマへと一刀、その棒を振るった。

 走る稲妻と風が起こり、マグマの山を一筋冷たく焼き切る。マグマから岩へと変わった筋の横に、目が二つ現れた。吉成は笑う。

 

「核だな」

 言うが早いか、目と目の間を狙ってさらに棒を一刀突き刺した。

 手ごたえとともに中を引きずり出す。

 先には溶岩にまみれた小蛇があり、奇声とともに逃げまわった。

 

「うっへえ、生きてるよ」

 げんなりと言う吉成に、武三は棒で遠巻き小蛇の頭を潰した。

「巳の類はやはり竜化に強いな」

「何もいきなり殺さんでも」

「一度食われ、生きたものは力がつく。念のためだ」

「見てみたい気もするがね」

「バカを言え。蛇だし人を襲うかもしれん」

 武三は言って、稲妻で小蛇を焼いた。

 

 それから呪いの解かれたマグマの小山を見て、留めるため力を使って蒸気で覆う。

 

「お前、下まで落とせるか」

 聞かれて、「たぶんできる」と吉成が返した。

 

「ここも古い火口のひとつのようだ」

 言いながら吉成は腕とともに操る稲妻を地中に下す。下のマグマまで意識で雷をつないで、上のマグマを呼び込んだ。

 武三がそれにあわせて力で押さえると、マグマの山がここぞと二つに割れた。

 

「終わりだ」

 吉成の言う通り、ずぶずぶとマグマの山が飲まれて、熱気がそれを収めていく。

 見える小山も小さくなり、より無くなって岩へと姿を変えた。

 

「大した事なかったな」

 片付いたことに満足げな吉成の言葉に、武三は吉成を小突いてから、持っていた棒を辺りに捨てた。

 近くの樹木から馬鹿力で折り出した、ただの樹木の枝である。吉成も似たものを抱えていた。

 

「用心せい。こういう時は、大概に考えの外のことが起きている」

「心当たりでもあんのか」

「ないわけでもない。そもそも北の方が、まだ動いておるだろうが」

 

 武三がいうのは、北の方に感じる竜のうねりである。

 吉成はのほほんと北を見た。

「山を動く分には、被害も少ないだろうよ。充分間に合うんじゃないか」

「まあ、確かにそうだが」

 

「何だ。何かあるなら言えよ、勿体ぶって」

「入軍して欲しいとの話だ」

 武三の言葉に「はあ?」と吉成は分からぬ声を上げた。

「入軍って何よ。軍隊にか?」

「そうさな」

「俺とあんたにか? どっから出た話だ」

「どこからと言うより、何故今かというところだ」

「今まで軍隊なんて、気にしてなかったろう。なんで今更そんな話になる」

「確かにのう。今更と言うところは確かにある。何かあるだろうな」

 

 ポロシャツにジーンズというラフな格好に、登山用のレインコートを羽織って竜狩りをしていた二人には、いかにも不釣り合いな話である。

 武三は吉成の肩を叩いて、いかにも仕方ないという顔をした。

「まあまだ内々の話だ。さっさと引き上げて、仕事の方を片付けるぞ」

挿絵(By みてみん)

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