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勇者の後悔

5の倍数話はエル以外の誰か視点になります。今回はアギスですね。

不覚にも、ドラゴンのブレスで地に倒れ伏し、体が動かなくなったおれは、会長がドラゴンと一人で戦うのを見ていることしかできなかった。会長はドラゴン相手に一人で一撃を決めた。なのに、おれは何をしている?


おれは、こんなおれでも、女神に選ばれた勇者だろ‼︎…なのに、なぜおれは倒れている?仲間を一人で戦わせている?それが、勇者か。いや、違うだろ‼︎


「ギー…?まって、私治すから…」

「大丈夫メリー。おれはまだ、立てるから。リリア姐さんにお願い」

「わかった…」


フラフラとしながらも、立ち上がる。目の前では、会長がドラゴンから振り落とされていた。


「かいちょー‼︎」


受け身をうまく取れずに倒れた会長目掛けて、ドラゴンがブレスを吐く予備動作をする。思わず叫んだおれの肩に、誰かがポンと手を置いた。


「大丈夫、安心しなよ。ボクがいる」

「ハクせんせー…おそいよ」

「ごめんごめん。…見てなよ、元ランクAの力を」


ハク先生はそう言うと、消えた。そして会長の目の前に現れた。たぶん、空間魔法を応用した転移だろう。噂では聞いたことがあったが初めて実際に目で見た。


「ごめんね、遅れた」

「ハク、先生…」

「【闇砲(ダークブラスト)】」

「ウグアッギャオオオオ…」


ハク先生の放った闇砲は、さっきまで会長が使っていたのとは比べ物にならない強さだった。いや、会長だって十分強い。この前城で見た魔導士の魔法と遜色なかった。でも、ハク先生のは格が違かった。


だって、たったの一撃でドラゴンを倒したのだ。


今までおれたちが必死になって決めた一撃を、ハク先生はたった一回の魔法でそれ以上のダメージを与えた。あれが、ランクAの実力…か。とんでもない壁があることを、再確認することになったな。


「キャアアッなに、なによアンタ‼︎なんでドラゴンちゃんが一撃で倒されてるの⁉︎こんな強いのがいるなんて知らないわよ‼︎」

「四天王アイネ・ブロッサム、だね?ボクの生徒に手を出したのだから相応の罰を受けてもらうよ」

「はぁ?ワタクシが人間如きに負けるわけがないでしょ‼︎ 【炎砲(フレイムブラスト)】‼︎」

「ふむ、じゃあ同じ炎属性で対抗してあげるよ。【炎弾(フレイムバレット)】」


アイネと呼ばれたやつの炎弾が、ハク先生の炎弾にいとも容易くかき消される。さっきの闇魔法ほどじゃないが、十分おかしい威力だ。


「えっキャッ…なに、なんで相殺もできないの⁉︎炎砲の方が強いはずでしょ⁉︎アンタ、何者…?」

「なに、しがない教師だよ。元ランクA冒険者の、ね」

「はぁ?ランクA⁉︎…チッ、流石に分が悪いわね…帰る‼︎」

「させると思うか?【闇刃(ダークカッター)】」


逃げるためか、黒いモヤのようなものを出したアイネを、ハク先生の闇刃が襲う。やはり、さっきの炎弾とは段違いに強い。ハク先生は闇魔導士なのか?


「いやぁっなによ‼︎帰ってあげるって言ってるでしょ⁉︎」

「いいや、君には少し痛い目に遭ってもらわないとね。ホラ、【闇弾(ダークバレット)】」

「キャアッまって、帰る‼︎帰るってばぁ‼︎」


襲いかかる闇色の弾丸から逃げ惑うアイネの前に、ハク先生が余裕そうに立つ。逃げ回ったせいで息が上がっているアイネが、悔しそうにハク先生を睨んだ。


「観念した?」

「した、したわよ帰らせて‼︎……なんてね。油断したわね、『魅了』」


アイネの目に何かの紋様が浮かぶのが、遠くからでもよく見えた。魅了系統のスキルか?やばい、あの距離だとハク先生は直撃してる…


「「ハク先生っ‼︎」」

「…」

「ふふん、油断したでしょ?ワタクシのスキルは男には効果が五倍になるの。こんな至近距離からならどれだけ耐性があっても魅了できるのよ♡」

「…」


おれと会長がハク先生のことを呼ぶが、返事がない。まさか、魅了にかかってしまったのか。


「あは、あはは‼︎いい気味ねぇ。ほら、『あなたの手でガキどもを殺しなさい』‼︎…ウフフ、ここで勇者を殺しちゃえばきっと魔王様に怒られるどころか褒めていただけるわ‼︎」

「…油断してるところ悪いんだけどボクが魅了されるワケないんだよね。【闇弾(ダークバレット)】」

「みぎゃっ‼︎…な、なんで⁉︎なんで魅了かかってないのよ‼︎‼︎」

「なんでって…」


さっきまでとは反対に、ボロボロになりながら悔しそうに口を開くアイネに、ハク先生がいい笑顔で答えた。


「ボク、女だよ」

「…へぁ?う、嘘‼︎嘘よ‼︎イケメンじゃない、ワタクシの好みじゃないけど‼︎」

「はは、お褒めに預かり光栄だねぇ。…さて、トドメだ」

「いや、いやっ‼︎待ちなさいよ‼︎帰ったらただでさえ魔王様に怒られるのにぃ‼︎」

「ほーう?じゃあ今ボクが殺してあげた方がいいのかな?」

「いや、いやだいやよ‼︎」


子供のようにイヤイヤと首を振る姿は、さっきまでの強そうなオーラを微塵も感じさせない。そんな彼女に拍子抜けしたのか、ハク先生が見るからに白けた顔をしている。


なんとか持ち直したメリーがおれとリリア姐さん、会長を治してくれる間、ずっと泣き喚き続けるアイネ相手に、ハク先生が「いつでも魔法を放てるぞ」とでも言うように掌をむけ続ける。それによってより一層泣き喚くアイネ。


そんな時。突然、彼女の顔がサァ…と青くなり、ピタリと泣き喚くのをやめた。


「ひ、ひぃっ…魔王様⁉︎ご、ごめんなさいごめんなさい‼︎許してくださいぃ‼︎」

「「⁉︎」」


こちらには一切わからなかったが、なんらかの方法で魔王からアイネへと連絡が下されたらしい。


様子を見るに、負けたことを責められているのか、勝手におれ(勇者)と戦ったことを責められているのかはわからないが、ごめんなさいごめんなさいと連呼する姿は、いっそ哀れだった。


「…う、うぅ…もう、魔王様に怒られたじゃないの…‼︎…ぐすっ、帰る‼︎」

「行かせると思うかい?」

「これ以上怒られるのは勘弁よっ…癪だけど…助けなさいディアブロ‼︎」

「ディアブロ…?」


聞き覚えのない名前に、その場にいる全員が首を傾げた。途端、ビリビリとした圧がおれ達を襲った。









息をするのもままならないようなプレッシャー。唯一まともに動けるのはハク先生のみだった。




ズズ…と、アイネの後ろから広がる黒い靄。そこから出てきたのは口元を黒い布で覆った、紺青の目と漆黒の短髪を持った体格のいい男。髪の間から見える耳は尖っていないが…人族か?魔族は基本的に耳が尖っていて目は猩猩緋色だというのは有名な話だ。


「無様だなアイネ」

「…くっ…生意気ねクソガキ…‼︎」

「帰るぞ。まおーに存分に怒られろ」

「…待て、このまま行かせると思うかい?それにディアブロ、と言ったね。君は人族なんじゃ…?」

「そうだが、なにか。貴様のようなやつの相手をしてやるほど僕は暇じゃない。それに…四人もお荷物を抱えて戦えるのか?」

「ほーう?ならそれが本当か試してみようじゃないか」


嘲笑を含んだ煽りに、ハク先生が青筋を立てながら乗る。もしかしてハク先生ってプライド高め?


なんてこの場に似合わないことを考えていると、ハク先生がバッと振り向いて会長を呼んだ。


「…エルくん、みんなを連れて逃げろ。君ならまだ動けるはず…エルくん?」

「…あ…」

「かいちょー⁉︎」

「エルさん‼︎」

「…っ」

「ん?ほう、お前僕と同じ“影操士”か。ふふ、同じ天職を持った相手であれば格の違いがわかるというのは本当だったか?…面白い。すぐ帰るつもりだったが…少し遊んで行くか」

「っ…‼︎逃げろみんな‼︎」

「『火影』」

『うわあああっ』

「きゃああっ‼︎なんでワタクシまで燃えてんのよぉぉ!!!」

「罰だバカ。まおーの手を煩わせた罰」

「キーーーッ‼︎ムカつく‼︎」


突然、背後から火柱が上がる。みんなの影から火が立ち上り、フィールドは火の海と化した。そう簡単には燃えないはずの、岩肌が剥き出しになったフィールドがだ。


「『闇黒・帷』‼︎帷の外まで逃げろアギス君‼︎早く‼︎」


ハク先生が生み出した黒いドーム状の壁によって炎が燃え広がるのが阻まれる。

おれはなんとか体を奮い立たせ、恐怖で足が竦んでいるみんなの服を掴んだ。そして風魔法を使い体を軽くし、思いっきり走った。思った以上に軽くなったので驚いたが、見てみるとハク先生が身体強化魔法をかけてくれているみたいだ。とはいえ一人で三人を引きずるのは持ちにくいということもあって中々難しい。くそ、本当なら会長にも手伝ってほしいところなんだけどなー。




観客席へと繋がる通路を走りながらフィールドの方を振り向くと、帷という黒い壁は消え、ディアブロという男が出てきた時の黒い靄が空中に吸い込まれていた。帰った、のか…?


「た、助かったわアギス…ありがとう」

「ギー、助けてくれてありがとう…あ、リリアさん‼︎火傷治します‼︎」

「ええ、ありがとうメリッサ。…ちょっと、いつまでぼーっとしてるつもりよエル‼︎あなた生徒会長でしょう⁉︎」

「…っあ…わるい…おれ…」

「まぁまぁリリア姐さん落ち着いて。それじゃおれ、ハクせんせー見にいってきまーす」


元の調子を取り戻したらしいリリア姐さんとメリーに会長を任せて、フィールドの方へ戻ろうと一歩踏み出す。


すると、急に力が抜けてその場にへたり込んでしまった。


「ギー⁉︎」

「ちょっと大丈夫⁉︎」

「あー…やばい、ねむ…い…」


メリーとリリア姐さんが駆け寄ってくる中、意識が段々と遠のいていった。











《目覚めなさい…勇者よ…》


誰かの声が聞こえる。目覚めろと言うが、どうにも瞼が開かない。体も動かない。心地よい浮遊感に身を任せることしかできないのだ。


《私は…シュリエル…女神シュリエルです…》


女神…女神⁉︎つまり、これは神託というやつ、か?


《私の加護が与えられし今代の勇者よ…救うのです…彼を…》


彼?それは誰だ。


《彼はあなたも知る人物です…彼は…人族ながら魔王に育てられ…血の滲むような努力の末…強大な力を手にしました…》


魔王と言われ、さっきのディアブロと言う男が脳裏に掠めた。そいつのことか?


《…彼は…魔王による強力な洗脳状態にあるのです…勇者よ…彼を魔王から救いなさい…》


救うと言っても、おれになにかできることはあるのか?なんせ、こちらはついさっき力の差を見せつけられたばかりだ。


《あなたの真摯な言葉が…きっと…彼を洗脳から救う手立てとなりましょう…》


おれの、真摯な言葉?おれみたいな奴の言葉なんて真摯とは真逆だろうに、何を言ってるんだ。


《いいえ…あなたはとても真面目な子です…あなたは勇者を志したその日から…一日たりとも訓練を休むことはなかった…》


…それは…必要なことだったから、であって…おれは勇者に選ばれようとしただけだ。


《そして…彼を救わなければ…魔王は倒せません…魔王は…生物を超越しようと画策しております…私を殺し…世界を闇に陥れることが…魔王の目的なのです…》


ディアブロという男がこちら側につけば、魔王は倒せると?いや、ディアブロがいなければ魔王は倒せないということか?


《…それは………とにかく…彼を救いなさい…そうすれば…あなたの悲願も果たされます…》


おれの、悲願…


《見守っていますよ…今代の勇者よ…》







「…はっ」

「ギー‼︎大丈夫⁉︎さ、さっきの人に何かされた⁉︎」

「メリー…大丈夫。たぶん、神託ってやつだ。あれ、リリア姐さんとかいちょーは?」

「神託って…女神様から?…後で聞かせてね。ギー、一時間も寝てたんだよ。下手に動かして何かあったらダメだから私が残ってたけど、二人はもう後始末に行ってる」

「そっか。かいちょー、調子取り戻した?」

「うん。逆に元気になったというか…気迫がすごかった。たぶん悔しかったんじゃないかな」

「なら大丈夫か。よし、おれたちも行こう。どこ行けばいい?」

「とりあえず職員室かな」



随分と久しぶりに感じるメリーとの二人きりの時間。生まれた時から兄妹のように育った幼馴染は、かつての泣き虫が嘘みたいに芯が強くなった。おれは勇者に選ばれて、メリーも聖女に選ばれて。随分と変わってしまった環境の中で、メリーだけが変わらない。歩いて行こうとするメリーの袖を掴んで、引き留める。


「どうしたの?」

「ちょっと、まだここにいようよ。久しぶりに二人なんだからさ」

「…何かあったの?神託で何か言われた?」

「いいや…おれ、やっぱ勇者なんて向いてねぇなって。さっきも、すぐ倒されてかいちょーに任せちまったし」

「でも、さっきギーが勇気を出してくれたから私たちはあの炎から逃げられた。でしょ?」

「それは…ハクせんせーのサポートがあったから…」

「できなかったことよりできたことに目を向けようよ。だって私たちはまだスタートラインに立ったばかりだからね」

「そう、かな…ありがと、メリー」

「どういたしまして。ほら、行こっ」

「へいへい、お姫様の仰せの通りに」


なぜか駆け出すメリーの後を追う。うちのお姫様はお転婆だな。









次の日、全校集会が行われた。内容としては、四天王アイネ・ブロッサムの襲撃があったことについての調査と、被害を受けたフィールドの再建築のため二週間休校にするということ。そして闘技大会の決勝は後日おれと会長で行うということだった。リリア姐さんからの申し出らしい。


全校集会が終わり、講堂を出て行こうとする人混みの中にもうすっかり見慣れた漆黒の頭を呼び止める。


「かいちょー‼︎」

「…なんだ?」


おれの声を聞いてピタリと足を止め振り向いた会長の顔は少し疲れが見えた。そりゃそうだ。昨日あの後学院長と王城の使いからの事情聴取を一人で受けたんだからな。


「いやぁ、大したことじゃねェよ?昨日はありがとーございました。かいちょーがいなかったらたぶん、おれら死んでたから」

「…気にするな。それに、礼を言うのはこちらだ。アギスが引っ張ってくれていなければ俺は…炎を巻き込まれて死んでいただろう。助かった」

「そりゃまぁ仕方ないデショ。“天職”が同じだと力量差がわかる、っていうのは有名な話だし。あのディアブロとかいうヤツ、影操士だったみたいだしさ」

「俺が気に食わんのだ。…決勝まで二週間できた。この二週間でお前がどこまで成長するか楽しみにしている」


フッと笑って再び歩き出す会長。バタン、と倒れる音が聞こえて振り返ってみると、入学式の時に目立っていた会長のファンクラブの人達がいた。筋骨隆々とした男が中心で胸を押さえながら倒れており、他のメンバーは「隊長ー‼︎」と叫びながら群がっていた。…なんなんだ、あれ。

ジトっとした目で見ていると、一人がおれの方に駆け寄ってきた。


「やぁはじめましてアギス君。我々は生徒会長親衛隊さ」

「…はぁ、存じております…?」

「そうかいそうかい。なに、そう警戒しないでおくれ。我々はエルきゅ…会長をただ影ながら応援しさせていただきたいだけさ」

「影ながら…?どこが?」

「はっはっは、君は正直だねぇ。ちなみにあそこに倒れているのが我々の隊長さ。一番の重症者だねぇ。私は副隊長。これから長い付き合いになると思うからどうぞよろしくね」

「長い…付き合い…?」

「そう‼︎君はエルきゅんと共に旅立つのだろう?我々親衛隊もひっそりとついて行こうと思っていてね。ああいや、心配しないでくれ。行くのは私と隊長の二人さ。これでもランクCくらいの実力はあるのだよ」

「…えー…っと、ほどほどでお願いシマス?」

「あっはっは‼︎」


眼鏡とヒョロっとした長身からは想像がつかないようなデカい声で笑う副隊長とやら。しかも目をカッと開いて口角だけを上げて笑っているから少し怖い。あと会長のことエルきゅんって呼んでんの?マジで?


一人で笑い続ける副隊長を置いてその場を立ち去る。…変なのに絡まれたな…











次の日。早起きして寮の裏手にある森で剣の素振りをしていたおれをリリア姐さんがメリーを連れて訪ねてきた。話を聞けば、冒険者ギルドに行ってみないかという誘いだった。


「冒険者ギルド…うーん、確かに登録しといた方が後々便利そう」

「えぇ。それに…これは噂なのだけれど、アギスとメリッサの出発が本来なら卒業した後じゃない?でも、今回の件を受けて早めに出発させるっていう話を聞いたのよ。それで、できるだけ早く経験は積んでおいた方がいいかと思って」

「そんなお話が出ていたんですか?まだたった一日しか立っていないのに…」

「それだけ今回のことを重く見たってことだろ。国内でも王都でしか流れていないはずの勇者誕生の話を四天王が知ってたんだから。ね、リリア姐さん」

「えぇ、そうよ。まぁこの二ヶ月で商人たちの手によって大陸中に広がりつつあるとはいえ…ってことね。それに、わたしの弟の件もあったし」

「あぁ、アリス。大丈夫だったの?」

「えぇ、昨日の夜に目が覚めてね。幸い様子がおかしいことに観客席の生徒たちか気付いていなかったからよかったわ。この休みの後、そのまま登校するそうよ。事情聴取はあったけれど、何か特別な情報が流れたわけでもないしお咎めはないわ。…あの女、次こそ倒す」


昨日の試合での険しい表情は消え失せ、柔らかく微笑む姿は学年一モテるというのも納得だ。それにしても、弟も弟だが姉も姉らしい。リリア姐さんの方もブラコンみたいだ。


「よかったです。アリスさん、とってもお強かったですからね」

「かいちょーも楽しそうだったしね。リリア姐さんにも負けてないんじゃない?」

「そうね。たぶんわたしよりもあの子の方が強いわよ。ただ、あの子は魔法が苦手だからまだわたしが勝てているだけね」

「ふぅん。聖騎士、なんでしょ?こりゃもうエリート街道まっしぐらじゃん」

「そうね…きっと近衛騎士にでもなっていると思うわ」


少し寂しそうに笑いながらリリア姐さんが言う。


「さ、ギルドに行きましょうか‼︎エルってば今日から二週間高難易度ダンジョンに潜るつもりみたい。アギス、メリッサ、アイツに吠え面かかせるためにわたしたちも鍛えるわよ‼︎」

「ダンジョンに一人でですか⁉︎しかも高難易度ダンジョンって…あの有名な、王都郊外の高難易度ダンジョンですよね⁉︎」


メリーが随分と大きな声で叫んだ。


ダンジョンというのは、いわば魔物の集落だ。というのも、基本魔物は同じ種族同士で群れを成して暮らすのだが、多数の種族の群れが集まり、ある一定の地域に定着するとそこの地質が変化するのだ。そうして人族が住みにくくなったところをダンジョンと呼ぶ。魔物は日の光を嫌う種族が多いため森や洞窟が多いのは有名な話だ。


ダンジョンは基本騎士団が調査に行き難易度をつける。魔物の死体なんかを売って生活する冒険者からすればダンジョンは素材の宝庫だから、弱い冒険者が一攫千金をしようとダンジョンに立ち入って死ぬようなことがないようにどんなに難易度の低いダンジョンでも入れるようになるのはランクDからだ。まぁ、多少鍛えればランクDなんて誰でもなれるから、そんなに厳しい基準ではないが。


ただ、今回会長が行ったという王都郊外の高難易度ダンジョンはランクCの中でも上位のパーティーか、ソロだとランクB以上でないと行けないのだ。電狼といったランクCの魔物がうじゃうじゃしているし、奥に進めばランクBの魔物が群れて生息しているという噂だ。ランクBの群れなんて、ソロのランクBじゃ太刀打ちできないだろうし、ランクCパーティーなんて尚更だ。でもなぜか、会長なら大丈夫だという予感がしている。


「へーえ。それはおれも頑張らないとじゃん」

「わ、私も頑張ります‼︎」

「それじゃあ出発よ‼︎」


両手で拳を握りながら言うメリーを撫でて、リリア姐さんが走り出した。おれとメリーは顔を見合わせて、くすりと笑ってから後を追った。


「ちょ、リリア姐さん早いって‼︎」

「ま、まって、待ってくださいぃ…‼︎」

「うふふ、早く来ないと置いていくわよー‼︎」


…そういえばリリア姐さん、速度バフかかってるんだったっけ。

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