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006:王都の散策(2)

 市場を見て回っていうちに良い時間になりましたので、食事をしたいと思います。タバタ男爵は食事で好き嫌いは無いようですので、私が以前来て美味しかった街の食堂へ行こうと思います。貴族が行く食事処ではないのですが、タバタ男爵には知っていて欲しいお店です。

 お昼時という事もあり、お店の中はそれなりに人がいます。庶民の食堂なので個室はありません。テーブル席に座り、メニューは壁に書いてありますので、そこから選んで注文します。

「おすすめは、肉シチューとソーセージ、それとエールになります」

「えぇ。エールがあるの?」

 タバタ男爵はエールを知っているのでしょうか。お屋敷での食事ではワインが出ますが、庶民にはエールの方が馴染があると思います。という事で、シチュー、ソーセージ、エール、パンを注文しました。昼食には少し多かったかも知れませんが、たまには良いでしょう。


 先にエールが来ましたので飲みます。うん。美味しいです。タバタ男爵も美味しそうに飲んでいます。

「エールは初めてですが、フルティーで美味しいですね」

「お口に合って良かったです。お国にはエールは無いのですか」

「エールはありませんでしたが、似たものでビールがありました。たぶん、作り方が違うんだと思うんですけどね。ビールは良く飲んでました。ワインよりもこれの方が馴染がありますね。」

 タバタ男爵の国にも似たものがあったようです。これはお屋敷にも取り寄せた方が良いようですね。私もたまに飲みたいと思っています。


 次にソーセージとパンが来ました。ソーセージは豚と羊の2種類です。どちらも王国の領地で飼育しています。塩と胡椒、あと何かの香辛料が入っているようで茹でたものがパリッとして美味しいのです。

「おぉ。これも美味い」

 タバタ男爵がおよろこびで私も嬉しいです。私も食べます。この香辛料の感じがエールに合い、とても美味しいです。羊の腸に香辛料を混ぜた肉を詰めるというのは誰が考えたのでしょうかね。これも以前の異国人でしょうか。美味しいものが食べれるのは良いことです。

 シチューがきました。肉と野菜を香辛料と乳で煮たものです。たったこれだけなのに美味しいのです。香辛料の組み合わせが良いのでしょうか。タバタ男爵も美味しそうに食べています。

 大きめに切られた肉、ジャガイモ、人参、それにこの緑の野菜は何でしょうか。以前に来た時には入っていなかったと思いますが、色が鮮やかになっています。

「それはブロッコリーだね」

 私が不思議そうな顔をしていたのが分かったのでしょうか。タバタ男爵から教えて頂きました。緑の野菜はブロッコリーと言うそうです。


 食事を終え帰ろうとしたとき、タバタ男爵に給仕と何か話しています。私が会計を終えて戻ってくると、タバタ男爵は料理人と楽しそうに会話していました。何を話されているのかは分かりませんでしたが、最後に料理人と握手をして笑顔で私の所にきました。タバタ男爵は不思議な方ですね。何を話していたのかは気になりますが、タバタ男爵が話し出すまで私からは聞きません。私は補佐ですから。

「シチューは美味しかったけど、何か足りない気がしてね。それで料理人と話してたんだ。ワインを少しとローズマリーとかローリエを入れると、もっと風味が良くなるって話をしてたんだ。それで料理人と話が合っちゃてね、あんな感じでね」

 お店を出てタバタ男爵が先ほどの料理人との話をされました。タバタ男爵は作物を作るだけではなく、料理にも詳しいのですね。新しい食材だと食べ方が分からなければ美味しくいただけませんもんね。


 昼食を終え、午後も市場を見学します。さて、どこへ行きましょうか。市場ですからブラブラ歩くだけでもタバタ男爵は色々見つけます。

 この辺は、小麦や大麦、ライ麦を扱うところのようです。タバタ男爵は袋にいれられた麦を熱心に見ておられます。

「この麦は仕入れたものですか」

「そうです。東のハフミスタ領から持ってきたものです。あそこの小麦は風味があって美味しいのよ」

「1つください。それとコメってあります?」

「コメは、これだね」

「おぉ!コメも1つください。コメはどちらから?」

「コメは、南のドミニオン領からよ。王都じゃ、あまり売れないから、仕入れは少ないよ」

 タバタ男爵がこちらを見ました。分かりました。ドミニオンですね。視察に行けるように予定しておきます。タバタ男爵は小麦とコメを購入しました。王都でコメは馴染が無く、私も食べたことがありません。白いツブツブですが粉にしてから食べるのでしょうか。


 次に訪れたのは、豆の専門店のようです。私が分かるのは、れんず豆、大豆、そら豆、えんどう豆ぐらいですが、他にも色々あるようです。とても彩りが鮮やかに見えます。豆類は200年程前に栽培が開始され、市場に出回るようになったものです。

「この大きいのは、どやって食べるんですか」

「知らないのかい。れんず豆はトマトと一緒に煮て食べるんだよ」

「へぇ。これは」

「大豆も同じさ、煮てたべるのさ」

「トウフにはしないんですか」

「トウフ?知らない名前だね。新しい豆かい?」

「いえ。大豆から作る食べ物です」

 また新しい言葉がでました。『トウフ』なるものも、聞いたことがありません。


「ブルーノさん。王国に海はありますか」

「南部のドミニオン領に海があります。コメもそこで栽培されていますが行きたいですか?」

「コメも見たいので出来れば行きたいですが、無理なようであれば、海の水・・・海水が欲しいですね」

「海水、そのものですか」

「海水というよりは、海水を加工した物が欲しいんですけどね。あれ?塩はどこで作っているんですか」

「塩は北部のヒベレス領の山で産出するので、そこから運んできています」

「あぁ、岩塩なんですね」

「んん?海水から塩ができるんですか?掘るより簡単ですか?」

「出来ますよ。掘るより・・・どうでしょうか。工程がいくつもあって手間が掛かりますけど」

 おぉ。これは良い事を聞きました。海水から塩が出来るのであれば、海水はいっぱいあります。手間がどの程度なのか分かりませんが、塩は王国にとっても重要です。


「店主、この豆は昔から、この辺で栽培されていたのですか」

「昔、苗を持ったお爺さんが来て、教えてもらったって話だったよ。それから村で豆を作るようになったって」

「そうですか。ありがとう。大豆を2袋と小豆を1袋ください」

 ・・・ここにも異国人の気配があります。以前の異国人も農業の専門家だったようなので有り得ます。


 今日はこのぐらいでという事で、お屋敷で晩餐前ですが、購入品の試食会が始まりました。と言っても漬物だけなんですけどね。タクアンは保存食と言っていましたが、歯ごたえがあって美味しいですね。カブがピリッとした味のアクセントがあってエールに合いそうです。

 タバタ男爵が料理人に、豆の煮込みのリクエストしています。今日の晩餐の調理は終わっているようなので、後日という事でしょうね。どちらの料理もこの国に住んでいるものであれば、良く食べる料理ですが、タバタ男爵は異国人ですから馴染が無くても不思議ではありません。

 それから、このお屋敷の関係者は全てタバタ男爵が異国人であることを知らされています。タバタ男爵が疑問に思ったことは、この国で常識だったとしても、お答えするようにと指示が出ています。

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