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005:王都の散策

 授与式を終えて数日経ったころ、タバタ男爵は街を見たいと仰いました。確かに、何かするにしても現状が分からなければやり様がありません。私はタバタ男爵とメイドのエミリを伴い、街の視察に出掛けることにしました。視察と言っても街がどうなっているか分からないと思いますので、今日は、東区の市場になるかと思います。

 王都と一口に言っても大きな街ですので、全部見るだけでも10日は掛かると思います。王都は2門の前に広場があり、そこで3本の街道が交差しています。南側に行く街道を境に東区、西区と分かれています。東区は商店が多く、西区は鍛冶や錬金などの工房が多くあります。


 東区の市場には沢山の商店がありますのでタバタ男爵の興味がありそうなお店を中心に案内したいと思います。タバタ男爵は料理といいますか、素材や香辛料の方に興味がおありの様で、屋敷での食事でも料理人によく素材や香辛料のことを聞いておられます。ですので市場を見学し、昼食は屋台か街の食堂でと思っております。屋敷の料理と食堂の料理で、味の違いなどにも興味があるのでは無いかと私は推察しております。

 屋敷から市場までは徒歩で行けますし、お店も回る予定ですので馬車では行きません。普通の貴族は近くてもお店の前まで馬車で移動するのですが、それだと見学になりません。欲しい商品を買うだけになってしまいます。タバタ男爵には王都のすべてを見ていただき、今後の考察に活かしていただきたいと思っております。

 屋敷を出てすぐにタバタ男爵から質問がありました。『石畳は誰が作っているのか』『門の衛兵は夜もいるのか』『貴族の家には馬と馬車は必ずあるのか』とかですね。答えは『石畳は専門の石工がいます』『夜も交代でいます』『男爵位ですと貸馬車が多いですが、上位の貴族になれば専門の厩舎番がいます』になります。

 タバタ男爵には石が珍しいのでしょうか。石塀を見たり、家の石積みを見たり、石畳を観察されたりしています。大小様々な石がキレイに積んであるので、私も子供の頃、屋敷の修繕に来た職人に質問したことがあります。『キレイに積んだだけでは崩れるけど、何故崩れないのか』と。答えは小さい石を砕いて水と練って石の間に入れているとのことでした。これをすると石同士がくっ付いて崩れないそうです。

 さて、この感じで進んでいると市場に着くまでに相当の時間が掛かりそうです。初めての街なので見惚れるのも仕方ないですね。私は補佐ですからタバタ男爵の見たいものにお付き合いいたします。


 ここまでで大分時間が掛かっていますが、市場にたどり着きました。普段はこんなに時間は掛かりませんが、タバタ男爵が嬉しそうなので時間の事は気にしないことにします。

 市場と言っても、市場と言うお店がある訳ではありません。大きな建物の中に小さなお店が沢山入っているところです。ここでは果物、野菜、肉、魚などの食料品や香辛料の他、鍋や器などの料理小物まで売っています。タバタ男爵は野菜や果物に興味があると思われますので、まずはそちらから回ることにします。


 色々な野菜が並べられた店先で、タバタ男爵が店主の老婆と会話しています。何を話しているのでしょうか。

「これは何?」

「知らないのかい?これはキャベツだよ」

「これがキャベツなんだ。じゃあこれは、ハクサイ?」

「そうだよ。キャベツは知らないのにハクサイは知ってるのかい。珍しいね」

 なるほど、野菜の話ですね。お屋敷でもキャベツのスープが出ていたと思うのですが、言わないでおきましょう。

「王都の近くで作ってるの?」

「隣の村だから、朝採れの新鮮野菜だよ」

「店主は、どうやって食べてるの?」

「そうだね・・・。キャベツはスープに、ハクサイは漬物かね」

「そういえば、スープにキャベツが入ってたね。ハクサイを1つください。漬物は売ってないの?」

「うちは野菜だけだよ。漬物はあっちの方だよ」

 おっと、店主と野菜の話が終わったようですね。購入したハクサイは私が受け取りメイドのエミリに渡します。


 次は漬物ですね。この国の漬物は基本的に塩漬けなのですが、お店によって香辛料を入れたりと少しずつ味に違います。漬物樽がいっぱい並べられ、試食用の漬物が少量づつ器に入れられ樽の上に置いてあります。味が分からなければ買えないというお客の要望に答えた試食です。

「おすすめは、どれですか?」

「俺のおすすめは、このカブだね」

「歯ごたえがあって、塩味と甘味のバランスがいいし、鷹の爪がピリッとしてうて、おいしいですね」

「おぉ。兄さん、分かるかい。上手いと思うだが、中々受け入れられなくてな。良かったら、これ持って行ってくれ」

 タバタ男爵は店主おすすめのカブの漬物を試食して1つ貰ったようです。私が持ちます。お屋敷に帰ったら試食させてくださいね。漬物店を去ろうとした時、タバタ様は足を止めました。

「店主。これってタクアンですよね?試食いいですか」

「そうだよ。保存食のタクアンだよ。あんた若いのにタクアンなんか知ってんのか」

 タバタ男爵の食べる表情を見ると、懐かしむような感じがします。お国の味と似ているのでしょうか。私はタクアンを食べたことがありません。

「これ1本ください。これはどなたが考案されたのですか」

「ダイコンもカブも俺の曽祖父ひいじいさんが村に来た人に教えてもらったそうだ。最初は栽培の仕方で秋ぐらいに来た時に漬物を教えてもらったそうだ。爺さんどうしで話が弾んで宴会してたらしいぜ」

 タバタ男爵はタクアンを購入しました。昔からある食材や食べ方では無いらしいです。店主の話でタバタ男爵も何か思うところがあるように感じます。もしかする以前の異国人が栽培と加工を教えたのではないかと私は考えます。


 次に訪れたのは、香辛料を扱うお店です。袋にたくさん入っていて、色々な匂いが混じって独特な香りがするので、私はあまり得意ではありませんが、タバタ男爵は興味がおありのようです。

「これは・・・、胡椒、ナツメグ、サフラン、ターメリック、ローズマリー、セージ、オレガノかな」

「おぉ、お客さん。詳しいね。南部領から仕入れてるんだが知名度が低くてなぁ。お客さんみたいに分かる人がいると嬉しいよ」

「全部、南部領からですか?」

「そうだよ。この辺は寒いから育たないんだ」

「使い方・・・食べ方は教えてないんですか?」

「俺は料理人じゃないから、そこまではな」

「そうですか・・・。では、胡椒とローズマリーとローリエをください」

 タバタ男爵は料理もできるのでしょうか。何に使うか分からない粒と葉を購入するようです。


 その後もあちこちのお店で声を掛け、色々と見て回ります。タバタ男爵は野菜や果物、香辛料など、色々知っているようです。知識の豊富さに感心します。

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