004:王都で
休憩後、私たちは馬車に揺られ、王都に戻ってきました。塞ぎこんでいたタバタ様も王都の景色を見て、少しは気が紛れているようです。
王都は、森との境界に木の柵を巡らし、広大な畑が広がっています。その先には1門目の高い石塀に囲まれた区画があります。主に庶民の住居や商店があります。2門目は1門よりは低いですが、こちらも石塀です。ここは主に貴族や政務の場所があります。3門目は1門より高く厚い石塀で王城があり、王族の方々の住まいになっています。王都は丘の上にある王城を中心に扇状に住居や畑が広がっています。
畑の中の道を通り、1門、2門を抜けます。この馬車は政務用の馬車なので1門、2門は素通りで止められることはありません。
馬車は2門を抜け屋敷の一つに停車しました。王宮で管理する屋敷の1つです。ここは他国や王都に屋敷を持たない遠方の領主が王都に来た際に貸し出される内の1軒ですが、元々は、3人目の異国人の方が晩年を王都で過ごされるのに用意された屋敷です。
ここは王宮で所有していますので未使用でも執事やメイドが管理人として常駐しています。とは言っても執事が1人とメイドが2人です。馬車が来たことに気づいた執事が屋敷門を開け、執事とメイドが門の脇に並び私たちを出迎えました。
「ようこそおいで下さいました」
「フランツ、こちらはタバタ様です。しばらく、ここに滞在しますのでよろしく頼みます」
「ダカン様、畏まりました」
執事のフランツにタバタ様を託しました。調査官と私は王宮にいる宰相にご報告に向かわねばなりません。
「タバタ様、こちらが執事のフランツ、メイド長のメアリーとメイドのエミリです。私たちは王宮に行ってまいりますので、この家でお寛ぎください。夕方頃には戻れると思いますので、晩餐をご一緒しましょう」
「はい。すみません。ありがとうございます」
特に謝られる事はしてないと思うのですが、ニホンの特徴でしょうか。調査官と私は馬車に乗り王宮へと向かいます。
そうそう、執事、メイドと簡単に紹介しましたが、この方たちは護衛も兼務しています。メイン業務は執事やメイドですが、有事の際には主を守れるくらいには強い方々です。私も一応、格闘訓練には参加していますが、自分の身を守る程度の武力しかありません。まぁどうにもならないときは主が逃げる時間を稼げるように頑張ります。
3門で衛兵に要件を伝え王宮に入りました。馬車を降り、長い廊下を右へ左へと進みます。宰相の執務室前の衛兵に要件を伝え、声が掛かるまで廊下で待機します。我々文官は一般官僚よりも王や宰相に会いやすい位にいますが、それでも予定というものがあります。急に行って直ぐに会える訳では無いのです。待機すること暫し、声が掛かりました。部屋に入ってすぐに宰相から声が掛かりました。
「ご苦労。どうだった?」
「はい。異国人で間違いないかと思います。こちらが報告書となります」
フローラン調査官が答え、宰相に報告書を差し出しました。
「そうか」
宰相は顎髭を摩り、何か考えているようです。
「王には報告しておこう。異国人は屋敷に?」
「はい。2号館の方に滞在して頂くようにしました。こちらのダカンと話が合いますようなので、今後の異国人についてはダカンを担当にと思っております」
調査官に推薦していただきました。これは僥倖です。私の祖先も異国人と関係があったようです。
「そうか。ダカン、異国人は何が得意なのかを調べ、王国が繫栄するように手筈を整えてくれ。以前の異国人は文献によれば農業指導や魔道具製作をしていたようだ。今回の異国人も王家が後ろ盾になると思うが、異国人との連絡を密にしてくれ。今後の事は、後日、連絡する」
「はい。畏まりました」
こうして私はタバタ様担当となり、後に秘書としてタバタ様のお仕事の補佐と王宮との連絡を取り持つようになります。
王家が後ろ盾になるにあたり、どうすれば不審に思われず、異国人を守れるか宰相は考えたそうです。それが『他国貴族の亡命』だそうです。異国も他国も同じと言えばそうなのですが、亡命は問題が有りそうな気がしますが、宰相が決めたことなので私は従います。たぶん王国の高位貴族には異国人として根回ししてあるのだろうと思います。高位貴族と言いましても、王族以外には5公爵と数名の侯爵、男爵しかおりません。宰相と4領主が公爵になります。
数日後、王城の一室で爵位授与式が行われました。王族、宰相、有力貴族が数名、列席し、タバタ様へ男爵位の授与です。タバタ様は領地を持たない男爵です。今後、男爵として貴族として生活するようになりますが、貴族の仕来たりは分からないと思いますので、私や上位の貴族から学んでいくようになると思います。私は男爵家の3男ですが、貴族の仕来たりは少しは分かるつもりです。
爵位授与の後、宰相からの通達があります。タバタ男爵と私が出席しました。
通達を要約すると、今タバタ様が住んでいる2号館を王家より下賜され、執事、メイドもそのままで、私が秘書としてタバタ様の補佐をする。王家が後ろ盾となるので、必要なものは上申する。仕事は好きなことしてもらって構わないが、大きな改変を行う場合は私と相談した後、宰相に報告する。という事が書かれていました。
その夜、タバタ男爵の屋敷で、簡単な祝宴が開かれました。まだ知人の少ないタバタ男爵ですから、参加者は私とフローラン調査官です。今後、タバタ男爵に知人が増えればパーティーなども催されるようになる筈です。その時は私は補佐として裏方になると思います。
タバタ男爵のお屋敷は王家が管理していただけあって、私の実家の男爵家よりも良いもののようで、部屋数は10と男爵家としては一般的ですが、装飾が豪華で、部屋に敷いてある絨毯も毛足が長く、良いものです。私もこちらに住まわせて貰おうかなと思っています。今度、タバタ男爵に聞いてみようと思います。
それと、この屋敷の庭の一角に東屋があります。以前の異国人の方が故郷を懐かしみ作ったと言われる小さな家です。住むのに必要な機能は一通り揃っていますが、如何せん作りが小さく、2人ぐらいしか生活できないんじゃないかと思います。その家にはタタミと言われる、草を編んだ敷物を敷いた部屋が1つあり、以前の異国人の方が、晩年はその部屋で過ごされたそうです。ただ、草なので劣化していて今でも使用できるのかは分かりません。タバタ男爵が必要とされた時に改修する必要がありそうです。