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003:異国人

 私、ブルーノ・ダカンは王城で業務中に上司のランドルフ・フローラン調査官に呼ばれました。内容は『ハフミスタ領ライエテに異国人らしい人物が現れた』と言うものでした。私が文官になってから初めての異国人です。早速、出発の準備をしてライエテへ向かうことになりました。


 私とフローラン調査官は、異国人らしい方と話をするのにライエテの衛兵詰所に隣接した取調室に入りました。

「私は、ランドルフ・フローラン。こちらはブルーノ・ダカン。あなたにいくつか質問があるのだが良いだろうか」

 挨拶もそこそこにフローラン調査官は話を始めました。流石はフローラン取調官です。いつもは厳めしい顔をしているのに、取り調べになると優し気な雰囲気を醸し出し、相手を委縮させないなと私は感心しました。

 フローラン取調官が椅子に座り、私は斜め後ろに立ち、異世界人と思われる人物を観察しました。黒髪に黒目で青い服を纏い、椅子には上着と思われるものか掛かっていました。

「お名前は?」「タバタ ミノルです」

「タバタがお名前ですか?ミノルがお名前ですか」「あぁ、タバタが姓でミノルが名前です」

 姓を先に言うのは、この王国では習慣がありませんね。

「どこから来られましたか?お国は?」「ニホンの〇〇県□□市です」

 以前の異国人もニホンからと文献には書いてあるようですが、私にはどこの地域なのか全く分かりません。

「お仕事は?」「農業です」

「年齢は?」「30才になります」

 私より少し年上ですか。

「お金はお持ちですか?」「はい。これです」

 タバタ様はテーブルにお金をだしました。硬貨が数枚と絵の書いてある薄いものがあります。硬貨は金銀銅貨でなく、この辺では見ない意匠が刻印してあります。

「これは?」「それは紙幣です」

「紙幣?」「それもお金です」

 紙に絵の書いてあるものがお金とは?どういうことでしょうか。どのように使うのか分かりません。紙は高価です。

「得意なことは?」「農業でしょうか」

「既婚ですか?」「独身です」

「なぜ森に?」「道端で寝ていたようで、目が覚めて歩いて、この町にきました」

 魔物や凶暴な獣のいる森で寝ていたと聞いた時、私は驚きました。腕利きの護衛がいれば話も違うでしょうが、森は獣の住処なので、素早く移動するもので、立ち止まったり、ましてや、寝たりするところではありません。

「この国は初めてですか?」「はい。ここの畑を拝見しましたが、珍しそうなものが沢山ありましたね」

「えぇ。この国は農業が盛んです。この国の言葉は、どこで覚えたのですか?」「え!ニホンゴですよね?」

 言葉は私も気になっていました。タバタ氏はこの国の言葉を流暢りゅうちょうに話しますし、こちらの言いたいことも伝わっているようです。タバタ氏が言うにはニホンゴで話して、ニホンゴで聞こえるそうです。どうなっているのでしょうか。伝わらないよりは伝わる方が良いので構わないと言えば構わないのですが・・・。

 フローラン取調官が私の方を見て頷きました。私も頷きます。タバタ氏は異国人確定です。この後、王都に一緒に行くことになると思います。


 馬車の準備が出来たとのことで私たちはタバタ様を伴って取調室を後にしました。

「馬車は初めてですか?」

「ニホンでは、馬車はありませんし、馬も近所には居ませんでした」

 馬と馬車を興味深そうに見ているタバタ様に気づいた私は問いかけ、答えを聞いて、私は首を傾げていたと思います。『馬が居ない』とは?はて?移動はどうしていたのでしょうか。徒歩でしょうか。

 私たち3人は馬車に乗り込み、護衛の騎士たちは馬に乗り、王都へ移動します。馬車は2人掛けのベンチが2つ対面になっています。私と取調官が座りタバタ様は対面に座ります。私はタバタ様にクッションを渡しました。

「それを下に敷いて座ってください」

 私たちの準備が出来たところで馬車が走り出しました。道が凸凹なので馬車は揺れます。私たちは特に気にしませんが、タバタ様はベンチと馬車の窓枠を掴み、体を安定させるのに、ずいぶんと力が入っているようです。王都までは、それほど時間は掛かりませんが、王都に着いたときに疲れてしまっているのではないかと心配になります。

 川辺で途中休憩します。馬を休ませる必要があるからです。私たちも馬車から降りて体をほぐします。

「馬車がこんなに揺れるとは思わなかったです」

 タバタ様の初めて乗った馬車の感想です。私は良く馬車に乗るので揺れるのは当たり前だと思っていました。

「気になっていたのですが、タバタ様のお国では、馬や馬車での移動ではないのですか?徒歩ですか?」

「私の国では、馬車ではなく、自動車が走っていました」

「自動車?ですか」

「何と言いますか・・・馬のいない馬車です」

「はぁ・・・」

 タバタ様の住んでいたところでは『馬のいない馬車』が動いていたようで、この国よりも発展しているようです。私の想像力が足りないのでしょうか、理解が追い付きません。

 騎士たちが火の魔石道具、いわゆるコンロでお湯を沸かしてお茶を入れてくれました。タバタ様は魔石道具を興味深かそうに見ています。

「コンロがあるんですね」

「えぇ。魔石に魔法が入れてあって簡単で便利ですよ。以前の異国人の方がコンロのアイデアを出して制作された魔石道具です」

 タバタ様の国には魔法や魔石道具が無いそうで、替わりに本物の火を使う同様のものがあるそうです。

「私のようにどこからか来る人ってたくさんいるんですか?」

「えぇ、私の知っている限りだと、100年に1人ぐらい現われて、タバタ様で4人目です」

 タバタ様は自分と同じ境遇の人がこの国に居るのか気になるようです。

「そうですか・・・。私は元の場所に帰れるのでしょうか」

「それは・・・分かりません。以前の方々はこちらでお亡くなりになったと文献には書いてありました」

 タバタ様は、それっきり塞ぎこんでしまいました。仕方ありません。私も、突然、見ず知らずの所に行ったら同じようになると思います。帰りたくなる気持ちは分かりますが、何故、ここに来たのかも分かりません。

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