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002:実(みのる)は異世界へ

 田畑実たばたみのるは、農業を営む両親の背中をを見つつ弟と2人で育った。住んでいるのは〇〇市という名ではあるが、みのるの家は山が近くにある、いわゆる田舎町であった。昔は栄えていたであろう商店は扉を閉ざし、町を行きかう人もまばらで、隣町に向かう車が通るぐらいの道がある場所であった。

 みのるは地元の高校卒業後、両親の後を継ぎ、農業をするべく農業が学べる大学へ進学した。ここでみのるは勘違いをしたのだが、みのるの選んだ大学は農業実務より研究が主体で作物の交配や寒暖地を考慮した新種の開発、食品加工が主であった。

 大学へ通い始めて、みのるは気づいた『あれ?田植えの時期だと思うのだが?』みのるの大学では田植えはしない。田植え前の苗をどう育てるかの研究である。

 紆余曲折ありながらも実は、肥料の使い方、肥沃ひよくな土地や荒蕪こうぶな土地での農業、寒暖地での農業を学び、選択科目であった加工では『発酵』で『こじ』なのど菌類に興味を示し、研究に参加していた。ある時、朝食に納豆を食べたことを忘れ、味噌研究に参加し、味噌を台無しにしたのが、研究での思い出であった。


 みのるは大学卒業後、地元に戻り、農業関係の会社に就職した。両親が健康であり、自分は手伝い程度でも大丈夫だろうという両親の言があったからだ。地元の小さな会社では大学の研究を活かせる訳もなく、営業に精を出し、就職してから3年が経っていた。

 営業に出ていたみのるのスマホに母親から連絡があった『父親が死んだ』と。トラクターで田んぼに向かい、土手から落ちたそうだ。

 葬儀が終わり『田んぼや畑をどうするのか』の話になるが、みのるは仕事を辞め、農業を継ぐことにした。みのるは1ヶ月後、会社を退職しアパートも引き払い実家へと帰ってきた。父親の残した土地は、昔なら大地主と言われるであろう30町歩。いわゆる野球ドーム6個分ぐらいであった。

 父親の田畑一たばたはじめは祖父の残した田畑を受け継ぎ、自身も農業で生計を経てるべく近所の田畑を買い集め、今の規模に拡大していた。その他にも近所の休耕田も作付けしているので、全部で40町歩はあると思われるが、機械がなければ作付けできない広さであった。

 みのるの家には、トラクター、コンバイン、乾燥機、田植え機、フォークリフト、その他色々と揃っている。一式を一度に揃えると高級車が何台も買える金額になるとかいわれる農業機械たち。免許が無ければ乗れないので、実家に戻った実は、免許を取得するために免許学校へ通うことにした。1ヶ月後、免許を取得した実は、機械を駆使し、広大な田んぼを耕し、田植えをし、草刈りにと精を出した。慣れない仕事で疲れもするが、世話した分だけ、稲や野菜たちは大きく成長し、自然を相手に作業する喜びも感じていた。


 みのるは農作業が暇な冬場、大学での研究を活かし、自家製味噌を仕込んでいた。畑で採れた大豆を水につけ、煮て、潰して、麹菌の培養は管理が大変なので市販品にし、塩を加え、樽に隙間なく入れ、重しをした。半年もすれば良し悪しが分かるだろうと倉へと仕舞った。

 それと、地ビールならぬ自ビールを作る。自分で飲むビールだが、広大な農地はあれど、流石に麦とかホップは作っていないので、ビール製作に必要な材料を購入して仕込みになる。温度管理とか面倒なところがあるが、元は研究者であるみのるに苦労はない。材料を入れた鍋を火に掛け、冷まし、温度管理しつつ熟成を待ち、ビンに詰めて出来上がりだ。

 ビールのお供は、夏場に収穫した枝豆と冷奴。茹でて冷凍保存しておいた枝豆を解凍し食べる。冷奴は自家製大豆に市販のニガリを加えた自家製の豆腐で薬味として、これも自家製のミョウガをのせてある。やはりビールには枝豆と冷奴だなとみのるは思うのであった。


 みのるの実家では形の関係で出荷できない野菜は漬物にしていた。作り方や味は時代で少しずつ変わってきているが、みのるの実家に伝わる主な漬物は、ハクサイ、カブ、ダイコンをそれぞれ塩漬けし、しんなりしたぐらいで漬けなおす。ハクサイはトウガラシ、ナンプラー、ニンニクなんかを入れてキムチにし、カブは鷹の爪を輪切りにしてザラメを加えて甘辛風に、ダイコンは干してタクアンにしていた。


 5年が過ぎ、みのる一端いっぱしの農業従事者になっていた。雪が解け、暖かくなって田んぼも乾いて来た頃、みのるはトラクターに乗り、田んぼの耕うんに出掛けた。夕方まで作業して、今日は終わりという頃、田んぼを上がり、あぜ道を家へと戻っていく途中で、めまいに襲われ、みのるの意識が暗転した。


 夕方に家へ戻る途中でめまいのしたミノルが、目を覚ましたのは、朝日の射しこむ、街道脇の土手であった。ミノルの寝ていた所だけ、草が折れ、他はひざ丈ぐらいの草に覆われていた。ミノルの記憶にある田んぼの近くには、こんな草は生えていない。しかも広葉樹が多く分布した森も見える。ミノルの家付近は、建材を目的に杉が多く植林されていたが、今は管理する人もいない雑木林だった。それに乗っていたはずのトラクターも見当たらない。

 ミノルが『あれ?まだ夢の中かな?』と思ったとしても仕方ないことであった。ミノルは『辺りを見回し、ここに居ても仕方ない』と思い歩き出した。右も左も分からないので勘であったが、しばらく歩くと森が開け、農地と思われる麦畑が見え、奥に高そうな塀と門が見えた。道はその門に繋がっているようであった。

 道の左手は、なだらかな丘に麦が植えられ、風に揺れている。右手の畑には、ジャガイモだろうか、見た事のある白い花が咲いていて、その奥にはトウモロコシだと思われる背の高い植物や緑の葉物があった。ミノルは畑の景色が日本とは違うなと感じていた。

 門に近づくと左右に兵が槍を持ち立っていた。兵は青い目で顔の彫の深い、ミノルから見れば外国人になる。ミノルは恐る恐る兵に日本語で声を掛けた。


「あの、ここはどこでしょうか?」


 門に居る衛兵は森から歩いてくるミノルを見つけ不審に思っていた。そもそも武器も持たずに森にから出てくるのが可笑おかしいのである。青い上下に紺の上着、麦ワラを編んだ帽子らしきものを被っているが、この辺では見ない服装をしていて、遠くからでも異質なのが良く分かった。門の左右にいる衛兵が言葉を交わす。

「なぁ。あれって、領主様が言っていた異国人かな?」

「どうだろうな。見た事ない服ではあるが」

「取りあえず、衛士長に連絡してこいよ」

 こうしてミノルが門に来る前に、衛兵の1人が衛士長に連絡に走ったのであった。


 ミノルの問いに衛兵は、

「ここはハフミスタ領ライエテの街です。あなたは、どこから来られましたか」

「道に迷ったようで、森を出たら、ここに着きました」

 こんな会話をしたら『不審な奴、そこに直れ』と言われ、槍を突きつけられそうだが、異国人の話を聞いている衛兵の対応は丁寧であった。

「では、少々聞きたいことがありますので、こちらへ」

 と衛兵詰め所横の取調室へ案内し水を出し立ち去る前に

「係の者を呼んでまいりますので、ここでしばらくお待ちください」

 と言って出て行った。


『しばらく』と言われ30分ほど待ったが誰も現れず、取調室の扉を開け、衛兵に問いかければ『もう、しばらく』と言われる始末。小さな窓が1つあるだけの、あまり広くない取調室。

 ミノルは仕方なく椅子にジャンパーを掛け、椅子に座り3時間ほど経ち、船を漕ぎ始めた頃に、兵士とは違う服を着た高貴そうな2人が取調室に入ってきた。

 2人ともやせ型で、ズボンにシャツを着て、短いマントを付けていた。マントが無ければ、役所の人みたいだなぁとミノルは思った。

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