001:プロローグ
王都の一角にナベを持ったご婦人やメイド服の女性、小間使いが列を作るお店『タバタ商店』。主力商品のは『トウフ』『オカラ』という、このお店のオーナー、ミノル・タバタ男爵が作られた品物で、男爵は異国人です。
王国は南北に長く、王都は温暖な地域、北部は王都より寒く乾燥した地域、西部は気温が高く乾燥した地域、東部は海が近く温暖ですが王都より湿気の多い地域、南部も海が近く気温が高く湿気の多い地域です。その南部地域では稲を多く作っていて、各村ではコウジを用いた独自の食文化がございました。それをタバタ男爵が調査、研究され、王都民の舌に合うように調整し販売しており、人気となっております。まだ販売は出来ませんが、『ミソ』と言う商品も研究しております。
申し遅れました、私、タバタ男爵の秘書をしております、ブルーノ・ダカンと申します。元々は王家に仕える文官でしたが、タバタ様が異国よりいらした事により、タバタ様の秘書となりました。このお話は、私が見たタバタ男爵の日常になります。
タバタ様は異国では庶民だったそうですが、王家では対外的な事情により、男爵の爵位を授け、私と執事、侍女、メイド数名が付き、王城から遠くない場所にある王家所有の家から男爵が住んでも可笑しくない屋敷をタバタ男爵邸としました。
元々、王家には『王国に来た異国人は国を豊かにする。王国に利があるならば積極的に保護せよ』という代々継承され続ける言い伝えがございます。これは王国がまだ小さな領地だった300年前から100年程度に1人、異国からの来訪者がおり、その方々の功績によって小さな領地は王国になり繁栄したのが始まりのようです。現王もこの言い伝えを守り、王国内の各領主にも『異国人が現れた場合は保護し、王城に伝えるように』と通達しています。
異国人は黒目で王国民とは体形や顔の作りが違い、思想や文化も違うと王国の文献には書いてあります。今まで確認されている異国人は3人。タバタ男爵で4人目です。
1人目は初代王が建国前の小領主だったころ、隣領へ派兵して他領からの援軍で敗走して森の中の湖畔に逃げた時に、湖畔で焚火をしている異国人に助けられました。異国人は領主に迫ってくる5人の敵兵を細身の剣、刀と言われるもので切り伏せました。名はサブロウ、職業は武士と言ったそうです。領主は剣の腕を見込んでサブロウ様を領地の剣の指南役に抜擢したと言われています。そしてサブロウ様は衛兵に剣を教え、王国造りにも協力したようです。
2人目は王国歴105年ごろに現在の南部ドミニオン領に現れ、小柄な老人だったようです。ドミニオン領は当時から水田で米、畑で野菜を作っていたそうですが、この異国人が作り方を指導して劇的に収量が上がったと言われています。名はイチ、職業は農業だそうです。その後、イチ様は王国の保護の元、各地の領地で農業指導をしたようです。
3人目は王国歴220年ごろ、西部アリオン領に現れます。光沢のある服を纏った女性だったようです。3人目なので直ぐに領主に保護されます。名はヨウコ、職業は家電の設計と言ったそうですが、王国人には理解できなかったようで、注釈として道具作り、細工師と書かれています。
当時からアリオン領にはダンジョンと言われる不思議な空間が存在していました。ダンジョンの中には魔物と言われる獣が進化、または変異したものがいました。この魔物を討伐し解体すると魔石が取れますが、魔法使いが使用する魔法を強化する魔石は上質なものに限られ、低質な魔石は捨てられていました。この捨てられる低質魔石の再利用をヨウコ様は考案され、現在、庶民にも普及しているコンロなどの魔石道具を制作、指導されたようです。
現在のアリオン領はダンジョンを有効活用し、魔石道具の制作地として王国に貢献しています。
4人目のタバタ様は黒目で茶色味の入った髪で背はそれ程高くありません。そしてお顔もノッペリではありませんが、我々ほど彫が深くありませんし白っぽい色合いです。
タバタ様は王国歴325年4月の終わりごろ王都近くのハフミスタ領ライエテ街へ現れました。見たことのない衣装を纏い道を歩いてくる人を門番は不審に思い、王城へ連絡をしました。
そして特務調査官ランドルフ・フローラン氏と文官の私が調査に派遣されました。