表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/91

めんつゆ

「あんな特訓をしてたのにほぼ互角か~? 男女の性差はそれほどデカいのか、はたまた男性第1部隊の強さが単純に異常すぎるのだろうか」


 俺はペタちゃんが作った、謎の創作菓子をかじりながら、飯困らずダンジョンに入ってきた男性の第1部隊の様子を見ていた。

 俺も、トウジ隊長達が互角の状況に少々不満がっているように。

 あれほどおかしな特訓を続けた結果、すでに男性の部隊を上回った力を身に付けていると思っていたので、この結果には少し驚いた。


 まあ、現状で互角近くまで仕上がっているのなら、いずれ追い抜けるだろう。

 まだまだ、パワーアップの湯は仕込むつもりだからな。


 トウジ隊長の言うような性転換の湯などは、貴重な女体が減ってしまうので論外だが。

 男女の身体性差の枷を取っ払う湯なら作ってもいい。

 その結果、骨や筋肉が倍近く膨れ上がったとしても、11階層の湯の美容効果でマッチョ美人の見た目は維持できるだろうから特に心配はない。


「んで、こいつらは、物資と武器さえあれば26階層までは行ける、と。

 つまり今のトウジ隊長達も、26階層までは行ける力がついてるってことか」


 ……どうも、話を聞いてる限り、25~26階層の敵は、自身の強さが足りないから手が出せないと言うより。

 モンスターにダメージが通らないとか、武器が壊れるから困っている、みたいな印象を受けるな?


 俺は、前世でプレイしていた不思議のダンジョン系のゲームを思い出す。

 あれは、ただレベルを上げて物理で殴るだけのパワープレイで進めているだけだと、大抵は終盤詰まるように出来ている。

 この世界のダンジョンも同じで、身体を鍛えてるだけの対応だと、終盤はどうにもならなくなるバランスになっているんじゃないだろうか……?

 もっとこう、深層を探索させるには、単純な身体強化より、戦略の幅が広がる搦め手を増やしてあげる方が大事なのかな……?


「ねえねえマスター、どうかしら?」


「そうだねぇ、現状でもトウジ隊長達は十分25階層までは通じそうだよ、男性の第1部隊隊長が26階層までたどり着けはするって言ってたからね。

 だから、まだ17階層の俺達のダンジョンは、難易度を気にする必要はないかな。

 ただ……トウジ隊長達はともかく、ユーザ陛下ら貴族達は、一体何階層まで付き合い切れるのか……そう考えると……」


「違う~!! その食べてるお菓子よ、お菓子!!

 ダンジョンの方も大事だけどさ!」


「え? ああ、うん、はい、ごめんごめん」


 俺は、さっきまで適当に食べていた、ペタちゃん創作の謎菓子を、今一度真剣に食べる。

 見た目は赤い棒のようで、かじるとふかふかのパンのような食感ながら、はちみつを直に舐めているような味がする。

 現代日本には存在しなかった食べ物だ。

 ただ、現世に存在していないというだけで、それ以上でもそれ以下でもない。

 これは、単なるふかふか食感のはちみつ棒である。


「う~ん、これはこれで一応、美味しいんだけど、既存の商品の代わりに出すほどでもないかな……」


「またぁ? ずーーーーっとそればっかりじゃない?」


「既存の商品ってやつは、それだけ優れているんだから仕方がないよ」


「ぶー」


 ペタちゃんが不満そうな顔で、ブーたれる。


 飯困らずダンジョンは、現状温泉ダンジョンより盛況だ。

 酒が馬鹿みたいに流行っているし、温泉ダンジョンの温泉を深い階層まで持ち込めば、男冒険者もその恩恵を授かれる状況になった。

 飯困らずダンジョンはこれから暫くの間、滞ることなくどんどんと階層を伸ばすことが出来るだろう。


 今の問題は、その深くなった階層で何を出すか、である。

 

 もちろん、これまで通り既存の現代日本で売られていた商品を出し続けるだけでも、十分に好評は得られるだろう。

 ただ、これらの商品にはひとつ明確な欠点があるのだ。


 それは、そのうち地上の人間も、同レベルの商品を作れるようになってしまうということである。

 

 今の中世レベルの文明から、現代社会の商品に匹敵するものを地上の人間が作り出せるようになるまでに、どのくらいの時間がかかるのかはわからない。

 数十年後か? 100年後か? はたまた200年後か?


 しかし、文明レベルがある程度追いつかれてしまうと、飯困らずダンジョンは途端にお役御免となってしまう。

 文明レベルが追いつかれた場合、どこの誰がコンビニですぐ買えるチョコレートやウイスキーのために、ダンジョンの奥底まで命がけで潜ってこようとするだろうか。


 1000年以上寿命があるダンジョンにとって、これは実によろしくない。

 温泉ダンジョンのお湯を運んで、男湯として使う用途は残るだろうが、それだけでは需要が激減するのは目に見えている。


 だから、地上の人間には絶対に作りだせない、ダンジョンの魔力を駆使しないと作れない、ダンジョン限定の美味しい食べ物を開発する必要があるのだ。


「今のところ、このコーヒーが一番美味しいんだけど、これは人間が飲んだら死ぬからなー……」


 俺は、発光したような輝きを放つ、超高温のコーヒーを飲みながらそう言う。


 昔ペタちゃんが思いつきで作った、飲んだ瞬間激しく気化して発火し、強烈な香りが口と鼻に漂う、超高温のコーヒー。

 これと同レベルの味わいと独創性を持った商品を作る必要がある。

 もちろん人間が食べられるという前提でだ。

 この数百度あるコーヒーは、人間には飲めない、飲んだら喉が焼けて死んでしまう。


「そう言われてもさ~、難しいのよ」


「まあ、急がなくてもいいよ、追いつかれるのはどんなに早くても数十年はかかるだろうから。

 それより14階層、15階層はもう作れるんでしょ?

 ここで何を出すか決めないと……ああ、まだ既存の商品でいいよ」


 温泉ダンジョンの歯が治る湯で、歯が生えるまでの効果を発揮するには15階層の深さが必要らしいから、それを考えても早めに作ったほうがいい。


「14階層は宝石が出やすいとかでいいんじゃない? ケンマの宝石マスターから教わった宝石が余ってるし」


「あー、うん、そろそろそういうのも悪くないね。

 じゃあ14階層は、この宝石がよく取れる階層でいこう」


 俺は、地上で人気があると言われているトルマリン宝石で作られた、ケンマのマスターが作った装飾品を取り出してそう答える。

 地上では、この宝石は人気があるという事を、アウフお嬢様からの手紙……布に書かれていたから手布? に書き込まれていた情報から知っている。


 なぜこの宝石が地上で人気なのかはよくわからないが、こういうモノの付属価値というのは。

 この石を持っていると金運アップとか、魔除けになるとか、子宝に恵まれるとか。

 そういった根拠のない与太話がどれだけ社会に浸透して流行ってしまっているか、そういった事も人気や価値を決める大きな要因なのだ。

 なぜウケているのかの過程は深く考えるだけ無駄である。

 意味不明に流行ってさえしまえば、ただの変な色のチューリップの花が宝石の価値を超える事だってある。


 今、地上ではこいつが流行っているし高く売れる。それだけが全てだ。


 トルマリンなんて、トルマリンパワーによる遠赤外線岩盤浴のデトックス効果をお試しください~、みたいな温泉施設の館内放送で聞いたことがあるくらいなんだけどな……。

 ん、そう考えると温泉ダンジョンとも縁がないこともない宝石なのかな?

 岩盤浴を作るのも悪くないな、裸で岩の床に寝っ転がって汗をタラタラ流している様子を見るのもなかなか……。


「……マスター?」


 ぼーっと、いらないことを考えていたらペタちゃんに、どうしたのマスター? とばかりに呼ばれてしまった。


「あ、ああ、じゃあ、15階層の方では何を出そっか?」


「う~ん……めんつゆ!」


「……めんつゆ?」


「めんつゆよ、あれで何かを煮込んだり、あれで何かを炒めたりすれば、だいたいなんでも美味しくなるじゃない。

 めんつゆは万能の液よ、私はめんつゆの力を信じてるわ、絶対にみんな欲しがると思うんだけど」


 ……なんかペタちゃんが、めんつゆ信者の実家のかあちゃんみたいな事をいい出したぞ……。


 でもまあ、めんつゆは、たしかにほしいと言えばほしいモノだけど、それは俺が日本人だからそう思うだけで、ウケるのか?? めんつゆがセパンス王国で?

 さすがにこれは出してみないと、全くわからない。


「う、うん、まあいいよそれで。 ……ただ。」


「ただ?」


「14階層の方がめんつゆで、トルマリン宝石を15階層にしようか……」


 ケンマの宝石マスターが作った豪華な宝石の装飾物を、めんつゆより浅い階層で出すのは、さすがに気分が憚られた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
温泉は月ごとに男女を入れ替えるとか専用の衣服を着るとかすれば男にも開放できるよね。 女性にしか使わせないのは国家の首脳としてはちょっと馬鹿っぽい。
>> この世界のダンジョンも同じで、身体を鍛えてるだけの対応だと、終盤はどうにもならなくなるバランスになっているんじゃないだろうか……? そうか、こっちはこっちで世界のゲームバランスに対して攻略をして…
ダンマスのかあちゃんはめんつゆ信者だったのか Σ( ̄▽ ̄)あ 信者で思い出したがヒガシマルうどんスープ出すのはどうだ! (・・・いや商品名出るのはだめやろメタ的に
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ