追加
さーて、見学の再開再開。
さっき途中で消したモニターをつけると、トウジ隊長達が深層の、歯が治る湯や、武器再生湯、芳香湯、美肌湯などを持ち運んできていた。
「陛下をお連れする前に、ちゃんと効果を確認できる歯が悪い奴は連れてきているだろうな?」
「はい、この娘は虫歯があり、こちらの娘は戦闘で歯が一本折れています」
「そりゃよかった、わざわざへし折る手間が省ける」
当たり前のようにさらっと物騒なことを言ってのけるトウジ隊長に、全員がゾッとしていた。
なんてこと言うんだよこの人は。
「この湯は入る必要はない、少し取ってうがいするだけでいいぞ」
大樽いっぱいに持ち込まれたそのお湯(もうすでに冷えて常温の水だが)をコップで掬い、歯の悪い騎士達がうがいをする。
「お、おおおお? すごい! あっという間に歯のかみ合わせがよくなりましたよ?」
歯並びが矯正されたためか、顔つきも幾分整う。
虫歯も綺麗サッパリと消えていた。
ちゃんと9階層でも効果はあるみたいだな。
「う~ん、歯並びは治りましたけど、折れた歯の再生はしていないようです」
歯が折れているという騎士の娘が、そんな事を言っている。
9階層じゃ歯の再生まではしないのか、知らなかった。
マスターなのに知らないことでいっぱいだな!
モニターに歯の湯の効果を映し出して、何階まで降りれば折れた歯が再生する効果が発生するのか詳しく調べた所、15階層なら再生できるみたいだ。
ふーん、失った部分の再生となると結構深くまで行く必要があるんだな。
うん、マスターはこうやって調べればわかるんだよ、調べればな。
「9階層じゃ歯の再生まではしないのかい? じゃあ、お前は私達についてきな」
「はい?」
「何階なら折れた歯が治るのかの検証がいるだろ? 一階づつ降りながら確認するんだよ」
「えっ、その、私は……その、えっ、9階層で一時的に過ごす任務で……ここに」
歯が折れているという娘は第1部隊に拉致られ、地下に連れて行かれてしまった。
目が助けてと訴えていたが、他の第2部隊は無言で見送ることしかできないようだ。
「えーと、私達は別の湯の、9階層での効果を検証しましょうか……」
連れて行かれた部下のことはみんな見なかったことにして、ヴィヒタ副隊長が通常の業務に戻る。
芳香湯や、11階層の若肌湯を試すつもりということは、ふふふ、入浴タイムかな?
彼女たちは温泉を温め、奥の入浴部屋に温かい湯船を用意し始めた。
「縺ゅl? 縺セ縺滂シ
ねえー、マスター、また鉄ダンジョンコアが来たがってるんだけど?」
「はああ?」
いや待てよ、これから芳香湯や美肌温泉の9階層での検証結果を見る大事な場面で……。
いやまあ、そんなに大事でもなんでもないけどな!
マスターは、そんな検証結果は見なくても調べりゃ分かるんだから!
大事なのは脱ぐ場面であって……。もっともこの副隊長さんの裸なんてすでに何十回見てるかわかんないけどな!
「……うん、いいよ、呼んで」
どう合理的に考えても、鉄ダンジョンコアからの用件より大事な気がしなかったので俺は諦めた。
つい数時間前に会ってた、ドワーフにしか見えないオッサンが目の前にまた現れる。
「おい! この金属、本当にこのナイフの素材なのか? 全然強度が噛み合わねえぞ?」
知らんがな、たぶん強度調整に何かしらの混ぜ物とかしてるんだろ。
純粋なアルミ素材そのままじゃ柔らかすぎるだろうしな。
「柄の主成分がアルミなのは間違いないと思うんですけどね、こちらの製品では何かしらを混ぜ込んで強度をいじっているんでしょう」
「混ぜ込む? ああ、合金か」
お、さすが鉄ダンジョンだ、合金の概念はこの世界でもわかるらしい。
「たとえば、アルミに銅とかマグネシウムをいい感じに混ぜ込んでアレコレすると、こちらのジュラルミンという素材になるんですよ」
俺はジュラルミンのケースを取り出しドワーフのオッサンに渡す。
「……」
「刃先の方は、……チタンじゃなかったのかな? じゃあステンレスなのかな、これ」
ついでにステンレスのインゴットも取り出して渡す。
「……」
ドワーフのオッサンが完全に固まってしまった。
もう、何を言えばいいのかわからないといった様子だ。
「とにかく、私は元々住んでいた世界で開発されていたものを再現して取り出しているだけですので。
このナイフが、どうやってできているのかといった細かいことまでは、正直よくわからないんですよ」
「……なんかもう細かいこと考えるのもしんどいわ。
お前さんは、その合金の詳しい調合知識はあるのか?」
「さすがにありませんね……」
金属だの元素だので習った知識で、今かろうじて思い出せるのは。
日本ポルノ、明日サービス日。(N)(P)(As)(Sb)(Bi)
オスの精液、手にポロリ。(O)(S)(Se)(Te)(Po)
ふっくらブラジャー愛の痕。(F)(Cl)(Br)(I)(At)
みたいな、アホみたいな元素記号周期表の早覚えをして、テストを埋めた事しか記憶にないな……。
そして、テストの穴埋めをしただけで、あれが一体なんだったのかまるで覚えていないぞ。
まったく……なんて役に立たないんだ、学校の授業って奴は。
「……分析して、再現して、そいつをダンジョン魔素で強化するのはワシの仕事……か。
おう、若えの、このジュラルミンとかいうケースももらっていってもいいのか?」
「ええ、はい。
こちらのダンジョンで出すにはコストが高すぎますので、使い物になりませんから」
「そうか、それじゃこっちが礼に高品質な鉄を出してやっても、そっちのダンジョンでは使えねえか。
じゃあ、こいつの礼はダンジョンポイントで払っておくぜ」
そう言うと鉄ダンジョンコアは、ユーザ陛下の大名行列で得られるほどのポイントをくれた。
太っ腹だな。
このオッサンもブグくん同様、ポイントがあまってるんだろうな。
おそらく鉄ダンジョンも、ダンジョンを拡張するためのポイントはあるが。
拡張しても赤字になるだけの段階になってしまっている。
黒字になる範囲の階層のまま身動き取れずに、ポイントだけが増え続けている状態で。
何十年……いや、もう百年以上はたっているのかもしれない。
「それじゃあな、たしかにお前は停滞したダンジョンに変化をもたらしてくれる奴のようだ」
そういうと、オッサンは消えた。
「うわぁ~ずる~い、そんなにいっぱいポイントもらっちゃって~」
料理を作りながら、黙って聞いていたペタちゃんが不満を漏らす。
「いいじゃないか別に、温泉ダンジョンだってペタちゃんなんだからさ」
「いや、まあそうなんだけど~、飯困らずダンジョンも追いつけそうな状況になってきてるんだから、早く追いつきたいの!」
まあ心配しなくても、じきに追いつけると思うけどな。
温泉ダンジョンの湯を、飯困らずダンジョンに持っていく計画がたっている以上。
男の温泉客が、今後飯困らずダンジョンにわんさか来るようになるはずだからな。
そんなことより、鉄ダンジョンのオッサンが帰ったんだから、女騎士の方を観ないと。
俺は急いで女騎士の様子を映し出したが、すでに入浴は終わったあとだったらしく、皆すでにゆったりとくつろいでいた、ちくしょう。






