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「うへへへへ~~~、もう13階層作れちゃった~~~、他国の騎士団がくるとこんなに違うんだ~~」


「というか、騎士だけじゃなく冒険者もすごい人数が来てるよ、酒の効果すごいな」


 俺は生前に、酒をほとんど嗜んでいなかった事を後悔した。

 ウイスキーも、コンビニで一回興味半分で買った事がある、1000円くらいのやつしか出せないからなぁ。

 しかもその一回だけ買ったウイスキー、2回ほど飲んだ後は食器棚の奥に入れっぱなしのままだったわ。


「日本酒の紙パックと違って、ウイスキーは瓶タイプだから重いだろうな……」


 瓶タイプ以外のものも、普通にあるのかもしれないが。

 あいにく俺は、瓶タイプのウイスキー以外は記憶にないから出しようがない。

 なんか、5リットルサイズのペットボトルに入ったウイスキーとか焼酎がスーパーに置いてあったような記憶はあるが。

 あんな物をダンジョンで出すのは、嫌がらせに近いだろう。


 それにしても異世界の人が、ウイスキーだの日本酒だのと普通に言ってるの。

 異世界語翻訳の都合とはいえ少々違和感を覚えるな、日本なんて単語が出てくるわけ無いだろ。

 せめて清酒とか吟醸酒とかの呼び方で……。


 そういや、俺が出したパック酒、清酒なのか吟醸酒なのかを俺自身が知らないな。

 それじゃあ翻訳機能さんも日本酒呼びするしかないな、仕方ないな。

 翻訳を通さなかったら、向こうでは何という名称で呼ばれているのだろうか。


「ねえマスター、結構な人数の冒険者が階段でへばってるわね」


 ペタちゃんのダンジョンは、無駄な広さに溢れているので、各階層へと至る階段もとても長い。

 それを何十本ものウイスキー瓶や日本酒パックを抱えて12階層分登らなくていけないわけだ。

 うーん、地獄すぎる。

 モンスターよりも階段が強敵なのである。

 冒険者のために、この階段は少し改善してあげたほうがいいという事だろうか?


「いいわね~、そうやって体力を限界まで使い果たしなさい、ここで失われた体力は私のポイントになるんだから」


 ペタちゃんはドSであった。


「あっちの人は、道具袋が破れて途方に暮れて泣いてるわね。欲張りすぎよ」


 正規の騎士隊は、糸ダンジョン製の頑強な繊維で作られた、立派な背袋をこしらえているが。

 一般冒険者の持っている道具袋は、布の質が非常によくない、酷いものになると粗悪なズタ袋である。

 12階層まで潜ってくる実力のある、ベテランの冒険者ですらこれなのだから。

 正規軍でもないととてもじゃないほど手が出ない程度には、騎士達が持っている道具は高価なのだろう。

 ダンジョン産の道具の価値がよく分かる。


「あのトウジ隊長達ですらウイスキー100本と日本酒200パックで一度帰還する判断か、こりゃ酒の値段、地上じゃえらいことになってそうだな」


 正直なところ、ここで出したチョコレートや酒類が、地上で、どれほどの市場価値で出回っているのか、俺にはもう見当がつかない。

 おそらくは、平民どころか、下級貴族の口にもロクに届いていないのではないだろうか?


 戦闘部隊と荷物運びの役割を分けるのが堅実なんだろうけど、よほど信頼の置ける関係じゃないとこっそり横領されそうだしな。

 まあ……そんなことを考えるのは、俺達の役目じゃないな。

 俺達ダンジョン運営のやることは、彼らがどんどん深みにハマってくれるダンジョンを作ることだけだ。


「マスターはまだ、新しい階層を作らないの? この前女王と王妃が来て新しく2階層分くらい作れるポイントは溜まってたでしょ?」


 テタ王妃とユーザ陛下の大名行列には、セパンスの貴族女性たちや女冒険者達もこぞってついてきていた。

 ユーザ陛下のご入浴の後ろについていくのが一番安全なので、陛下が動くとセパンスの貴族女性も大半がやってくるのだ。

 温泉ダンジョンの捜索費用の一部は、セパンスの貴族たちが組合を作って支払っているので。

 ユーザ陛下の部隊の進軍と入浴の邪魔さえしなければ、後ろからこっそりついてきて後風呂にあやかることは許可されている。


 金を出してない一般の女冒険者が、大量に後ろをついてくる事も、貴族たちは暗黙で認めていた。

 それはそれで、タダでしんがりの見張りを務めてくれているようなものだからである。

 そのため、ユーザ陛下が入浴に来るたびに、セパンスの女性国民総出で莫大なポイントをくれるようなものなのだ。

 さらに今回は、テタ王妃の率いる女騎士部隊の分、さらに多くの収益があった。


「うん、まだいいよ、俺はもう少しポイント貯めとくから」


「ふーん? でも、早く作ったほうがポイントはいっぱい手に入ると思うんだけど?

 深い階層に来てくれたほうが、ポイントは段違いに多く手に入るし。

 このあたりの階層のモンスターならまだ、騎士団が困ったりすることもないんだから。

 えへへ~、あの隊長さんに早く新しい階層に来てもらって、戦ってほしい~」


 そんな事を話しながら、ぼーっとトウジ隊長たちの様子を見ていたら。

 トウジ隊長は酒をかついで帰還する事になってしまっていた。


「ええー?? ちょっと! なんであの人が帰るのよ!? 桁違いにポイントが入る人なのに~~っ!!」


 酒の回収率が悪かった下位3グループが帰宅という条件を出したものの、自分が下位だったため、トウジ隊長は帰還するハメになっていた。

「そんなに酒の出る運が悪かったのかねえ……?」 と、帰りの階段を登りながら愚痴っていた。


 いや、隊長さん。

 他のみんなは冒険者が持ちきれなくなった酒をチョコで買い取ったりとか、効率がいい方法も取っていただけで。

 戦闘だけで手に入れたという条件なら、十分上位なんですよアナタ。

 なんか、周りの部下たちも今更そんな事実を言い出せずに困ってるじゃないですか。


「やだ~、帰らないでトウジ隊長~~!」


 ペタちゃんも、ブグくんみたいにトウジ隊長ファンになってしまっている。

 強い騎士はダンジョンコアからみたら、経験値の美味しいボーナスキャラみたいな特別な存在なのかもしれない。


 俺にとっては、ユーザ陛下の大名行列で入るポイントがあまりにデカすぎて、個別の騎士のポイント差はあまり気にしてなかった。

 だから、俺にとってのボーナスキャラであるユーザ陛下には、ダンジョンの奥深くまで来てもらう必要があるんだよね。

 14階層の温泉蒸し料理エリアに、ユーザ陛下は来てくれなかったのは残念だ……。

 というか、第2部隊の面々も、あの蒸し料理階層を、料理を楽しむ場としては全く使ってくれなかったのがとても悲しい。


 そうかそうか、そんなにも料理を食べたら一定時間スピードがあがったり、身体が光ったり、手足が伸びたり、浮いたり、発情して身悶えたりするのが嫌なのか!?

 嫌だな!

 すいませんでした。


 まあいい、怪しいお薬研究所としての需要でも、人が長期間滞在してくれるならダンジョンとしては十分だ。

 飯困らずダンジョンが成長して、新しい食材がでてくるたびに、あの階層に研究しにこなければいけないという需要は発生し続けるんだからな。

 だから、飯困らずダンジョンの新しい階層で、新しい食材を探してくれ。

 そして、温泉ダンジョンの14階層に調理しに行くんだ。


 飯困らずダンジョンの成長をこうやってゆっくりと眺めていられるのも、あの料理エリアのおかげと言えよう。

 そして、人間が対抗できない強さのモンスターの出る階層になった時、必ずこの料理バフの研究成果が輝く時が来る!

 だから失敗じゃない、失敗じゃないぞ、うん。


 料理を楽しんでくれなかったのは、失敗……いや、想定外の事だったけど……。

 あと、反省点としては、お料理エリアにいくら長期滞在してもらっても、全然裸が見られないんだ……。

 クソッ、これに関しては、何をどう考えても失敗点と言わざるを得ないな! 次は頑張ろう。


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― 新着の感想 ―
>ウイスキーも、コンビニで一回興味半分で買った事がある、1000円くらいのやつしか出せないからなぁ。 そんな安ウイスキーだったのか。そこそこ上手くいってるコンサルトだったみたいだから客の接待でいいウ…
設置型のテレポートだと使われすぎてポイント赤字とかありそうですし、倒すと浅層にテレポートできるモンスターを配置ならポイント収支をみながら調節できそうですね。
でかいウイスキーのペットボトルだしたら、 アウフお嬢様は絶対容器の方に目をつけると思います。
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