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争え……もっと争え!

 すっかり日が暮れた深夜、王宮にようやく帰り着いた調査隊の二人を、仁王立ちで待ち受けていた上官らしき騎士が怒りの形相で問いただす。


「何をしていたんだ、お前たち? まさかずっと温泉に浸かってサボってたわけじゃ……!?」


 怒りの言葉を発そうとした瞬間、彼女は驚きで言葉を失った。


 綺麗になっている……。

 あきらかにこの二人の。


 肌が。

 めっちゃ。

 綺麗に。


 なっているのだ。



「はい……温泉に浸かっていたのは事実です……」

「しかし……それは、効果を目に見える形でご報告するためです」


 二人の普段の肌の様子を知っていれば、誰にでもわかる。

 そのあきらかな効果効能が……。


 女騎士の同僚たちがわらわらと集まり、そして二人を見た瞬間に全員が息を呑む。


「……ね……ねえ、ちょっと手足や身体も見せてくれない?」


 肌着になり、身体を確認された瞬間、騎士団全体に稲妻のような衝撃が走り、その場にいた全員が同じことを考える。



「「「「これは絶対に私も入らないと!!!!」」」」




 報告を受けた女王陛下も「わらわを即そこに連れてゆけ!」と命をくだしたが。


「お待ち下さい女王陛下!安全性は万全に確認しなければなりません。我々がまず何日か入り、身体に本当に害はないか確認いたしますゆえ、しばしお待ち下さい!」


 と押し留めた。


 安全性の確認はもちろんあるのだが、早々に連れて行った結果そのあまりの効果を実感なされて。

「ここは王家専用の湯じゃ!誰にも渡さん!」

 などと、いきなり言われたらたまったものではない。


 王侯貴族が独占を考えない早いうちに、私たちも入らねばならない。

 この長年の厳しい騎士団生活で、すっかりボロボロになった皮膚や、ガチガチに固まった手足を柔肌に戻さねばならない。


 そうして女騎士たちが大量に殺到してきたのである。









「あの……。なんですかこれ……? マスター?」

「うん……。駆けつけてきたね……。お客さんが……いっぱい」


 まあ来るだろうなとは思っていたが、こんなに来るとは思っていなかった。


 ささやかにいる1階ダンジョンのか弱いモンスターたちも、やかましい邪魔だコラどけ死ね!と言わんばかりに、目を血走らせた怖い女騎士の群れに、瞬く間にぐしゃぐしゃに叩き潰される。


 そして、温泉にたどり着いた騎士たちは大急ぎで素っ裸になり、我先にと温泉に飛び込んでいく。


「……い、色気ねえ~、なんて光景だ、バーゲン品に群がるオバタリアンかよ」


 一応それなりの広さの浴槽を、はじめから用意しておいたつもりではあったが、まさか即、100人近くもの女騎士の集団が殺到してくるとは思っていなかった。


 浴槽はもうギリギリであり、湯船ぎゅうぎゅう詰めに裸の女騎士たちが詰まっている。


「……なんかもう、ちっともエロくねえなこれ」


 早すぎるよ!

 エロくねえな……。ってなる速度が早すぎるよ!

 まだ開店4日目だぞ?どうなってんだよ?

 もう少しくらい、グヘヘヘ……。ウヒヒヒ……。ゲヘヘヘ……。

 な出歯亀気分を堪能させろよ!


「あ……。あああ~見て!見て私のガサガサだった肌が綺麗に…」

「すごい……本当に……。本当に効いてるっ」

「ああ^~……。肌が……。手が……。足が潤っていく~」


 大量の裸の肉が、浴槽ギリギリのぎゅう詰めで「ああ~」「やった~」「うわあああ」と涙を流し歓喜し、蠢いている様子は。

 控えめに見ても女騎士達のエッチでムフフ♥ な入浴シーンなどではなく。

 もはやホラー映画か何かの、怪しい宗教の不気味な儀式シーンにしか見えない。


 全員が入りきれる浴槽サイズにしていて本当に良かったよ、これで入りきれない人が出てきてたら、早く出ろ!いつまで浸かってるんだ馬鹿野郎!と大喧嘩になっていたに違いない。


「これさ、全員入りきれなかったら、こいつら喧嘩し合ってダンジョンポイント稼げたんじゃない? 広げすぎよ」


 ペタちゃんの意見は、全く真逆だったらしい。


「それにしても、いつまでお湯に入ってんのよこいつら……。 まあ長時間ダンジョンにいてくれたほうが、ポイント回収にはいいんだけどさ」


「喧嘩してたらこうはならないだろ?」


「わかんないわね……。 人間の欲望って」


 そして、本日だけで3600ポイントが手に入ったので、明日のために浴槽のサイズを倍に広げておくことにしておいた。




 そして翌日。

 さらに大勢の騎士が駆けつけ、拡張した浴槽でも、広さが足りずにあぶれる女騎士が出てしまった。


 そして、あっという間に怒号が飛び交い、殴り合いの喧嘩が勃発した。


 女騎士たちの素っ裸でのキャットファイト……。

 という言葉だけなら、とてもエッチなシチュエーションなのだが。

 なんだろうな……。 ちっともエッチじゃねえな、ただただ醜い光景だわ……。 これ。


「あ、ホラ!見てよ、どんどんダンジョンポイントが増えてる! やっぱり争ってたほうがいいわよ、いいぞーもっとやれー!殴れー!血を流せー!ぶっ殺せー! 争え……もっと争え!」


 そして殴り合いが始まってからというもの、ダンジョンポイント収入は瞬く間に2万を超えた。



「えーと、一応1万ポイント超えたら2階層を作る頃合いよ、……普通だったらね」


「そっか、じゃあ作っちゃうか」


 女騎士たちが殴り合ってる時に、俺はあらかじめ設計は済ませておいた、第2階層を作成する実行ボタンを押した。



 ー2階層への建設完了まで、あと15時間44分ー



 おや? 一番最初の立ち上げより早くできるのか。

 ありがたい、この時間なら十分、明日やってくる騎士たちの到着までには2階層が完成していることだろう。


「初期はこういう、小まめで素早い更新がとても大事だからな」


 序盤は先の準備を最初からある程度整えておき、適切なタイミングで更新ボタンを押す。

 Web漫画や投稿小説と似たようなものだ。



 ダンジョン開設から5日で2階層の増築。

 これはダンジョンの歴史上、2階層への成長までにかかった最速の日数を、80日以上更新した早さであったという。


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― 新着の感想 ―
経営ゲームの最初期は、リソースを無駄なく使用して更にリソースを増やすサイクルを作るよねぇ(ΦωΦ)
おおメタいメタい
しかしこれダンジョン側の視点だからいいものの、飲み込まれた不純物がポイントにされてるとか血肉や命がポイント効率良いみたいな情報が人間側に把握されたら本格的に物騒な産業が出来上がってしまいそうな… 死刑…
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