新階層作成中
温泉ダンジョンでは温泉熱を使って調理をすることで、バフ効果のついた食事が作れる階層を作る事にしたのはいいが。
「飯困らずダンジョンでは何を出せばいいかな?」
というペタちゃんの提案に、料理にも使えて、なおかつ冒険者達への需要が高いモノがいいかな、と考えると酒になった。
飯困らずダンジョンにダラダラ住み着いてる冒険者も「あとは酒が出れば最高なのによぉ」などと、よく言っているくらいだからな。
しかしこの酒というシロモノは、ペタちゃんには全く好評ではない。
ウイスキーはまずい何か、ビールも苦い何か、ワインはまずくなったぶどうジュース、という感想しか持たなかった。
日本酒は、飲めないこともないけど別にあえて飲みたくない。
といった感じである。
理由はなんとなくわかる、魔法生物はアルコールで気分良くなれないし、現世の俺も酒にさしたる興味がなかったからだ。
ペタちゃんは俺の記憶を元に食欲の感覚を作り出しているのだから、味覚がある程度自分に近くなってしまう。
だからとりあえず酒の良さをどうにか伝えるために、日本酒を使ってアサリの酒蒸しを作ってあげた。
「うわっ、これ美味しい」
と言ってくれたので、飯困らずダンジョンに日本酒を出すことは了承してくれた。
瓶で日本酒を出すと重たそうなので、上にプラスチックのちっこいキャップが付いている紙パック日本酒を出すことにした。
……セパンス王国の民の口に、日本酒って合うのかな。
まあ、そんな事を考えてもわからない、飲んだときの反応や評判を見るしかないな。
「じゃあ、新しい階層作って、と、はい実行」
-完成までアト122時間33分-
うーん、14階層ともなると、完成までずいぶんかかるようになってきたな。
「マスター、飯困らずの方もできたけど、こっちも新しい階層ができるまで90時間くらいかかりそうだから、私は意識切るね~」
ペタちゃんは、ダンジョンの構築が終わると、さっさと意識を切ってしまった。
どうせ俺の方も、122時間止まるんだからマスターも寝るんでしょといった感じなのだろう。
ふむ……
久しぶりにひとりのお時間になったので、しばらくひとりで遊んで(意味深)から俺も寝た。
うむ、泡風呂階層はやはりいいな。
おやすみ。
♨♨♨♨♨
「ねえマスター、起きて起きて」
んん?
意識が戻ると同時に、ペタちゃんが俺の顔をぷにぷにと突っついていた。
モニターをとり出してダンジョンの情報を表示してみると。
-完成までアト1時間12分-
と表示されていた。
「あれ、なんだよ、まだ出来てないじゃないか」
完成よりちょっと長く意識を切っておく予定だったのに。
ペタちゃんが先に起きて、俺を途中で起こしたのか?
「何? なにかあったの?」
「うん、武具ダンジョンがこっちに来たいって言うからさ、どうする?」
「あー、ブグくん? いいよ、呼んで」
ペタちゃんが、むにゃむにゃとなにかを念じると、眼の前の空間がねじれて、ブグくんが目の前に現れる。
「おーーーーい!!! セン! なんなんだよ!! とうとう食欲っぽい感覚が出てきたからさ!
食事を食べてみようと思って、飯コアに連絡とったら意識切ってるし! 数時間おきに連絡しても全然起きてこないし!
もやもやした解消できない欲だけ抱えて何日もだよ!? これじゃボクが馬鹿みたいじゃないかっ!」
出てきた途端に、ブグくんはうるさく文句を言う、知らんがな。
「ああ、悪い悪い、じゃあはいこれ、あんぱん」
適当にあんぱんを作り出して渡すと、ブグくんは、もそもそとあんぱんをかじり始めた。
未知の感覚に考えを巡らせるような顔で、時折首を傾げながら、ゆっくりと食べていた。
「で? なによ武具ダンジョン。 ただ何かを食べに来ただけなの?」
「………。 今、食事ってものを理解してる最中なんだから質問しないで」
ブグくんは目をつぶって、一口一口ゆっくりと味や、食事の感覚を理解しようとしているようだ。
このあたりは食べるのを覚えたばかりの頃のペタちゃんと一緒だな。
「ペタちゃん、俺達もなにか色々作って食べようよ、どうせあと1時間は新しい階層も出来なくて、暇だしさ」
「そうね、今から私がいろんな食べ物を作るから武具ダンジョンも食べていきなさいよ、あわてずに ゆ っ く り と食事を理解していけばいいと思うわ」
……あいかわらず、ペタちゃんはブグくんからポイントをせしめることしか考えてないな。
まあ、ブグくんはもうポイントの使い道がないと判断しちゃってるコアみたいだし。
お金が数値化しちゃった成功者から、キャバ嬢がいい感じにお金をせしめるようなものだろ。
多少もらったところでバチは当たるまい。
俺も、いろいろな食事を作って歓迎してやることにしようか。






