ペタちゃん
「女騎士二人の裸いただきました!ありがとうございます!」
開店して1日目に、ゴツいオッサンが2人調査に来た時は、オッサンの入浴が俺の温泉の最初を奪っちゃうのかよ! オエーとなったものだが。
さすがはベテランの風格に溢れたいぶし銀の冒険者である、毒性を警戒してお湯だけ持って帰り、温泉に入りはしなかったのだ。
なんという冷静で的確な判断力なんだ!
偉いぞ!流石だ!ベテランっぽいオッサン! 帰っていいぞ。
俺は、そんなしょうもないことを考えながら、マスタールームでやってくる冒険者の姿をモニターから眺めていた。
そして、今日!ついに念願の女騎士が調査に来てくれたうえに、温泉にしっかり入ってくれたのだ!こんなに嬉しいことはない。
「はぁ~? 侵入者の姿や位置をリアルタイムで映せるとか、なんなんですかこれ? わけわかんない……便利すぎる……なんなのよ……」
レーダーも監視カメラの概念もない異世界人、……いや、異世界コアにとっては、リアルタイムでマスタールームから冒険者の様子を映像で眺める、なんて行為は理解不能の境地らしい。
普通はダンジョンの見取り図に現在侵入している冒険者の人数や、動かせるモンスターの種類と数、程度の情報が書かれた用紙を出すのが関の山だとか。
侵入者の会話内容などを知ろうとすると、莫大な量の本になって出てくるので正直読みたくないという。
うーん大変だねえ、異世界のダンジョン経営者諸君。
「ねーペタちゃん、とりあえず序盤はこんなもんでいいの?」
「まあ最初のダンジョンは実入りがどうしても弱いからね、迷い込んできた野生の動物が主な収入源だったりするわね。
あとは、ド素人冒険者の練習場として使われたり、どっかの国の兵士が管理目的で在駐してくれたらすごくラッキーね。
あと、外から入ってきた不純物は、何でもかんでも飲み込んでポイントに変える性質がダンジョンにはあるから、街から出るゴミを捨てる場所として使われると大ラッキーって所かしら」
ゴミ捨て場扱いされるのが喜ぶことなのか……? すごい感覚だ。
ちなみにペタちゃんというのは、俺がつけた名前だ。
名前を聞いたら、ダンジョンコアに名前なんてない、と言うから俺がつけた。
ぺたんこ胸だから、ペタちゃんだ!
最初に名前を言った時は、なんか嫌~な響きがするからヤダ……。って言われたけど。
俺の世界で、ペタとは容量…つまり大きさを表す言葉!
メガ……ギガ……テラ……と、1024倍ずつデカくなっていって、テラの次がペタだ。
つまり、とてつもなく巨大であるという意味だぞ!
と言ったら「私はペタですマスター!」と、元気よく返事をしてくれた。
というわけで彼女はペタちゃんだ。
可愛いね。
「それにしても、さすが四六時中鎧を着込んで戦う冒険世界……汚い肌だな……。」
女騎士たちの入浴を勝手に覗きながら、こんな事を言うのも失礼極まりないが、実際問題汚いのだ。
おそらくこの世界では風呂というものが日常的でもなく、通気性も最低な鎧を着込んで、四六時中炎天下を闊歩し続けているような生活を平然と繰り返しているのだろう。
現代日本人の感覚から見れば、肌が荒れているという次元を超えて、ワイルドすぎる生活で肌が変質している、といったレベルである。
こんな肌質をした女性など、少なくとも前世で見たことはない。
しかし!このような肌荒れに悩む方こそ最高のモニター!わが美肌温泉のお客様として最適な存在である、ぜひぜひ丁重に綺麗になってもらって帰っていただきたい。
それでこそ、この温泉ダンジョンの宣伝になるというものだ。
それにしても数時間はずっと入り続けてるな、大丈夫か?こいつら。
……あーあ、やっぱりのぼせて岩の上に裸でぐったりしちゃったじゃないか、丸出しですね、ありがとうございます。
俺は、丸出しの身体を拡大して隅々まで肌を眺める。
……これは美肌温泉の効能の確認であり、卑猥は一切ない、いいね?
こんな事してたら、ペタちゃんが白い目で見てくるかも……と思ったが、別になんということもない顔をしてこちらを見ているので、ダンジョンコア的にお風呂の覗き見は何も問題のない行動のようだ。
「おお……すごいな……。あきらかにゴツゴツのパリパリだった皮膚に、潤いがちゃんと戻ってきている……。これなら効果を実感できてもらえたはず……。」
まあ、数時間のぼせるまで入ってくれた時点で実感してくれてるよな。
これなら、何度だってリピートしてくれるはずだ……たぶん。
「最初に来た冒険者風オッサン二人の調査と、この二人の女騎士ちゃんの調査で増えたダンジョンポイントは、230。
湯の生産ポイントを考えると、収益トントンってところかな」
「あのさあ、マスター……。やっぱりこれ、お湯にポイント使いすぎじゃないの?
初期のダンジョンって、本当にゴミだからね?
最初の調査隊みたいなのが、数回調べたあとは、だいたいほっとかれるからね?
今の調査隊が来る段階で、支出がトントンってヤバいわよ?
序盤で行き詰まって2階層を作れないと、そのまま終わりなのよ?
ねえ!わかってる!?」
「いや……大丈夫だ……。この様子なら、必ず人は来る……何度でもな」
「ほんとに~? ただお湯に入りに何度も~? わっかんないな~???」
全然意味がわかんない、そんな顔で俺を見るペタちゃんだが。
その困惑の中にも、こいつなら何かやってくれそう、そんな期待感も漂う雰囲気が表情から見え隠れするのは。
このあまりに便利なウインドウ表記による、お手軽ダンジョン製作の様子を見ているからだろうか。
「まあ安心してくれ、絶対に来る……」
そしてその翌日には、それは実現した。
100人近い女騎士たちがダンジョンに押し寄せてきたのだ。