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戒めの剣

「なんだかさー、人間に助力を頼んで大きくなってるダンジョンが増えたよなー最近、でもボクを超えたやつはまだいないっ!」


 ……なんだろう、ただ自慢しに来ただけなのかこのショタガキくんは。

 おうそうかよかったな、がんばれ武具ダンジョン、お前がナンバーワンだ、じゃあ帰って、どうぞ。

 とか言おうと思ったが、なぜか身体がピクリとも動かなかった。

 それと同時にペタちゃんが脳に直接声を送ってきた。


「マスター、こんな大きいダンジョンから話しかけられてると、いーーっぱいポイントがもらえるのよ、自慢話でもなんでもいいからとにかく長く話を聞いて、いいわね」


 その言葉と同時に、俺の身体の金縛りが消えた。

 うーん、ペタちゃんってば俺の生殺与奪の権利ガッツリ握ってる事がわかるようなことを時々するから少し怖いな、もう。

 じゃあ少し相手の自慢話か思い出話を引っ張り出すようなことでも言うか……。


「そうだよねえ、武具は戦いが日常の人間が常に追い求める必須の存在、より良い武具を求めて世界中から冒険者と騎士が集まり続けるから世界最大のダンジョンに到達するのも必然だと思うよ。

 どうやってそのダンジョンを思いついて、どういう流れで世界最大まで上り詰めたんですか?」


 まあ、別に聞かなくてもおおよそはわかるが。

 武具が出るダンジョンの需要は考えなくてもわかる、そんなダンジョンいくらでも腕自慢の人間が殺到するに決まっている。

 そしてそのダンジョン産の武器防具でさらに強化された冒険者が奥に奥にと潜り込んでくるのだ。

 武器防具の性能に酔いしれて、調子に乗って奥に潜ってくる奴は勝手に死んでしまうだろうし、思慮深い部隊は生き残って長期に探索を続ける。

 探索者を殺しすぎず、かといって誰も殺さないわけでもなく非常にバランスがいい、ダンジョンのポイント回収においてこれほど効率的なダンジョンは存在しないだろう。

 そして国の軍隊が介入し出す段階になれば、もう人間社会が持てる能力の限界までダンジョンは探索しつくされるはずだ。

 武具ダンジョンが世界最大のダンジョンになったのはコンセプトからして当然の結果としか思えない。


「そうだろう! 最初はほかのコアから宝石とかを出すのが基本みたいな話は聞いたけどさ、でもそれじゃみんなと同じになるよなって思ってそこは避けたんだ」


「あれ? ダンジョン始めたての頃でも他のコアと会話できるのか? ポイントはどうするんだ」


「あー、マスターは知らないのか、ダンジョンをまだ作ったことがない生まれたてのコアとか、ダンジョン潰れちゃったコアみたいに自分のダンジョンを持ってないコアなら無制限に話せるのよ。

 まあ、同じことを何度も聞かれて煩わしくなったコアが、基本は一冊の本にまとめてあるからそれを読めって投げることが多くなっちゃったけど」


「それ鉄ダンジョンのオジキのことだよな、最古参巨大ダンジョンの一角でだいたいのコアはあのおっさんに聞けって言うからさ、聞いてみたら基本の本をボクも渡されたよ、質問があるならそれ読み込んでからにしてくれって。

 まあボクも最大サイズのダンジョンになってからは、生まれたてのコアがよくボクの所に聞きに来るようになったから、めんどくさいしあの本そのまま投げて渡してるけど」


 新人をとりあえずぶん投げられる最古参のベテランか……。

 右も左もわからない新人がいたら、とりあえずあの親切で色々詳しいおっさんに投げとけ、みたいな役割の人が会社にもいたなぁ……。

 ダンジョンにもそんな役割があるとは思わなかった。

 いつも暇なはずのダンジョンがマニュアル作って投げるようになるくらいには、何度も何度も同じこと聞かれてお世話がめんどくさくなってるみたいだけど。


「それでボクはまあ、その基本の本を読み込みながら、鉄のオジキのダンジョンに入ってくる冒険者たちの様子をこんな感じの本にしてずっと読んで研究してたんだよ」


 そうすると武具ダンジョンコアは一冊の本のようなものを取り出した、中を見てみると冒険者たちが探索している様子や戦っているような様子がセリフ付きで描かれた漫画のような本だった。

 コマ割りも吹き出しもなければ集中線もなく、漫画としては一切洗練されていないから、手塚治虫以前の漫画って感じだな、江戸時代の滑稽本みたいだ。


「それでボクは思ったんだ、たしかに人間は金目のものはないかってずっと探しながらダンジョンに入ってきてるから、金品を出すのが正解だってみんなが考えるのはわかる。

 でも入ってくる連中って全員、武器で戦って防具で防御してるじゃん? じゃあこれを出してやるのがいいんじゃないかって。

 全員がすでに持っているものを出してどうするんだって他のダンジョンは笑ったけどな、結果としてはボクが正しかった」


 そして最初の階層で、ナイフを出してやって。

 ナイフを集めに大勢の冒険者が集まって、2階層以降では防具を出して鎧を出して、剣をだして、斧を出して。

 そして深い階層になるたび、より硬い防具、より切れる剣を出していくうちに今の世界最大のダンジョンまで成長したと。

 実際のところただのナイフが出てくるダンジョンでも、それは精錬済みの鉄がいきなり出てくるダンジョンに等しい、武具としての質がどうであれ流行るはずだ。


 冒険者がみんな持っていた食料を出したペタちゃんと基本的な考え方は同じだったわけか。

 ただ、美味しくない携帯食が出てくるペタちゃんのダンジョンと違って、武具は質素なナイフでも需要があまりにもあったというわけだ。


「盾で仲間が敵の攻撃を止めているうちに、後ろから弓でズバッと急所を貫いたり、一人で剣持ってズバッズバッと戦っていく人間の姿をずっと読んでたら、だんだんカッコいいなって思ってさ。

 それでボクも武器と防具を装備してみてるんだよ、どうだカッコいいだろう!?」

 そう言って武具ダンジョンコアは武器を振り回す。


 それでこの勇者君ごっこをしているような、ショタ悪魔くんが出来上がったわけか。

 なるほど、君のことはよくわかったよ。

 最大ダンジョンになれたのは、君が智謀知略に特段優れていたわけでもなく、たまたまコンセプトが人間の需要に噛み合いすぎた偶然だということもよくわかった。

 おそらく人間のマスターが君と同じコンセプトのダンジョンを経営していたら、ダンジョン対策用の武器防具を的確に出すことで30階層くらいまで作れた気がする。


 まあ色々と、新しい話を聞けたのでそれは良しとするが……。

 で? 結局何しに来たんだよお前。

 自慢話も思い出話も終わっちまったじゃねえか。

 なんか色々と鼻息荒く自慢話を話し終えたら、止まっちゃったぞこいつ。

 あれ、俺なにしに来たんだっけ? みたいな顔になってるじゃないか。


「えー、ところで、何の御用で武具ダンジョンコアさんは、俺に話しかけて来たんですか?」


 あ、そうだった、って顔になってショタが説明を再開しだした。


「これだよこれ、コイツらお前のところの国の騎士なんだろ?」


 そういってさっきの漫画もどきのような本を取り出す、中を見てみるとそこには挿絵にトウジ隊長達が描かれていて、20階層の赤の剣がどうだの、27階層の剣がどうだの、温泉ダンジョンがどうといった彼女たちの会話も描かれていた。

 俺みたいにモニターでリアルタイムでみるのとはまた違った感じで面白いなこれ、今度俺も女騎士達の探索を漫画にして出してみよう。


「ああ、たしかにセパンスの第1部隊達だな、コイツらがどうかしたのか?」


「女騎士で深い階層まで潜ってくる奴らなんて珍しいから前から注目してたんだけどな、誰だよこれ? 顔がぜんぜん違うじゃないか! それになんか急激に強くなってるしさ、何があったんだよ!!」


 そう訴える、武具ダンジョンコアは、微妙に悲しいのかなんなのかよくわからない困惑した顔になっていた。

 ああ、そうか。

 こいつは自分が勇者ごっこをするくらいに、冒険者達の探索を漫画形式で読み続けている冒険者かぶれなのだ。

 つまり自分が注目していた漫画のキャラのデザインが、突然変わって再登場してきたから困惑している感情になっているんだな、こいつは。

 はあ?? っていう声が出るくらい、連載中に作画が突然変わった作品を見せられたような感情とでも言うのだろうか。

 その上、トウジ隊長が温泉ダンジョン次第では27階層まで行けるようになるかもしれない、などといった会話をしていたから、このショタコアは俺に興味を持って話しかけてきたということか。

 まあいいか、今度はこちらが温泉ダンジョンについての美容効果からこれまでの経歴を、ゆっくり親切にとても詳しく話してやることにしよう。

 長く話していればいっぱいポイントが貰えるらしいからな。


 そうして俺は、温泉ダンジョンについて、ゆったりと詳しく説明してやった。



「……なんかこう無骨でカッコいいって感じの騎士なのがよかったのにさぁ、何してくれてるんだよ全く」


「それがウチのダンジョンのコンセプトなんだから勘弁してくれないか」


 なんだよ、推し騎士が美人になるのはダメなのかよ、綺麗で強い女騎士もいいだろうが、男のくせにわからないやつだな。

 まあ、自分自身がかわいい顔のショタだからな、自分が持ち合わせていない魅力にこそ心は惹かれやすいものだ。

 厳つい傷だらけの状態の女騎士軍団のままのほうが、このショタコアくんのあこがれの対象としては正しかったのかもしれない。

 ただ、推しが強くなって帰ってきたことには素直に喜んでいたので、喜べばいいのか怒ればいいのかよくわからない感情になってしまい、突発的にここに来たようである。


「この……トウジ隊長達が話してる、マーポンウエア王国の宝物庫に厳重保管されてる門外不出の27階層の剣ってどんな剣なんだ?」


 俺は武具ダンジョンが持ってきた本をパラパラめくりながら、ちょっとした疑問を質問してみた。


「ふっふっふ、ボクが27階層の世界最大のダンジョンになった記念の階層だからね、考えうる限り最高の剣を用意したよ! それがこれだ!」


 そう言って自分が手に持っている剣を高々と持ち上げた。

 ……それ?


 どう見ても、中二病患わせたやつが考えたクソダサデザインの剣がそのまま立体に具現化されたかのような剣だ、名前をつけるとすれば。

 ボクのかんがえたさいきょーの剣

 とでも言うべき品である。


「60…いや80年前くらいだったかな、時期はよく覚えてないんだけど。

 マーポンウエア最強の王国軍が何万人もボクのダンジョンから出た武具に身を包んで27階層を探索しに来たんだけど、ほとんど死んじゃってね。

 その時に得た大量の死体から得た魂や遺品から得たポイントを使って、さっそくこのボクが着ている究極の防具が出る28階層も作ったんだ、でも何年たっても誰ひとり28階まではこれなかったんだ……。

 だからもう28階層は潰しちゃったんだけどさ、今残ってる27階層もごくたまに入ってくる人がいるけど、入ってきてもすぐ死んじゃうし。

 結局27階層もその数万人が乗り込んできた時に剣が1本回収されただけなんだよね、27階層あたりからはいくら武器防具がよくても人間の強さが追いつかないみたいなんだ。

 ていうか門外不出ってなんだよ、世間に公開してないのか、この剣を? だから27階にどんどん人が来ないんだよっ!!」


 そうか、人間の強さが追いつかないのもあるだろうが、たぶんその剣で懲りたんだろうな……。

 精鋭軍の大半を失って得たものがその中二病ソードじゃ、騎士たちは死んでも死にきれないし、国王としても心が折れるには十分すぎるだろう。

 俺は見たこともないマーポンウエアの何世代か前の国王に心から同情した。




♨♨♨♨♨♨




 マーポンウエア現国王、ソド王は、ふと昔の事を思い出した。

 王位継承の儀式を受けたあと、前国王の父と元老院の重鎮とともに、王国宝物庫の最深部に存在する27階層の剣を見ることを許された時のことだ。


 あの時の私は国王になった事よりも、とうとうあの剣を見ることができる資格を持ったことの方に心躍らせていたような気さえする。

 なぜここまで厳重に情報を閉じられているのか、それほどの力を持った剣なのか、世界を滅ぼしかねない危険な品だとでもいうのか。

 その答えを知る時がついに来たのだ。


 そしてこのカッコ悪い剣のために、何万もの騎士が犠牲になり、お祖父様の代で一度国が傾きかけたことを父から伝えられた。

 こんなものを公表すれば、いつか27階層へ挑まんとする他国の騎士たちのやる気を削ぐ結果になりかねないため、この剣の詳細は厳重に隠蔽されたのだ。


 宝物庫から出てきた私は、その夜、姉や弟達にこっそりとあの剣の事を教えてくれないかと頼まれたが、私は頑として教えることはなかった。

「あれは、あの剣はたとえ家族であれど絶対に情報を漏らすわけにはいかぬ」

 憔悴した顔で、私は姉や弟たちにそう答えたものだ。

 それがまた巨大な憶測を呼び、世間では世界を滅ぼしかねない強大な剣を、王は責任を持って封じているなどと好き勝手な事をのたまい続けている。

 あの剣を実際に見るまで、かつての私もそう考えていた事があったように、その力を使って世界制覇を成し遂げる事も夢想していたように。

 なんと愚かしい。


 あの剣を見た時、私の心の奥底でくすぶっていた軍事国家としての野心のようなものは消えてしまった。

 今の私の心にあるものは、国家安寧のため尽くすべしという国王としての義務。

 そうだ、あの剣は何世代にもわたって、こうやって使うべきものなのだ。


 あの剣の名前は、戒めの剣。


 マーポンウエアの王位継承者が、王としての歪んだ野心を戒めるために見ることを許された剣なり。

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― 新着の感想 ―
観光地のお土産キーホルダーよろしく剣に竜が巻き付いてそう それでも切れ味は異次元の格なんだろうな…
ここまで意見がそろってダサいって言われてるので挿絵描く人にプレッシャーが
描き慣れて連載中に上手くなった漫画家もいれば、連載途中で流行りに乗って作風を大きく変えて作品をダメにした漫画家もいたなぁ... ちょっと武具ダンのマスターの気持ちわかったw
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