ダンジョンコア会談
「さーて、第1部隊の強制ブートキャンプによって、戦力もダンジョンポイントも相当に底上げされたな、これなら早めにダンジョン拡張してもいいかもな、もう運動場より地下に潜って戦ってもらうほうが早いレベルアップになりそうだ」
まさか住み込みで、ぶん殴り合いの稽古をずっとやってくれるとは思ってもいなかったので、予想外のレベルアップとダンジョンポイントが手に入った。
2年間ほどの強化期間を設ける予定だったが、これならダンジョンの拡張計画を早めてもよさそうだ。
「ねえ……マスタ~」
この半年間の強化合宿期間中に、地上では各国の軍と要人の受け入れ準備を進めているみたいな話も耳にした。
おそらく第1部隊の変わりようを目にした国々の要人の妻やら、貴族の奥様やらを大勢受け入れる手筈なのだろう。
セパンス王国も他国にダンジョンを開放するダンジョン国家の仲間入りをするということだ。
「マスタァ~……」
「というわけで、予定を早めて、近々12階層を建設しようと思うんだけど」
「うう~……それはいいよ、それは嬉しいんだけどね、マスター、飯困らずダンジョンの方のポイントがあんまり増えてないの~~なんで~~」
これまでずっと楽しそうに料理ばかりしていたペタちゃんが、数ヶ月ほどしてから。
ふと飯困らずダンジョンのポイントをワクワクしながら確認して以来、悲しそうな声をずっと上げていた。
しばらく料理に集中してて、忘れた頃にポイントを確認したらすごくポイントがたくさん溜まってて、そして一気に11階層拡張!
とか、そんな事を考えていたのだろう。
あんまり増えてないポイントを確認したあと、しばらく信じられないような顔をしたあと、ずっと泣き顔になっていた。
うん、君の広々したダンジョンだと、8階層と9階層で冒険者の受け入れは事足りてるのに、更に広い10階層なんて用意してもほとんどの人は探索しないから10階層は存在ごと無駄だよね。
誰もこない階層があると、ポイントが無駄になるからポイントが貯まらないんだよね、知ってた。
「今のところパンもはちみつも低階層で取れるし、コショウを取るにも9階層までで十分だから、10階層に行く理由は全く無いからね、10階層に行かないと取れない新しいドロップアイテムを出すしかないよ」
「むうー」
「じゃあ問題、10階層では何を出せばいいでしょうか!」
「カレー粉!!!」
おお、凄い、さすがに数ヶ月料理に夢中になっていただけのことはある、味、防腐、交易、あらゆる産業的な可能性を考慮してもカレー粉以上の食材は俺にも思いつかない、まさに100点満点の回答である。
「うん、100点満点の回答だ、だからこそそれはダメだ」
「何で!!??」
「じゃあ次の11階層では、カレー粉を超えるものを出したいよね? 何を出すの?」
「………………」
ペタちゃんは答えに詰まってしまった、カレー粉があまりに最終回答すぎてカレー粉を超える回答が出てこないのだ。
ぶっちゃけると俺にもそんなものは思いつかない。
「というわけで、カレーはまだ早い、せめて20階層前後まで成長するまで取っておこう」
「うう~、じゃあ今はどうすればいいのよマスタ~」
「そもそも食材は、生えてる作物やコショウで需要が十分間に合っているんだ、つまりもう一つのものを改良する」
「もう一つのもの?」
「宝石だよ、忘れるなよ」
「あー、はいはい、そういやウチは宝石も出るわね、あれは全然よくわかんなかったから冒険者が指とかネックレスでつけてた宝石を適当に再現してるわ」
「適当?」
「だって透明でつやつやで綺麗な石を出せば、それで人間は嬉しいんでしょ?」
……本当に適当だな、おい。
「それでも8階層の石とかなら、結構な値段にはなってるみたいだけど」
「価値があるって言っても、たぶんコショウ以下の価値だろ? それじゃダメだよ、宝石がでたら喜ぶようにしないと」
今では飯困らずダンジョンで宝石がでたら、ハズレだ畜生という声を上げる冒険者が多い、一応捨てずに持って帰りはするから価値がないわけではないのだろうが、反応から見てコショウのほうがはっきりと価値が高いことになる。
「でーもー、宝石の価値なんてよくわかんないわよ……あ、もしかして、もしかすると、マスター宝石の事もわかるの?」
「うーん、まあそんなに詳しいわけじゃないけど、人間に価値があるって思わせるものなら作れると思うよ」
ペタちゃんがものすごくキラキラした目になって、俺を見てくる。
久しぶりに見る尊敬の眼差しだ。
「あ、でも宝石ってだいたい、他のダンジョンに使用権を奪われちゃってるのよ……たとえば、ルビー、サファイア、ダイヤとか聞いたことある?」
「うん、わかるよ」
「それって、他のダンジョンでもう出してるから使うなって言われてるのよね、例えばルビーダンジョンとか、今では本当にルビーしか出してなくて、地下に潜るたびに透明度とか大きさが上がるだけだから、他所でルビーを出されると困るって言うのね」
「あー、なんか最初の頃に聞いたな、ダンジョン同士で協定結んで、みんなが同じものを出すことによる値崩れでの共倒れを防いでいるんだっけ?」
「うん、だからマスターが出したがってる宝石はどれもすでに使えない可能性が高いの、それにケンマ王国の宝石ダンジョンだったかな? そこが人間の宝石職人のマスターを雇って、まだどこでも産出させてない宝石を片っ端から出していってるって話だから」
うわぁ……さすが人間のマスターだな、やることが汚い。
宝石の種類など何百種類でもあるわけだから、そんなに色々なものをいっぺんに押さえるのはダンジョンポイントの無駄遣いになる、ゆえに全ては取られていないはずだ。
しかし宝石素人の俺は、マイナーな稀少宝石の名称も特徴もわからないから取り出すことができない。
おそらく宝石ダンジョンのマスターは他の人間マスターへの対策として、一般人にもわかるようなメジャーどころの宝石から先に全部押さえていることだろう。
「でもさ、どうやって調べてるの? そんな他所のダンジョンと被ってるとか被ってないとか」
「私は名称を知ってるだけだから出せないけど、マスターはダイヤわかるのよね? ちょっとダイヤって宝石を出してみてよ」
「はいよ」
俺は周辺の魔素をこねくり回して適当にダイヤモンドを作り上げる、現世にこんな天然ダイヤがあったら石油マネー豊富な国かイギリス王室行きにでもなるんだろうなって感じの巨大なダイヤが出来た。
「あとは、それの情報を元に排出してるダンジョンを紙なりモニターに表示してみるだけでわかるわよ」
モニターにダイヤをドロップ品にしているダンジョンを表示してみると、デビ王国のダイヤダンジョンと、アス共和国の金剛石ダンジョンなど、6つのダンジョンの名前が出てきた。
「6つも被ってるのね、ダイヤは協定ができる前から同じのを出してたダンジョンが多くいたみたい、今は同じものを出したかったら、その6つのダンジョンのコアから許可をもらわないと出せないわよ」
「へー、じゃあダンジョンコアに同じ宝石出していい? って取引をすれば出してもいいんだ、つまり他のダンジョンのコアとは話せるの?」
「ええ、ごくたまに話すわ、でもこれって結構なポイントかかるし、声をかけたほうがポイントを相手に払うことになるわよ」
「電話かよ」
「電話?」
「まあそのあたりの解説はいいや、とりあえず宝石ダンジョンの人間マスターとやらと一度会話がしてみたいな、他所のマスターが何を考えているのかもちょっと興味があるし」
「ケンマの宝石ダンジョンは、今14階層だから……4階層、3階層差か、私だと1時間40万ポイント、マスターだったら1時間20万ポイントで話せるわよ」
長距離通話で値段が上がるんじゃなくて、階層差で値段があがるのか?
なるほど、これは下っ端がどでかいダンジョンに軽々しくアドバイスもらいに話しかけてくるなってことかな。
まあ今のポイント状況なら20万くらい別にどうということもない、一度話してみよう。
「わかった、俺のポイントの方でいいよ、一回宝石ダンジョンのコアやマスターと繋いでくれるかい」
「ん、じゃあ連絡取ってみるね、、、、、、。。。遐皮」ィ縺ョ螳晉浹莉願ゥア縺帙k?」
なんかペタちゃんが、俺に翻訳も出来ないような謎の言語で話しだした。
「繧上°縺」縺溘o螟ァ荳亥、ォ縺ェ縺ョ縺ュ 大丈夫だってさマスター」
空間が歪み、知らない二人が眼の前に浮かび上がる。
なんだか、ギラギラした宝石を全身に身につけた褐色のグラマーお姉さんな悪魔と、シルクハットで紳士服を着た細身の金髪青年だ。
どうやらこいつらがケンマ王国のダンジョンコアとマスターらしい。
話が早いな、もう話せるのか、ペタちゃん以外の奴と話すのは久しぶりだからちょっと緊張するぜ。
「いよう、セパンスの飯じゃねえか、なんか最近調子がいいんだってな!? 俺らの真似して人間マスター入れて良かっただろ! ワハハ!」
「どゥもはじめましテ、セパンスのマスターサン、ワタクシはケンマの宝石ダンジョンマスターデース、以後お見知り置きヲ」
なんか胡散臭い漫画の外人みたいな喋り方する奴だな。
いや……これは魔素によって俺のイメージで翻訳されてる言語のハズだから、俺が勝手に脳内で胡散臭い外人にしてるだけか。
というか呼び出されてるマスターはみんな日本人ってわけでもないのかよ、めんどくさいなおい。
俺より何十年も先に呼び出されたであろうマスター君に。
あの漫画の結末を知りたくないかい? 君のファンだったあの音楽グループの新曲を聞きたくはないか?
知りたかったら、なにか一つ宝石をこっちでも出す権利をくれないかなぁ?
みたいな交渉をするつもりだったのに、いきなり出鼻をくじかれてしまったな、どうしよう?






