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アウフお嬢様と副隊長ヴィヒタ

 私はセパンス王国の女王直属、女騎士団第2部隊、副隊長のヴィヒタ。

 9階層のダンジョンを最初に捜索した女騎士の一人です。


 普段は、ナウサ公爵家をお守りする騎士として、公爵家に在籍させていただいております。

 今、9階層から戻ったばかりの私は、アウフお嬢様から、お庭でお茶を飲みながらダンジョンについて質問されております。


「9階層ダンジョンは広大な草原……ですか」


「はい……。3日ほど隊長どのと二手に分かれて壁伝いに進みましたが、それでも周回できそうにありませんでしたので、引き返しました」


「歩数は?」


「私の部隊の方は、9万4千歩くらいでしたね、装備と荷物と敵との戦闘を考えるとこのくらいの進軍が限界です」


「じゃあ……。 あなたの身長と歩幅から想定すると、移動距離はだいたい67キロってところかしら?」


「…………そうなんですか?」


 ナウサ公爵家の、三女アウフお嬢様は大変聡明なお方です。

 肌の病気痕が原因で、長らく自室に引きこもっておられましたが、温泉ダンジョンの効能により軽度の痕程度にまで回復なされて以降は、積極的に部屋から出て、今ではこのように、私と庭でお茶を飲みながらダンジョンの事を質問してこられるようになりました。


 昔の痛ましいお嬢様のお姿を知っている身からすると、今のお嬢様の元気なご様子は嬉しい限りです。


「天井が見えないとのことですけど……それは霧などで空気が霞がかっているのかしら?」


「いえ……。むしろ視界ははっきりとしていますね……それでも天井が見えません。

 正直8階層から下りてきた長い階段よりも、空はずっと高い気がしました。

 もしかすると、普通に9階層は天井のない空が広がっているのでしょうか?

 ダンジョンの中にはそういった、物理的な常識がズレている階層が、しばしば出てくることもあると聞いたことはありますので」


「…………。ヴィヒタ、その草原に風は吹いてた?」


「風……ですか? ……そういえば、言われてみれば常に無風でしたね。

 ダンジョンの中ですので無風は当然と言えば当然なのですが、たしかに広々した草原として考えると不自然極まりない状況です」


 なぜそんな事を聞くのだろう?

 そしてなぜか、お嬢様はそれを聞いて嬉しそうな顔をしています。



 ー翌日ー


 お嬢様は商人を呼び寄せて、いくつかの商品を注文しておられました。

 一つは近年発明されたと言われる望遠鏡という道具。

 遠くのものを見ることができる不思議な覗き筒です。


 これはわかります、あの広々とした階層では力を発揮するでしょう。

 しかしあの異様な広さでは、かなり焼け石に水だと思われます。


 ほかには糸ダンジョン産の大量の布と紐も購入しておられました。

 そして、王宮の工作職人たちを集めて、何かを作らせようとしていました。

 こんなものでどうするというのでしょうか?


「ヴィヒタは熱気球はご存知?」


 なるほど、お嬢様が何をしたいのか理解しました。

 高く浮かび、そこから望遠鏡で周囲を確認して温泉を発見するということですね?

 しかし熱気球はまだ研究段階の技術で、とても実用に耐えうるものではないと聞きます。

 人を乗せて浮かせることまでは可能なのですが、コントロールがきかずに毎年何人もの死者がでているという話です。


「しかし……危ないですよ? 熱気球は少し風に吹かれるだけで死ぬ危険が…。  あっ」


「そのダンジョンには風が吹いていないのでしょう?」


 そうです……。 風が吹いていない。

 それに人の移動手段、物資の輸送手段としての実験をしている方々とは違い。

 私達は、風の吹かない特殊な場所で、まっすぐ浮いてから周辺を確認して、そのまま下りてくることができればそれで十分なのです。

 風の吹く地上で、狙った地点まで人や荷物を運ぶ移動をする実験と比べれば、桁違いに難易度は低いでしょう。


 気球のパーツをここで作り、分解した運べる状態で9階層まで運ぶ。

 あの広い草原で、気球を組み立て直したのち、高く浮かび上がり望遠鏡で周囲を確認したのち下ろす。

 温泉が発見できなければ、確認済みの範囲外まで移動しまた同じことを行う。

 モンスターも遠くから走ってくる小型の獣ばかりなので、突然の襲撃で気球が破壊される心配はありません。


 空を飛ぶモンスターがいたら大問題なのですが。

 隊長のチームのほうが確認したという、少女の悪魔一体しか目撃情報はありません。

 そしてその悪魔は、こちらを襲ってくる様子はなかったということ。


「……可能。 かもしれませんね」


「可能よ、無風空間で、ただ浮いて、ただ下りられたらそれでいいんだもの」


「それで……。 一体どのくらいの範囲が見渡せるものなのですか?」


「理論上、見渡せる距離は高度次第でいくらでも伸びるんだけど……。

 気球と望遠鏡の性能から考えると、現実的には……。

 3600メートル前後くらいの高度から観測するのがせいぜいと仮定して……。 うーん」


 なんだか、お嬢様がわけのわからない計算式を地面に書いて、なにかを計算しておられます。

 ……私には正直、この計算式が何を示した数字と文字なのか。

 これで一体、何をどう計算しているのか全くわかりません。


「だいたい見渡せるのは周辺200キロちょっとくらいじゃないかしら……?

 ただ温泉のサイズ次第で発見難易度は大きく変わるし。

 何より9階層の草原ダンジョンの天井が無限とも限らない……。

 ダンジョンの地形も、星と同じ具合の球体状に、湾曲してくれているとも思えないから、あまり具体的に見渡せる距離の想定は立てられないんだけどね」


「…………200キロ。 ですか」


 私達が3日で壁伝いに、左右6~70キロほどを歩いても、せいぜい壁から1キロ程度先を目視で確認できる程度でしかありませんが。

 お嬢様の方法ならあっというまに、周辺200キロの探索ということになります。

 徒歩と比べて、あまりにも探索できる範囲と規模が違いすぎます。


 ああ……これならば。

 発見できるかもしれません。

 お嬢様の知恵と発想によって。

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― 新着の感想 ―
一周9日で円周約200kmだから直径65km つまり埼玉県ぐらいの面積から探せって無理ゲー
高度hから見渡せる距離dは、惑星半径をrとするとd≒√(2rh)になるらしい。つまり、この異世界も球状であり、それを人々は認識してるってことか。 h=3600mとd=200kmを代入すると、およそr=…
お嬢様ってばナチュラルボーン頭脳チート
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